ナスノミツル インタビュー:MUGAMICHILLファースト・アルバムに至る道と、これから。
ナスノミツル(b)を中心に中村達也(ds,perc)、ナカコーこと中村弘二(g,samples)という3人からなるMUGAMICHILLは先日ファースト・アルバム『MUGAMICHILL』を発表した。2016年の結成以降、ライヴ中心にコンスタントに活動を重ね、何枚かのCD-R作品をリリースしてきたが、スタジオ・レコーディングされた正式なフル・アルバムは、結成6年目にして今回が初めてとなる。なんとCD4枚組という異例の超大作。第一期・MUGAMICHILLの総集編とも言うべき力作だ。レコーディング/ミックス・エンジニアはリトル・テンポやドライ&ヘヴィのメンバーとして活躍するほか、日本随一のダブ・エンジニアとしてポップからアヴァンギャルドまで幅広く手がける第一人者・内田直之である。ライナーは小野島が執筆した。
一定のモチーフを元に各自が自由なインプロヴィゼーションを展開し作り上げていくMUGAMICHILLのサウンドは、歌も歌詞もなく、ポップ・ソングのお決まりの形式からも自由で、といってありきたりなジャズのインプロヴィヴィゼーションとも異なる、全く独自のダークで静謐で深遠なアンビエント・ドローン音響である。聴き手の想像力次第でいかようにも変容し広がっていくような自由でフレキシブルな音楽性は、じわじわとリスナー層を広げつつある。
以下のナスノミツル・インタビューは2022年7月29日、アルバムのライナーノーツ執筆のために行われたリモート・インタビューを、一問一答形式で再構成したものだ。興味を持たれたら、ぜひライヴに足を運び、アルバムを手に取ってほしい。『MUGAMICHILL』はクラウドファンディングで制作費の一部が調達されており、目標を大きく上回る金額を達成、本作はそのリターン品としても制作・送付されたが、MUGIMICHILLライヴ会場での販売のほか、いくつかのショップで入手可能である。
MUGAMICHILL公式サイト
MUGAMICHILL YouTubeチャンネル
クラウドファンディングのページ「聴くものの魂を揺さぶり癒したい「ムガミチル」衝撃の4枚組みデビューアルバム」
完成された美しい状態を、記録に残しておきたかった
ーー今回のアルバムを作るに至った経緯を教えていただけますか。結成して6年がたった今、しかも4枚組というかなりのヴォリュームです。
ナスノ:今までいわゆる作品はちょこちょこCD-Rという形で出しているんですけど、アルバムは作らなくてもいいかなぁって思っていたんです、結成からずっと。ところがコロナになって少し活動が活発化したんですね、世間の流れと逆に。それでライヴをするたびにだんだん完成度が高くなってきて私の理想に近づいてきて、ある種の飽和点を迎えたような気がしたんです。要するに我々の3人の音楽ってインプロから始まっているんですよ。そこからストラクチャーがあるものを作ろうとして曲を始めたという経緯があるんですけど、一つのところに止まりたくないっていう気持ちが三人三様にありまして。「もう出来上がっちゃったよね、じゃあ違うところで面白いことないかな」という心境の変化が芽生えて、サウンドが変わってきた。もちろんそれがこのバンドの面白いところなんですけど、この理想のサウンドが完成されたところで、記録を残さずに新しいサウンドに移っていくのはちょっともったいない気がしたんです。
ーーインプロ主体の音楽が完成に近づいていくというのは、どういうことなんでしょう?
ナスノ:私たちのやっていることって、簡単なモチーフがあるんですよ。そのモチーフからそれぞれがアレンジしていく。それが3人のバランスとしてものすごく良い局面を得ると、じゃあ次はアレンジを壊してみようじゃないかっていう作業に入っちゃうんですよどうしても。インプロは好きだし、できたものを壊していくのは音楽家としては理想の一つではあるんですけど、ただそこに行く前の状態が非常に美しかったので、その理想の美しい状態をアルバムを残しておきたいという気持ちがムクムクと湧いてきた。それが2年くらい前です。
ーーつまり、特定のモチーフに基づいていろんな発想をどんどん発展させていくインプロ的な作り方みたいなものがあって、そのモチーフの中ではこれで完結したという手ごたえがあったと。
ナスノ:そうなんです。何のためにそのモチーフを作ったかっていうのは、3人の接着剤になるためのモチーフだったんです。
ーーそのモチーフは曲ごとに違うんじゃなくて、共通したものがあったということなんでしょうか?
