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岩井勇気のザ・エッセイ
エッセイとはこれだ。
「ザ・エッセイ」である。
なんてことない日常を書いたもの。
誰にでもある日常の出来事。
だけど、著者の視点がオリジナリティとなって、その人でなければ書けない話になる。エッセイはパーソナリティが如実に現れるものだ。
その点、岩井勇気のエッセイはやっぱり面白い。
例えば、小学生時代の夏休みのエピソード。
ボランティア団体が夏休みの子供達のために企画した『小学生の子供を自然に触れさせて遊ばせよう』という趣旨のイベントに参加させられ、全然面白くなかったという話。
僕は小学生ながらに、この大人は、子供達に夏の思い出を作ったという思い出を自分たちが作るためにやってるんだろうな、とうっすらかんじていたのだった。
『夏休みの地獄の2日間の思い出』と題されたこのエピソードに、岩井勇気という人格が現れている。
うわべの嘘には騙されない。
人の本質をいつも見抜いている。
ゴッドタンでの「腐り芸人」として毒舌のイメージも付いているが、誰もがうすうす感じていることを言語化してくれているだけだ。
相方の澤部と比較して「陰」のイメージがあるかもしれないが、実はハライチは岩井の方が「陽」なのだ。学生時代はサッカー部で人気者。社交的で先輩に可愛がられるタイプなのである。
虚構の仮面を剥ぎ取り、嫌なところを突く反面、愛すべきものは素直に愛する。
『男はつらいよ お帰り寅さん』を観に行ったエピソード。
1作品も観たことがないのに「お帰り」の時に突然居ては、帰ってきた寅さんも「こいつは誰だ?」という話になるだろう。
と言いながら、最後にはしっかり寅さんの魅力に涙を流す。
あぁ、この人は愛されていたんだなぁ。そう思うと涙が溢れた。今日出会ったばかりのおじさんだが、そのおじさんに苛立ち、しかし人の温かみを感じていた。
軽快にただの日常を書いたこのエッセイは、随所に笑いが散りばめられ、たびたび吹き出しながら読み進める。言葉選びとフリオチに「うまいなあ」と声が出る。
この人の日常に何が起きて何を思い、何を話すのか。話を聞きたくなる人だ。
「陽」でありながら「陰」の側面も持ち合わせ、嘘を嫌い人の本質を愛する。とても理想的な人物である。
要するに、ただのファンです。