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[オーディオ] アナログ・オーディオの楽しみ

 昨年末にEMC設計の電源工事を施工、この1年余りで電源からネットワーク・トランスポートからDAC、アンプ、スピーカーと、音の入り口から出口まで総入れ替えする形となり、オーディオに関してはまずまず満足する領域まで到達したような気がしていました。「これで上がり」というつもりもないですが、ここからさらにグレードアップするのはそう簡単ではないですし、今の音には納得していますから、今すぐ手をつける必要もない。私の場合、リスニングの9割はストリーミングかファイル(データ)再生ですから、ネットワーク・オーディオの整備が最優先事項で、それに大半のリソースを費やしてきました。もちろん光アイソレートとか、Diretta導入とか、まだやれることは残ってますが、ひとまずはオーディオ趣味は一段落かな、と思っていたのです。

 ところがまだまだ残っていたんですね、やれることが。アナログ・オーディオという巨峰が残っていた。拙宅のアナログ環境はこれまでこんな感じでした。
(プレイヤー)DENON DP1300 mk2
(フォノイコライザー)LUXMAN E-200
(カートリッジ)DENON DL301 IIORTOFON Concorde DJs

 アナログオーディオ専門誌『アナログ』で毎号アナログレコード評を書いていますが、前述したようにここ最近はネットワーク・オーディオのほうに傾注していたので、アナログ・オーディオはほぼ手つかずでした。もちろんヴァイナルはそれなりに購入はしていました。好きなアーティストの作品や、ストリーミング等で聴いて気に入り、かつフィジカルで手元に置いておきたいと思うアルバムはなるべくヴァイナルを買うようにしていた。でも常用のDL301 IIの音がイマイチ線が細いと感じていたこともあって、買ってもあまり聴かず「置物」となっていた盤も多かったのです。なのでもう少し太い音のするカートリッジか、あるいはフォノイコライザーがないかと思い、近所の某オーディオ店に軽い気持ちで出向きました。事情を話すと、フォノイコよりカートリッジだろうということになり、勧められたのがオルトフォンのSPU Ethosでした。

 もちろんSPUというカートリッジのシリーズの存在は知ってましたが、音は聴いたことがない。なんとなく古臭い音のする古いカートリッジという先入観があったんですが、この機種は2020年とわりと最近設計されたもので、しかも世界限定500個で、このお店でも最後の一個だという。「限定」という惹句に弱い私は俄然興味が湧いたんですが、その場で衝動買いするには10万超えの価格は高すぎる。単なる情報収集のつもりだった私は、ひとまず話だけ聞き試聴もせず帰宅したわけです。あとで調べたら、どこも品切れ入手困難になって久しく、オークション等では中古が高値で取引されている。つまり新品で、それも定価で買うなら、そのお店にあるものが最後の一個という可能性が高い。しばし考え、今度は試聴用の盤を持参して(コーネリアスと宇多田ヒカル)その店に出向き、Ethosではないですが同じSPUの別の機種、それからSPUとはほぼ対極の音がするというPhasemationのカートリッジを聞き比べました。つまり昔ながらの低域が厚いピラミッドバランスのSPUと、今のソースにも対応した現代的なバランスのフェーズメーションという対比です。

 これはかなり迷いました。コーネリアスはSPUとフェーズメーション、どっちもそれぞれ味がある。宇多田は明らかにフェーズメーションがいい。しかしお店にあったビートルズ「アビー・ロード」ではSPUの圧勝でした。つまり古い録音はSPU、新しいものはフェーズメーション。この結果はある程度予測ができましたが、SPU Ethosは設計が新しく、SPUの中では現代のワイドレンジなソースにも対応しているというお店の説明、そしてデジタル録音の最新音源を現代的なバランスで聴くならネットワーク・オーディオでいいわけで、新たにカートリッジを買うならアナログをアナログらしく鳴らすSPUの方がほうがいいだろうという判断で、SPU Ethosの導入に踏み切りました。プレミアがついているレア品なのに、少し定価から値引きしてくれたのは有難かった。