ナスノ:曲ごとに違いますね。一つはリズムパターンだったり、ある曲ではコードだったりリフだったり。
静謐で確かな熱量がある、心に響くような音楽をやりたかった
ーーなるほど。ちょっと遡ると、そもそもナスノさんがMUGAMICHILLを始めたのは、ナスノさんが主催したインプロのイベントがあって、その時に達也とナカコーが出ていて。それで2人に声をかけたっていうのがそもそもの始まりだったという風にお聞きしました。
ナスノ:そうですね。それで、もう一回この3人でやりたいと思ったので、3回くらいやったかな、そのあと。
ーーどうしてこの3人だったんですか?
ナスノ:あぁ。それはもう音の感触と言ってしまえばそれまでなんだけど……これまでどちらかと言うとジャズよりのインプロヴァイザーの方々と演奏する機会が多かったんですけど、そもそも私はジャズメソッドに対するコンプレックスが非常に強くて。その延長にあるたくさんの音を提示する演奏に対してね。そういう饒舌さを求めれば求めるほど疎外感ばかりが広がって、時間が経つにつれ、自分なりの響きが全然違う場所にあると感じるようになった、それはもっと静的かつ確かな熱量がある、自分がやりたかったのはそんな響きを持ったロックのアプローチだと気がついたんです。
ーーなるほど。
ナスノ:そもそも私のフェイヴァリット・ベーシストとはジャコ・パストリアスなんですよ。
ーー手数のめちゃくちゃ多い饒舌なプレイヤーじゃないですか。(笑)
ナ:えぇ(笑)。なので、何とか追いつこうという気持ちでやってきたんだけど、ここ10年ぐらいちょっと無理だなぁと感じていて。私の中から出てくるものがあまりにも(ジャコ・パストリアスと)ちがうので。ベーシストとしては、そこそこいろんなことができるようになったんだけど、いざ自分が音楽を作ろうって立場になった時に、ジャズ的な、ダイアトニックとかそういうものが自分の中でとても薄くて。1つか2つか3つの音、それだけをシンプルに構築する世界観がめちゃくちゃ美しい、みたいな。自分の中にある、自分がやりたいことはそっちだなっていうことに、ここ10年くらいで気が付いたんですよね。いかにたくさん弾いて、その中で自分の言葉を生み出していくかっていうことばかりやっていたんですけど、自分の中で違和感をだんだん拭い去れなくなってきていたんですよ。それとは真逆な音楽…静謐で、心に響くような音楽をやりたいと思ったんです。その中で達也さんやナカコーさんとかと出会った。達也さんに私のこのモチーフを叩いてもらったら、さぞやかっこいいだろうな、もうちょっと深く突っ込んでやってみたいなと思ったんです。だからドラムのパターンから作っている曲、結構あるんですよ。達也さんとインプロやっていて…少し枠がある方が達也さんはカッコいいなとずっと思ってたんですよね、完全に自由にいろいろ叩いてもらうより。
ーーほう。
ナスノ:3人でインプロばっかりやっていた頃は、達也さんと話していると、達也さん自身が次の音楽を探しているような話ばっかりするんですよ。「次は何をやろう?」「次にどんな音楽をやったらいいんだろう、俺たちは」っていう話にいつもなっていたんですよ。あぁ、この人は中村達也っていうその場所からもっと先に進みたいんだなって感じて。ちょっとした枠組みがあると達也さんはそこからはみ出ようとする。その摩擦熱が一番かっこいい達也像なんじゃないかと、達也さんをプロデュースするみたいな視点と、望んでいた音の質感がうまくリンクしたんですよ。達也さんの「俺は新しい音楽を探しているんだ」というメッセージを受け取って、それは私も同じだった。だから彼の懐に飛び込んでみよう、それに賭けてみようと思ったんです。
ーープレイスタイルに関して言うと、達也って手数多くないですか?
