[日々鑑賞した映画の感想を書く]『東京自転車節』(2021年 青柳拓監督)(2021/9/10記)
久々にポレポレ東中野にて、最終上映を鑑賞。終映後は監督の舞台挨拶があり、珍しくパンフ買ってサインまでもらったw
2020年3月、コロナ禍で仕事がなくなり、奨学金の借金550万を抱えてにっちもさっちもいかなくなった青柳青年27才が山梨から東京に出てウーバーイーツの配達員として働く様子をiPhoneとGoProを駆使して自撮りしたセルフ・ドキュメンタリー。これが滅法面白かった。
所持金8000円で上京し、友人宅を転々としたり、格安ホテルに泊まったり、時にはホームレス同然に野宿しながら緊急事態宣言で閑散とした新宿を拠点にひたすらチャリをこぎデリバリーする日々を淡々と描くうち、勝ち組・負け組が残酷なまで分かれた格差社会の現状が浮かび上がってくる……と書くとシリアスなものを思い浮かべるかもしれないが、青柳青年のどこかのほほんとしたたたずまいと人懐っこいキャラクラーゆえ、深刻さなど感じさせないユーモアたっぷりの作品に仕上がっている。これで主人公が40才50才の中高年だと切羽詰まった感じが前面に出て、ここまで明るく気楽に楽しめないだろう。若いというのはそれだけで希望であり未来でありエネルギーなのだ。総じてゲラゲラ笑って楽しめる。
やらせとは言わないまでもけっこう際どい演出や編集がなされる箇所もあるが、テンポが良く、自撮りもあれこれ工夫を凝らし、監督の大学の映画仲間や高校の同級生、通りすがりのジイさんやバアさんなど愉快な登場人物(土くん最高)との何気ない会話を適宜挟み込んで、自然に見せることでさほど気にならない。なんだかよくできた青春映画を見ているような気になれる。前半は呑気なフリーター日記みたいな趣だが、孤独と荒んだ生活と金欠の中にだんだん先の見えない閉塞感に飲み込まれ、ダークでディープな狂気じみたモノローグへと突入する後半が圧巻。撮影は2020年3月〜6月だが、当時の東京の1日当たりの新規感染者数が100とか200ぐらいで、総理大臣が「大変に厳しい状況である」と深刻そうな顔をして記者会見していて、なんだか遠い昔のような気もする。「ジャパンモデルでコロナを終息させた」なんて得意げに語る総理の姿も登場する。紛れもないこれは2020年の東京のドキュメンタリーだ。
監督の才気を感じる作品で、社会的な視座を持った作品ながら決して声高な政治批判や格差社会糾弾にならないのがセンスを感じさせる。それだけにラスト・シーンはあまりにもあざとすぎて感心しない。それが唯一気になったところ。あと終映後に知人とちょっと話したが、撮影していた4ヶ月間の収支報告を映画内で出したら面白かったかも。
監督は今でも配達員をやっているそうだが、そういう視点を忘れないで今後もいい作品を作ってほしいですね。