森鴎外『舞姫』考察: 【改訂版】豊太郎はなぜ免官となったのか?

以前書いた「森鴎外『舞姫』考察: 豊太郎はなぜ免官となったのか?」が全く筋違いでしたので改めて同じテーマで書くことにしました。変に深読みせずにシンプルな考察です。

■免官となった契機
2つが重なって免官になったと豊太郎は述べています。
(1)官長からの質問の手紙に対して丁寧な回答をせずに、法律の細かいことにこだわるなといった自分の意見を述べるようになった。このために官長から良く思われなくなり、自分の立場が危うくなっていた。
(2)ある留学生が豊太郎の上司である官長に「豊太郎が女漁りをしている」と連絡した。

■官長はなぜ免官させるほどに感じたのか?
契機の(1)、つまり、官長は自分が思うように豊太郎が働かないことに対して機嫌をかなり損ねていた。そこに契機の(2)の連絡が入った。そこで官長は以下のように考えたと思われます。というか、そう考えるように仕向けるような連絡が官長に入ったのでしょう。

豊太郎は仕事もろくにせずに女遊びをする人物となっている

日本の官吏として恥ずべき人物であり、官吏にふさわしくない

免官とすべき

■なぜ、自分の意見を述べるようになったのか?

契機の(1)にある自分の意見をいうようになった理由について考察しだすと数行では済まなくなります。ここでは、ドイツに赴任して現地の生の情報に肌で触れたことで法についてのとらえ方・考え方にも影響した、ということぐらいの理解をしておけば良いでしょう。その影響で豊太郎は、法の精神を理解せずに条文の細かいことを気にするような官長に対してそれではだめだと意見をしだしたと思われます。

■ある留学生は、なぜ豊太郎のことを官長に連絡したのか?
謎なのが契機の(2)。
まず「女漁り」については、豊太郎とエリスの関係を留学生たちが早合点したと豊太郎は述べています。その女漁りをネタにして官長に連絡をした動機は何なのかが問題。

勢力ある留学生らとは豊太郎は仲が良くなかったと豊太郎は述べています。理由としては、豊太郎が他の留学生と一緒にビールを飲んだりビリヤードをしたりといったことはしなかったから。その上、「猜疑(さいぎ)」されるようになった。

では何を「猜疑」したのか?小説内でははっきり述べられていません。ですが、豊太郎にされることを恐れていたことを豊太郎に対してしたのではないでしょうか?つまり、留学生たちの生活態度について問題があることを豊太郎が日本に報告することを恐れていた。彼らは留学して勉強に励むはずが、ビールを飲んだりビリヤードをしたりと遊んでばかりいたのでしょう。そして、もし、報告されれば日本に戻されてしまうような状態・立場だったのでしょう。

そう考えれば、他の留学生が豊太郎の「欲を制する力」をねたんでいたと豊太郎が述べていたことと整合します。

■整理
以上、検討したことを踏まえて整理します。
注意:以下の【事実】とは豊太郎の認識として小説中に書かれているという意味です
・【事実】豊太郎は自制して、遊ばずに仕事に励んでいた
・【事実】豊太郎の自制心が堕落した留学生にねたまれた。そして、豊太郎は彼らから猜疑(さいぎ)されるようになった。
・【推測】堕落した留学生は、遊んでばかりいる状況を豊太郎が日本に報告するのではないかと恐れた。
・【事実】ある留学生は、官長に豊太郎が女遊びをしていると報告した。
・【推測】その報告は留学生が自己保身のために豊太郎を陥れようとしてしたこと。豊太郎が自分らのことを報告する前に豊太郎のことを悪くいって帰国させようとした。
・【事実】その頃、豊太郎は自分の意見を述べるようになり、官長からの質問に丁寧に回答しなくなっていた。そのため、官長から良く思われていなかった。
・【推測】豊太郎が女遊びをしていることの連絡を受けた官長は、豊太郎が質問に丁寧な回答をしなくなったのは仕事をサボって女遊びばかりしているからだと考えた。官吏としてふさわしくない行動であり、日本の恥であり、免官すべきだと考えた。