ナスノ:そうだけど、出てくるものがやっぱりエイトビートが基本なんですよ。細かい変拍子をユニゾンしたりとか、そういう意識は全然なくて。音数はたくさんありますけど、根にある部分はすごいシンプルなので、本当に。
ーーエネルギーはすごいけどやっていることはシンプル。
ナスノ:そう。達也さんのドラムがあれば、ギターとベースはシロタマでもそれで成り立っちゃうんじゃないのって(笑)。それは達也さんのドラムをこうすればもっとかっこよくなるんじゃないかっていう私の気持ちとリンクするんですよ。
ーーなるほど。ナカコーはお二人よりだいぶ若くて、ずいぶん違う所から来た人ですけど。
ナスノ:ナカコーさんに関しては、私は彼のバンド(iLL)をずっとやっていたので。彼と私の音楽的なすり合わせみたいなものは、長い時間をかけて割ともう出来上がっていたんですよ。だから違和感は全然なく。私が「こんなのどう?」っていうのを彼はやってくれるし、彼から出てきたものも、私は自分のものとしてすんなりと受け入れられる。
ーー一般にナカコーというと、元スーパーカーの人、非常に優れたポップソングを書いて歌う人という印象もありますが、ナスノさんからみるとちょっと違う像があるということでしょうか?
ナスノ:そうですね。私は実はスーパーカーは全然知らなくて。素晴らしいバンドだったんだなって知ったのは一緒に演奏するようになってからなんですけど、彼は最初から私に寄り添ってくれた。インプロとかノイズとか、そっちのフィールドの話とか、実際に話すことも多かったんです。
ーースーパーカー以降、ナカコーの方からナスノさんの領域に近づいてきた感じがありますよね、たぶん。
ナスノ:あぁ、そうなんですかね。彼の弾くギターが単純に私のツボだったんですよ、最初から。さっきも言ったように、周りは演奏の"歌う"ことに重きを置いている方々が多いですが、それよりももっとシンプルに、一音で世界を広げられるみたいな、そういうプレイができる人だから。そういう意味で私の音楽にもぴったりだと思ったので、彼に声をかけるのは自然なことでした。
一定の枠組みからはみ出ようとする、そのせめぎあい
ーーなるほど。3人がバンドを組むという話を聞いたのは、たぶん2016年の秋ごろだったと思いますが、最初に音源を聞かせてもらったのが「POLAND」(2017)でした。あそこでMUGAMICHILLの基本的な音楽性はある程度できていたのかなと思います。
ナスノ:うん。そうですね。
ーーMUGAMICHILLというバンド名はどういう経緯で?
ナスノ:「MUGAMICHILLっていう名前を付けよう」と達也さんが言ってくれて。
ーーほう、それはちょっと意外です。そういう文学的センスもある。
ナスノ:(笑)いや、達也さんは結構詩的な文章をLINEでポツポツ送ってきてくれますよ。
ーーバンド名の意味はお聞きになられましたか?
ナスノ:いや、聞いてないけどいろんな意味に取れるなぁと思って。
ーーなるほど。最初にMUGAMICHILLについての文章を書かせてもらった時に、歌もない、歌詞もない、音もアブストラクトでいわゆるポップ・ソングとは全然違う、タイトルもシンプルで、おまけにバンド名もそんな感じだし、とにかく情報量が少ない、聴き手の想像力が問われる音楽だと思いました。でも聴き手が想像力を駆使していろいろとイマジネーションを広げることができればすごく面白い音楽だとも感じましたね。
ナスノ:おっしゃる通りで。なんか、自分の中で手ごたえがあったんですよ。だから、無名の新人バンドで行きたいって思ったんですよね。ステージもなるべく真っ暗にして、顔とか見えないようにして、誰がやっているかわからないようにしてやりたいっていう。この3人が集まってやったんだよっていうところではなく、単純に音楽だけで成り立つものが出来そうだっていうところで。
ーーすごくわかります。最初にモチーフを持っていったときに、2人ともすぐに意図をわかってくれました?