SPU Ethos



(カートリッジ)ORTOFON SPU Ethos

(プレイヤー)DENON DP1300 mk2

(フォノイコライザー)LUXMAN E-200

(アンプ)FUNDAMENTAL PA10

(スピーカー)FYNE AUDIO F1-5

 小さなカートリッジを変えるだけでここまで音が変わるとは、わかりきっていることとはいえ、すごいですね。意図通り中低域に力のある太い音になって、いろんなレコードの印象が大きく変わりました。しかも現代風のワイドレンジなソースにも対応してるから、最新録音のR&Bなどもいい感じで聴かせてくれる。オーディオ機器を入れ替えるとそれまでさんざん聞き込んでいた愛聴盤が違って聞こえるようになり、片っ端からいろんなレコードを聞き返したくなる、という経験はオーディオ経験が長い人なら誰でもあると思いますが、今の私はまさにそんな状態。聴き慣れたレコードが新鮮に聞こえるのは楽しいですね。これは面白いとばかりに、居間に置いてあってほとんど使っていなかったテクニクスSL1200 mk3をリスニングルーム&書斎に持ち込み、浮いていたDENON DL301 IIをとりつけ、2系統あるフォノイコの入力2にぶち込んで、2台のターンテーブルとカートリッジを切り替えて聴き比べる体制を作りました。SL1200に取り付けたDL301 IIは、意外と悪くない。でもやはりちょっと線の細い感じはあって力強さが足りない。どうしてもDP1300mk3+SPU Ethosに比べると聞く頻度は落ちる。そこで、だいぶ古くなってガタも来てるであろうSL1200を新しいのに変えたらどうだろう、とか考え始めたのです。

DL301 II

 思い立ったが吉日ということで、都内の家電量販店に最新機種のmk7を見に行くことに。音は聴けなかったものの、店員を捕まえていろいろ話を聞きました。

 新しい1200mk7は昔のに比べるとコストダウンでボディが弱く、振動に弱いそうです。DJ用だと振動弱いのは致命的じゃないですかと聞いたら、それはさすがに万全だけど、床が揺れるような大きな振動ではなく微細な振動に弱い。DJ用だから微細なレベルのS/Nの良さは求められてない、でもホームオーディオではその微細なレベルのノイズの少なさが求められるから、お客さんみたいなリスニング用にはむかないのでは、と言うのです。なんでもSL1200はバブル全盛の89年に出したmk3が一番お金がかかってて、それ以降はコストダウン第一になって良くないんだって。まさに私が今持ってるのはmk3ですよ!

 だからmk3よりいいものを求めようと思ったら、現行機種ならmk7ではなくて、ホームオーディオ用に作られた上位機種じゃないとダメなんだと、その店員は言うのです。で、その上位機種もいくつか並んでましたが、mk3と見た目区別がつかないんすよね。mk2以降のSL1200はみな同じデザインで、DJユースだから外見やスイッチの場所、感触を簡単に変えられないのはまあ仕方ない。でもそもそも上位機種はリスニング用でDJユースじゃないわけです。見た目を同じにする必要があるのか。せっかく高いのに買い換えたなら、見た目多少は変わってて欲しいですよね。

 説明してくれた人はどうもテクニクスではない某社からの派遣だったみたいで、話半分に聞いたほうがいいのかもしれませんが、ライバル会社だこらこそわかることもあるでしょうし、それなりに説得力も感じました。いずれにしろmk7、わりと買う気満々で、なんならその場でお持ち帰りしようかぐらいの勢いだったんですが、すっかり買う気が失せてトボトボ帰宅しました。

 そんな顛末をFacebookに書いたら、エンジニアのオノセイゲンさんが耳よりな情報を書き込んでくれました。SL1200のメンテナンス&チューニングをやってくれるお店があって、セイゲンさんのスタジオ(サイデラ・マスタリング)でマスタリングなどで使用するSL1200の調整も、そこにお願いしているんだとか。

