私訳『竹取物語』第3章|読み物としての現代語訳
おことわり
(1) 章の分け方、章のタイトルは独自のものです。
(2) 意訳を含みます。逐語訳ではなく、古文学習向けの現代語訳ではありません。
読む前に知っておいて欲しい言葉
【変化】ここでは、神仏が本来の姿を変えて現れること。
第3章 竹取の翁、かぐや姫を諭す
その様子を見た翁は、かぐや姫に言った。
「我が愛しい子よ。変化の人でいらっしゃるとはいえ、ここまで大きく成長されるまでお育てした愛情は並大抵ではございません。どうか翁の頼みを聞いていただけないでしょうか」
かぐや姫は、それに返して言う。
「どんなことでも、おっしゃっることを承りましょう。自分が変化の者であると知りもせず、本当の親と思っておりますので」
「そう言っていただけて嬉しく思います。翁は七十を越えました。今日、明日に命が尽きるかもしれません。ですから、お聞き願います。この世の人は、男なら女と結婚します。女なら男と結婚します。そうやって一族は繁栄していくものなのです。どうして結婚せずにいられるでしょう」
「なぜ、結婚せずにいてはいけないのですか」
「変化の人とはいっても、女の身であられます。結婚せずにいられるのは、翁が生きている間に限られましょう。あの方たちが長い間お越しになりおっしゃられてきたことを受け入れ、意を決して、どなたかおひとりと結婚なさってください」
「良くもない容姿なのに、相手の心のうちを確かめもせずその気になってしまい、あとで浮気心を湧かれて悔やむことになるに違いない、と心配しております。いかに高貴なお方でも、深い思いを確かめもせずに結婚はいたしかねます」
「そうだと思っておりました。いったい、どのような思いをお持ちの方と結婚したいと考えておられますか。あの方たちの思いは並大抵ではございません」
「どれほど思いが深いかを知りたいというのではありません。ささいなことです。その方たちの思いの深さは、同じくらいのようですから、優劣はつけられそうにありません。五人のなかで、私が望む物を見せてくださった方を私への思いが勝っているとして、その方の妻となりましょう。その方たちに、そうお伝えください」
「それは良いお考えです」と翁は言い、承知した。