テンション上がるガム
とある男の子が居た。
見た目はごく普通の高校生だが、世間的に言う陰キャというものだ。
毎日一人でご飯を食べ、物静かで常に教室の端っこに座っている。
だが彼には一つ、周りに秘密にしていることがある。
シングルマザーや家が貧困、義理の兄弟が居るなどそんな気難しいものではない。
単純だ。ガム依存症なのである。
だが、ただのガム依存症ではなく異常なぐらいの依存症だ。
朝起きてから夜寝る前まで15個近くは食べる。もちろん学校でも授業中に隠れて食べ、昼ご飯代わりにすることもある。だからマスクは絶対に外せないらしい。
そんなガム依存症の男の子の話だ。
ある日の夕方頃、僕はいつも通り近くのスーパーにガムを買いに行こうと目の前まで行くと「お店の都合により、本日の営業は終了致しました。」という看板がぶら下がっていた。
心の中で「くっそ、だりいな」と思いながらも一駅先の新しくできたらしいコンビニエンスストアに向かって歩いた。
そこにたどり着くと僕は驚いた。今どきのコンビニは赤や青、緑といったのが有名だが、そこのコンビニエンスストアは扉がどこにあるかも分からないぐらい真っ黒であった。なまえも「END」といった奇妙なところだった。
だが僕はそういった奇妙なところが大好きだったため、興味本位でなかに入っていった。
中に入ると、外見は真っ黒だったのに中はレインボーといったカラフルな色だった。たまたまお客はいなかったが店員さんは普通で、売っているものもとくに変わりはなかった。
そのままどんどん奥の方に入っていくと、「特大セール」と書いてあるかごを見つけた。その中には僕の大好物であるガムが大量に入っていた。値段を見ると「4円」と書いていて、「やっす!」と思い興奮気味にパッケージを見るとこれも真っ黒だった。
この店は黒を基調にしているのだろうと思い、なんの疑いもなく10個入りの箱を5個買った。「これだけあれば、十分であろう。」と思いながら会計をし、外に出た。
帰り道に早速食べようと思い、袋を開け口の中に入れた。「そーいえば何味なんだろう」と味わいながら食べていくと、最初はりんごの味がして4分後にはみかん、そのまた4分後にはぶどう、と4分間ごとに味が変わっていた。
僕は「味に飽きないし、ガム好きにはもってこいだろ!」とうれしい気持ちになりながら家に帰った。
次の日、いつも通り学校に行き席に座ろうとすると机には「死ね、キモイ」などの悪口がたくさん書かれ、しまいには椅子に画鋲まで置いてあった。周りはこっちを見ながら笑っている。これがいじめか。いつかは来るだろうと思っていたが、まさか今日だとは。という気持ちで平然と嫌になって帰った。
帰り道に、気分転換のためにガムを食べようとして、口に入れると一瞬で記憶が飛んだ。「あれ、なんでここにいるんだろう」と思いつつもなぜか笑いが止まらない。しまいには、こんな陰キャで何もできない僕がダンスまで踊っている。しかも結構かっこいい系のだ。
僕は、怖いや疑問よりも気持ちが楽しくて仕方なかった。その日はルンルンで家に帰った。
家に帰りガムを口から捨てると気持ちは落ち着いた。「何だったんだろう」と考えながらその日は寝落ちしてしまった。
また次の日、木曜日で学校もあるはずだが、なんとなく昨日嫌なことがあった気がして行く気になれず休んでしまった。
すると、仕事中の父から電話がかかってきて何かと思い電話に出ると「母さんが交通事故で死んだ」と言われ僕は放心状態になり泣き崩れた。
その日から何もかもやる気が出ず学校にも行かずに不登校になった。そのまま時が過ぎ、母のお葬式の日になった。僕は沈んだまま、たまたま目の前にあった。黒いガムをポケットに入れ家を出た。
式中、周りの人が泣いている中僕はここ数日散々泣いてご飯もまともに食べていなかったため、お腹がすいて倒れそうだった。
「そーいえば」と思い、ポケットから黒いガムを出した。
このガムを食べれば、気持ちが明るくなるという思いと同時にまた何かを忘れ、それが母が死んだことだったらどうしようという思いが葛藤し、ガム依存症の僕は「まあ抑えることぐらいできるだろう」と耐え切れず食べてしまった。
それから僕は、何もかも忘れ、式中にも関わらず大声叫んだり笑いが止まらなくなったり、ダンスをしたりと盛大に騒ぎ周りは引いた目で「最低息子だ」「狂っちゃてるのよ、かわいそう」と言われていた。だが続けていた。というより止まらなかった。そこから記憶はない。
父から後日話を聞くと、その時僕は白目をむきガムを口から出しながら倒れたという。このまま食べ続けてたら狂いすぎて死んでいたかもしれない。
恐ろしくなり、もう一度ガムの見ていなかった裏を見た。
そこには「このガムを食べると、どんな辛いことでも忘れられて楽しい気持ちになれます。ただし、個人差があり、物静かな人や辛いことの限度により効果は絶大になります。さらに食べすぎが重なれば、死ぬ可能性大」と書かれていた。そういえば、ガムの値段や味が続く分数にある4、店の名前END
などすべて「死」に関わっていたのかもしれない。
そのことを全部父に話すと、「あそこは昔からあるマンションが建ってて、そんなコンビニエンスストアなんてできてないよ」と言われ、僕は震えが止まらなかった。
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