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中華マカロニ

一期一会と云う言葉がある。生涯で一度きりであると考え、そのことに専念すると云う意味である。ライブ演奏は同じメンバーで同じ会場であっても毎回毎回一期一会だと考えて全身全霊を込めることにしている。いや、そっちの話じゃない。千載一遇と云う言葉がある。千年に一度しかないような素晴らしい状態や機会のことを云う。僕はその千載一遇を逃したのだ。もう数年前のことになる。僕がいつも歩く道の途中にとある中華料理店がある。何度か入ったことはあるくらいのそれ程馴染みではないお店だ。昼時にはランチタイムメニューが書かれた黒板が店の前に置かれている。ある日、僕が通りかかった時、その黒板のメニューの中に確かに見たのだ。中華マカロニ、と書かれているのを。その時は急いでいたので通り過ぎてしまったのだが、僕の心の中にその中華マカロニの文字がこれ以上はないと云うくらいに深く刻まれたのだった。中華マカロニって何だろう。気になる気になるとても気になると思っていつつも、中華マカロニが何であるかを検証することは叶わなかった。ある日からその店はお昼に手書きの黒板を使わなくなり、ふと見ると店名も変わっており、食べ放題の看板が大きく出されるようになったのだ。それでも僕は一度入店して、そのことを訊ねてみたのだった。「以前ランチメニューに出されていた中華マカロニとは何ですか」と。店員さんが厨房に行って聞いてくれたようだが、答えは「わからないね」だった。僕が見たのは幻であったのか。見間違いだったのか。とにかく僕は千載一遇のチャンスを逃したのだ。その時に人生の全てを投げ出してでも僕はその中華マカロニを食べなければならなかったのだ。後悔先に立たず。それ以来僕は中華マカロニの文字に苛まれて生きて来たのだ。寝ても覚めても中華マカロニ。愛しの君の名は中華マカロニ。ああそんなわけで僕は幻の中華マカロニをこの世に召喚することにしたのだよエロイムエッサイム我は求め訴えたり。

サラダマカロニ

まずはマカロニを用意する。これで中華マカロニの半分は達成したことになる。何と簡単なことであるか。問題は中華の方である。中華マカロニを召喚に導くのは中華丼であろう。これも簡単なことである。

中華丼のもと

中華丼のトッピングを用意した。これをご飯にかければ中華丼。マカロニにかければ中華マカロニになるであろう。簡単だ。至極簡単である。

マカロニを茹でる

マカロニを茹でた。数分で出来る。その間にレトルトの中華丼のもとも温めておく。

中華丼のもとをかける

レトルトの中華丼のもとをかける。これで中華マカロニの完成である。何と云う簡単さであるか。案ずるより産むが易しとはまさにこれである。

中華マカロニ

構想数年、制作10分ほど。あまりにもあっさりと僕の眼前に中華マカロニが表れたのだった。この簡単さと素っ気なさであれば『男の手料理』の池田満寿夫センセイにも褒めて戴けるであろうか。

中華マカロニを食らう

ウマウマウー。予想通りの味である。僕が若い頃、まだ実家にいて、その実家の冷蔵庫にはいつも冷凍食品のレトルト中華丼のもとが常備されていて、湯煎して温めてご飯にかければ即中華丼が食べられると云う時期があった。簡単で美味しくてよく食べていたのを思いだした。あの冷凍食品の中華丼もウマかったなと思い、色々な中華丼のレトルトを食べてみようかとも考えたが、結構な種類があってそれを全部試していたら大変だなと思い至ってそれは断念した。

中華マカロニを食らう

これはこれで納得したのだけれど、あまりにも芸がなさ過ぎるように思えた。もうちょっと自分ならではのアイディアは出ないのか。冷食の他の中華系をかけてみたらどうか。青椒肉絲でも回鍋肉でもエビチリでも、マカロニにかければみんな中華マカロニになるのではないか。いやそうするとネーミングが青椒肉絲マカロニとかエビチリマカロニとかになってしまうのではないか。そもそも中華丼の中華部分は五目うまにとか八宝菜とかではないのか。そうしたものの固有名詞はどうして中華と云う大きな括りの中で無名化されてしまったのか。そんな余計なことばかり考えているとまた数年経ってしまう。いますぐアイディアを捻り出せ。ほれほれ。クイッククイック。

有楽町『ジャポネ』のチャイナ塩味

アイディアが出た。有楽町の炒めスパゲティ専門店『ジャポネ』にチャイナと云うメニューがある。チャイナは中華。スパゲティはパスタ。マカロニもパスタ。共通項がたくさんあるではないか。これを模して作れば新たなる中華マカロニに到達できるであろう。素晴らしい。ナイスアイディア。これに思い至った僕は天才ではなかろうか。自画自賛我田引水。そして更にここから手抜きをして行けないだろうか。楽をすることばかり考える。水は高いところから低いところに流れるものだ。

有楽町『ジャポネ』のチャイナ塩味

決め手はザーサイなのである。これは絶対に外せない。他の具はシイタケ、小松菜、タマネギである。どれを省けるか。よく考えよう。

グラタンマカロニ

マカロニは早茹ででないのにした。そうするとこちらのグラタンマカロニになる。すっかり早茹でのサラダマカロニにお世話になっていたが、昔ながらのマカロニはこちらであろう。ちょっと茹ですぎくらいまで茹でて、それを炒めてみたい。

桃屋の味付搾菜

ザーサイはこれでよかろう。ザーサイとは何かと書き出すと長くなるので割愛する。

マンネンしいたけ茶

シイタケは生のものではなく、しいたけ茶を使うことにした。味付けにはこの方が有用であろう。ちなみにこの試作を終えた後、しいたけ茶を愛飲している。何だか落ち着く味なんだよね。

マカロニを茹でる

じっくり時間をかけてマカロニを茹でる。パッケージには茹で時間9分とあるが13分くらい茹でてみた。それでもマカロニはぷるんとしっかりしている。

マカロニを炒める

マカロニをフライパンで炒める。『ジャポネ』だと油脂はマーガリンであるのだが(それも味の大きな決め手である)ひまわり油と胡麻油を合わせて炒めてみた。ここザーサイを入れて、しいたけ茶と塩とコショウなどで味付けしたら良いのではないだろうか。

中華マカロニ・ジャポネ風塩味

中華マカロニ・ジャポネ風塩味の完成である。何だか美味しそうでしょ。

中華マカロニ・ジャポネ風塩味

あまりにも素っ気ないルックスではあるが、まあいいか。小松菜の緑はなるほど偉大であるのだな。

中華マカロニを食らう

ウマウマウー。こりゃいいわ。新鮮だわ。ロングパスタとショートパスタでは味が違う。明確に違うのだ。『ジャポネ』のやわらかくて太いスパをパスタ呼ばわりするのはイタリアの方に大変に失礼かと思うが、ここは長さと形状のことだけを考える。マカロニの食感とジャポネ風の味付けはまた別次元の味わいを召喚したのであった。どこがどう別次元なのか、なかなか文章表現がおぼつかない。申し訳なく思う。

中華マカロニを食らう

マカロニをただ茹でて塩とバターを絡めれば最高であると思ってしまう僕には、こうしてマカロニに手を加えて行くのは抵抗があった。でもこの中華マカロニ・ジャポネ風塩味はなかなかの出来であると自負している。実はまだ続きがあるのだが、長くなったので今回はここまで。続編にご期待ください。って云ってもそんなに期待されてないのわかってます。いいんですいいんです自己満足。最後まで読んでくださってありがとうございます。

末永くがんばりますのでご支援よろしくお願い致します♫