[日々鑑賞した映画の感想を書く]『エルヴィス』(2022年 バズ・ラーマン監督)(2022/7/21記)

 話題のエルヴィス・プレスリーの伝記映画。皆さん絶賛してますが、ウーン、まあまあって感じでしょうか。いい場面もあるけど、首を傾げるところもある。エルヴィス、可哀想な人だなと思うけど、ああなるのは本人の責任も大きいわけで、なにもかもマネージャーを悪者にしちゃって本人はただ無垢の被害者って描き方はちょっと抵抗がある。

 ドラマ的には主眼であるはずの60年代後半から70年代前半のエルヴィスに全く魅力を感じない。私が音楽に興味を持ち始めた頃、エルヴィスはロックンロールのキングと言われながらも、ラスベガスでキンキラの衣装を着て歌う人って感じで、ポップ・ミュージックの最前線とは全く無縁の、時代遅れの全く別世界の人という感じだった。もちろん後追いで50年代、正確に言うと兵役に行く前のエルヴィスはハングリーでギラギラしていて最高にカッコいいことは認識したけど、砂漠の中の虚栄の街であるラスベガスの高級ホテルという王宮にこもって、世の中の流れや音楽の動向と全く関係なく、空虚で無内容な映画に出て、宝石をジャラジャラさせた金持ち相手に歌を披露するだけの後期エルヴィスは、言ってみればーー同時代の(ビートルズなどを含む)少年少女たちを熱狂させたーーエルヴィスじゃないのである。だからこの映画も、一番ワクワクさせられるのは、最初のライブのシーン。初めて見るエルヴィスが腰を振るたびに若い女の子が抑えきれない興奮に思わず立ち上がり、目を輝かせて金切り声を上げる、あのシーンにはエルヴィス登場時の衝撃と興奮と革新性が凝縮していて実に見事だった。エルヴィスの黒人音楽ルーツをしっかりと見せているのも良い。それに比べて後期の彼は出涸らしとしか思えないわけです。もちろん映画制作者は、そうして時代と切り結ぶリアリティを失ってしまったエルヴィスの悲劇を描きたかったんだろうけど、それはエルヴィス自身の保守性も大きかったはずで、悪徳マネージャーに全ての責任をおっかぶせちゃうのはちょっと違うのでは、という気がしました。

 映画的には、とにかく情報量が多い。監督は『ムーラン・ルージュ』の人ですが、音数が多くゴチャゴチャしていてうるさくて、ヴィジュアルもカット割が細かくて速くて目まぐるしい。もちろんそれがライブシーンの迫力やスピード感にも繋がるわけですが、合わない人はいるでしょうね。(2022/7/21記)

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