 フルメンテナンス&高音質改造で30000円。お店に直接持ち込めばその日のうちに作業は完了する(郵送や配送は受け付けてないそう)。これなら気軽にお願いできる。さっそく持ち込んで、メンテを終えたSL1200mk3が我が家に戻ってきたんですが、これが驚いた。明らかに音が2段階ぐらい良くなっています。抜けが良くなって、ピンボケだった写真がびっしりフォーカスがあった感じ。力強くなって、エネルギーの通りが良くなったというか。この状態でDP1300mk2+SPU EthosとSL1200mk3改+DL301 IIを聴き比べると、定価ベースの総額から言ったら前者の方が全然高いけど、ソースによっては後者の方が良い音がする。ゆったり聞き込んだりする音楽なら前者がいいが、ガツンとくるロックならシャープで立ち上がりのいい音のする後者の方が良いんですね。DL301 IIの公式サイトでの説明を見ると「パンチのきいた迫力サウンド、ビートの効いたサウンドを鮮烈に再現する」とあって、なるほど今まではDL301 IIの良さを十分に発揮できていなかっただけなのか、と気付いたわけです。これは別にDP1300mk2よりSL1200mk3改の方が良い、ということではなく、両者の音質傾向の違いだと思います。そしてSL1200mk3改+DL301 IIのコンビにフェーズメーションの昇圧トランスを噛ませたところ、さらに音が太くなってよい感じに。

つまり現在の我が家のアナログシステムはこんな感じで運用しています。
(システム1)
(カートリッジ)ORTOFON SPU Ethos

(プレイヤー)DENON DP1300 mk2

(フォノイコライザー)LUXMAN E-200

アンプ

(システム2)
(カートリッジ)DENON DL301 II

(プレイヤー)TECHNICS SL1200 mk3

(昇圧トランス)Phasemation T-320

(フォノイコライザー)LUXMAN E-200

アンプ 

 こんな感じの2系統のアナログシステムをソースによって使い分けています。SPUが古いの専門というわけでもないし、DL301 IIが新しいの向けというわけでもない。どちらかといえば音楽のタイプによって使いわける感じで、最近の音楽でもR&Bとかヒップホップは低域に量感があって全体にゆったりとした余裕のあるSPUがいいし、昔の音楽でもガツンとくるロックはDL301が良かったりする。ちなみに昇圧トランスをSPUにかますのは、ちょっと音が太くなりすぎる気がしました。ほんのちょっとですけど。

 こういう風にソースによってカートリッジを使い分けて気軽に音の違いを楽しめるのがアナログ・オーディオの面白いところで、これがネットワーク・オーディオの場合、たとえばDACをソースによって使い分けて音の違いを楽しむ、なんて話は聞いたことがありません。やってやれないこともないでしょうが、お金もかかるし面倒だし、カートリッジほどの際だった違いが出てくるか疑問でもある。私の個人的な感覚ですが、ネットワーク・オーディオやその機器は「道具」っぽい手触りが強く、アナログは嗜好品に近いんですね。道具である限り合理的で機能的で無駄のないほうが気持ちがいい。でも嗜好品は無駄こそが「味」になる感じもある。ネットワークオーディオではノイズはただの雑音ですが、アナログオーディオではノイズは時に「味付け」になったりする。どっちが上とか下ではなく、そういう違いを感じています。

 私の場合、新譜を聞きまくって紹介するのが主な仕事ですから、ストリーミングから遅れて発売になることが多いヴァイナルを聞くという行為は仕事にはほとんど結び付かない。なのでふだんの音楽鑑賞の主がストリーミングやファイル再生であることに変わりはないわけで、ヴァイナル鑑賞の時間が増えたと言ってもストリーミングやファイル再生の時間が減っているわけではなく、要は映画鑑賞とかゲームとかなんとなくぼんやりテレビや動画を見てる時間とか、そういうのが減ったという感じです。つまり音楽鑑賞の時間が、ヴァイナル鑑賞の時間が増えただけ増えている、ということで、これはいいことに違いない、と自分を納得させているところです。これまで持ってなかったヴァイナルを探してオークションや中古盤屋で買うようになり、お金がかかりますが、これは仕方ない(笑)。最近私のinstagramは日々聞いたヴァイナルを紹介する内容になっています。よろしければどうぞ。 

さて、先日行き着けの某オーディオ店(前述のお店とは違うところ)に行って、カートリッジを始めとしたアナログシステムをいろいろ試聴してきました。なかでも驚かされたのは、DS AUDIOの光カートリッジです。

いろんな意味でこれまでのアナログオーディオとは一線を画する音だと思いましたが、価格的にもかなり高い。詳しくはまた書きますが、またいろいろ悩みが増えそうな気配です。


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小野島 大
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