ナスノ:ナカコーさんはそうですね、完全に。すぐに私のやりたいことをわかってくれた。私が欲しいと思うものはほぼ出してくれるんですよ。達也さんは"このパターンを俺が叩くの?叩けるかなあ"っていうところから始まる。我々の音楽って基本的にドラムパターンは1種類だけで最初から最後まで突き進むんですよ。普通の曲みたいに、サビが来たらパターンを変えてとかは一切なくて。とにかくひたすら同じパターンでずっと叩き続けて、その中から徐々に展開させられたらいい。達也さんにそういうことをお伝えして。やっていくうちにだんだん体の中に入ってきたみたいで。"これ、面白いやん"って。そのなじみ方が達也さん流というか。
ーーそれもわかります(笑)。
ナスノ:3人のそういう自然な流れがあった。ストレスが全然なくて。そこ違うんだけどな、っていうのが全然ない。それは達也さんちょっと違うよ、これはナカコーさんちょっと違うかなっていうのが全然ないんです。その積み重ねで5年間来ているっていうか。最初のモチーフもほとんど達也さんのドラムをイメージして作っている。たぶん他のドラムの方だったらそのまま再現してくれると思うんですけど、達也さんはそこからはみ出ようとする。その音楽と非音楽のギリギリのせめぎあいみたいな所が、アンビエントからロック的な響きに繋がっているんじゃないかと思いますね。
ーーなるほど。
ナスノ:達也さんのドラムはもちろんリズムなんだけど、同時にメロディもあって歌でもあって、いわば全てがある。だから達也さんが持っている世界観、醸して出しているものを全部受けとめるようなものを作りたいと思った。そこに耐えうるようなものを。そうしたら必然的にギリギリ最小限の音になってくるんですよね。
ーーMUGAMICHILLをスタートさせるときに具体的なロールモデル、お手本とするようなアーティストは頭にあったんでしょうか?
ナスノ:いや、それはないですね。強いて言えば…ブライアン・イーノとかテリー・ライリーとかクラウス・シュルツェ、すごくプリミティブなインド音楽とか、アフリカン・ミュージックとか。むしろMUGAMICHILL自体が1つのジャンルでありたい、と思ってるんです。それまでにない新しい音楽。でもプリミティブな民族音楽の延長線上にもある。そういうものを意識しました。
ーー単にアンビエント、と形容するだけではこぼれ落ちるものが多すぎますね。
ナスノ:うん、そうですね…。えっと、私、けっこうエフェクターを使うようになって。それでメロディを弾きたいと思うようになったんです。メロディを弾く時に、ベースは低域なんで高域の音をどんどん足していくじゃないですか。するとレイテンシーって言って、遅れが出るんですね、重ねた音に。そうすると細かい音が弾けなくなっちゃうんですよ。すると必然的に長い、アンビエントな音になってくる。長い音符で2つか3つの音の繋がりだけで作る。そういう、自分の音色から今の形ができているっていうのは一つありますね。
"自分の音楽は何だ?"という模索があったんです。でもMUGAMICHILLをやることで、ようやく自分の中で確信が持てたんですね
ーーなるほど。話を戻しますと、初期からスタートして簡単なモチーフを発展させていくインプロ主体のバンドとしてのMUGAMICHILLの形がある程度完成したので、それをアルバムという形で残しておきたかったのが、今回のアルバムの意図であると。
ナスノ:そうですね。はい。
ーーこれまで出したCD-Rは、ライヴ音源を元にナスノさんがエディットしたものと聞いてます。
ナスノ:今までのものに関しては、実際の演奏ではない形で世界観が伝わればいいなと思っていたんです。具体的な音ではなくて、聞く人のイメージを喚起させるためのひとつの材料というか、あえて核心的な部分を外したイントロダクション的なもの。曲の一部だけを音源化させたりとか。だから、1曲丸々っていうのはCD-Rにはほとんど入っていないはずなんです。あえて未完成なものを入れている。やっぱりイメージが大事だと思ったんですよ。3人を繋いでいるものは何なのかっていうイメージ。それは実際の音楽と少し違うんです。音楽と非音楽の境目というか。具体的なドレミファソラシドじゃない…そういうものをCD-Rでは見せたかった。
