[日々鑑賞した映画の感想を書く]『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』(2021年 ニック・モーラン監督)(2022/8/24記)
試写の案内をいただきまして、配信での視聴ですが見ました。大変に面白かったです。
英クリエイション・レコードの総帥アラン・マッギー(映画では「マギー」と聞こえる)の半生を描いた劇映画。製作はダニー・ボイル、脚本はアーヴィン・ウェルシュ。
父親に怒られてばかりの少年だったマッギーがロックに目覚め、パンクに出会って大きく人生を変え、やがてクリエーション・レコードを設立し、さまざまなアーティストを世に送り出して、オアシスという「世界一のバンド」を手がけて音楽業界のトップとして政界にまで進出する……というお話。オアシスとかプライマルとかマイブラとかメリーチェインとか有名バンドがガンガン出てくるが、深掘りはされず、主役はあくまでもマッギーなので、それらのバンドは彼の人生のエピソードを彩る存在として、さらりと描かれるのみ。クリエイションに関しては「アップサイド・ダウン」という秀逸なドキュメンタリーが既にあるので、事実関係などはそちらを見ればいいわけで、この作品は劇映画らしく誇張や省略、フィクションも交え、時に時系列を無視して自由奔放にマッギー及びクリエイションの歩みが語られる。
クリエイションも人によって大きくイメージが違うだろうけど、ここでマッギーは終始テンションが高くアッパーな人間として描かれ、映画全体もお祭り騒ぎの高揚が貫いていて楽しい。テンポが良くてガンガン話が進行するわりにわかりやすい(ややエピソードの羅列っぽところもあるが)。私も取材したことありますが、実際のマッギーはスコットランド訛りの素朴で物静かな人で映画の印象とはだいぶ違うし、レーベルも地味なネオアコ作品をコツコツ出し続けるような地域密着の良心的インディという側面も強いが、映画ではほぼほぼ派手派手な面しか焦点を当ててないので、そこはおそらく好き嫌いが分かれるだろう。でもドキュメンタリーじゃなく娯楽映画なんだからこれで正解と私は思う。
特に楽しかったのは、ロックスターを夢見てデヴィッド・ボウイに憧れていた冴えないマッギー少年が、セックス・ピストルズに出会って衝撃を受け、劇的に世界が変わっていくところ。もうワクワクしながら見てました。マッギーは私の少し下だけど、英国と日本の当時の文化的時差を考えればほぼ同じ世代と言っていいと思う。だから彼の気持ちは手に取るようにわかった。彼の経験は私の経験。世界中の同世代のクソガキどもが同じようにパンクに出会い変わった。そんな体験はどこでも、どの世代でも、どんな音楽、どんな文化に会ってもおこりうる。だからこれは英国だけじゃなく、ロックだけじゃなく、万国共通の話なのだ。
まあ特にマッギーが英国の政界に足を突っ込んでいくところとか、英国人でないとピンとこないところはあるかも。でも主人公であるマッギーがとことんダメでクズで、ともすれば「イヤな奴」として描かれる(少なくとも誰にでも愛されるような共感キャラとしては描かれない)のは英国映画らしいと思う。ダニー・ボイルが監督したドラマ版セックス・ピストルズもそうだったけど。でもそれでいいのだ。万人に愛される優等生に世界は変えられない。
私がこの映画でちょっと馴染めないところは、マッギーと両親の関係を描いた部分で、ここで浪花節的というか「いい話」に落ちついてしまうのがちょっと残念。どうせならアホパワーで最後までお祭り騒ぎで突っ走って欲しかった。でもこれも好みの問題でしょう。
とにかくロック、だけじゃない何かに出会って衝撃を受けて人生が変わった、あるいは「変わりたい」と思ってる人ならきっと楽しめると思う。(2022年8月24日・記)
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