ビンボー人、離婚する。プロローグ

20年前から始まったストーリー

「土下座しろ」

包丁をちらつかせながら、ニヤニヤ笑った顔が今でも忘れられない。

自分の身体を見下ろしたとき、もはや自分の足さえも見えないくらいお腹が膨らんで出ていた。
私は妊娠7か月だった。

私のお腹の中では、私の、いや”私たち″の愛の結晶である大切な命が育まれていた。

…と思っていたのは私だけだったのかもしれない。


DVのはじまり

私たちが付き合い初めて間もなく、それは唐突に始まった。
「その日は飲み会に行かないで欲しい」
寂しさから放った私のその言葉に反応した彼は、突然、私の頬を殴った。

「俺に指図をするな」

あまりに突然の出来事に私は茫然とした。

何が起きたのかも分からなく、痛みに茫然としている私の頬を
繰り返し
繰り返し
本当に
何度も
繰り返し
殴った。

あまりの痛みに耐えかねた私は

「もうやめてください」
と訴えた。

そうしたら、満足そうな表情を浮かべた彼は

「殴られるのが嫌だったら、二度と俺に指図はするなよ。
これで分かっただろ?」

と、笑みを浮かべて
涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を、彼は撫でた。


復讐を誓った夜

付き合い始めて間もなく始まったDVは、止むことはなかった。
それは結婚しても、私が妊娠しても変わらなかった。

ちょっとしたことで口論になれば、その終着点は話し合いではなく
必ず”力ずく”で決着がついてきた。

あの夜も、そうだった。

出来ちゃった結婚して間もなく
手取りは月々15万くらい。

それでも夜な夜な飲み歩く夫に
私はついに苦言を呈した。

「お金もないのに、こんな夜中まで飲み歩いて。何考えてるの?」

その言葉を放ったが最後、冒頭部分に繋がるのだ。

妊婦の私を殴り飛ばした彼は、転んだ私の背中を蹴ってくる。
私はお腹の子供を守るために、必死にうずくまる。

「もうやめてください」

呻く私に向かって
包丁を取り出してきて

「土下座しろ」

「働いて帰ってきた亭主に歯向かうな。ちょっと飲みに出たくらいでわめくな」

季節は2月の寒い夜だった。
私は、冷たい床に突っ伏す事しか出来なかった。

私を力ずくで黙らせた彼は気持ち良さそうに布団で眠りについた。

私はその寝顔を覗き込みながら
「こいつをいつか絶対に地獄に突き落としてやる」

そう誓った新婚時代だった。





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