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#小説
螺旋の匣(貝の棲み家 #2)
幾度かの長雨を繰り返して、東京は夏入りをした。
久々にからりと晴れた或る7月の日、果帆が買い物を済ませて帰宅すると、家の前に見慣れぬ女が横たわっていた。
女は長い髪が敷石に触れるのにも構わず、からだじゅうの腱が切れたようにだらりと門扉に向けてくずおれている。黒い髪は土埃を吸って白っぽく、唇はかさかさと干からびている。薄肌色の、ぴったりとしたワンピースを着ているためか、遠目に見ると裸のようで、果
短編小説 貝の棲み家
名を呼ばれた気がして目を覚ますと、夕立と呼ぶには遅い雨が軒を静かに打っていた。
頭痛の尾を引く頭をなるべく揺らさないようにして、浴室に向かう。湯船の底に沈殿した冷気を追い払うように、いきおいよく蛇口をひねって熱い湯を出す。急ぎで半分ほど溜め、身体を横たえると、疲れでこわばっていた皮膚が、だんだんと感覚をとりもどす。
浴槽の縁に両足を投げ出し、伸びをした。風呂場の白い壁には、足先の向いたあ