ーーSEとかもいっぱい入っていますし、ある種のコラージュみたいな。
ナスノ:そうですね。それもあります。
ーーMUGAMICHILLの音楽そのもの、バンドや楽曲の全体像ではなく、MUGAMICHILLの音楽を理解するためのきっかけ、とっかかりのようなものをCD-Rでは提示したかった。
ナスノ:そうです。そこから喚起されるイメージみたいなものを大事にしてくれる人に聞いてほしいと思ったんです。
ーーなるほど。今回はそれとはまた別のコンセプトを立てて、全編スタジオできっちり録音をされたということなんですね。
ナスノ:ライヴで聴いていただいて、我々の音楽を面白いと思ってくれた方に向けて作っています。ライヴにきて、"すごいよかった、じゃあCD-R買おう"って、帰って聞いたら"あれ、なんか違う"みたいな溝を埋めたいなと。
ーーそういう意味でも、これまでの集大成という感じが。
ナ:そうですね。曲が旬のうちに、私の中で。ここから先で録ったら、きっとまた全然違うものになって行くんですよね。
ーーということは、レコーディングに関して言えば、これまでやってきたものを出せばいいという感じで、このアルバムだから特別にこういうことをやってみよう、新たにああいうことをやってみよう、というものはなかったということですか?
ナスノ:それはないですね。ただその、ライブは視覚的要素が入っているので。音源は音だけなので、そのギャップをなんとか埋めたいなぁというのでシンセを足したり、達也さんが何回もダビングして重ねてみたりとかしましたね。
ーーということは現在のMUGAMICHILLはこの4枚組アルバムに入っている、アルバムで聴けるMUGAMICHILLとは違うものになっている?
ナスノ:来年以降は変わっていくのかなっていう予感はしています。
ーーそれは具体的に見えているんですか。
ナスノ:いえ、見えていないです。私の中でもこういう経験はあまりないので、ちょっと不安でもありますね。ただ、新しいものはこのアルバムを作らないと出てこないかな、という感じはしています。自分の音楽は何だろう?"と何十年と探しながらベースを弾いてきました。いろんな方のサポートもずっとしてきたし、弾くだけだったらある程度できるようになった。でもそこには必ず"じゃあ自分の音楽は何だ?"という模索があったんです。でもMUGAMICHILLをやることで、ようやく自分の中で確信が持てたんですね。もちろん2人がいなかったらそれに気づけなかった。その確信をさらけ出した時に、そこにいたお客さんが、少なからず面白いとおっしゃってくださった。だからその人たちのためにアルバムを作りたいという思いは強かった。
ーー私がMUGAMICHILLに興味を持ち始めたのは達也やナカコーやナスノさんという音楽家が始めたバンド、という興味が先にあったんです。でも音楽を聴いてみれば、個々のミュージシャンよりも音楽そのものに耳がいく。もちろんこの3人がやってるんだけど、ただ3人の総和だけじゃないプラスアルファみたいなものが感じられる。それがこのアブストラクトで曖昧な余白の中にいっぱい広がっているんじゃないか、という気がしました。
ナスノ:それは嬉しい。そうなんですよ。その"余白"が3人の最重要テーマなんです。そこに誰かが何かを入れていく。ナカコーさん、達也さん、私の歴史みたいなもので余白を埋めていくというか。
ーー聴き手の想像力が問われる、というようなことを言いましたけど、同時に、演奏しているミュージシャンたちの人生そのものもそこに出てくるんじゃないかな、という気がしたんですよ。達也の生きてきた人生、ナスノさんの人生、ナカコーの人生みたいなものが、そこに無言のうちににじみ出ている感じ。
ナスノ:そうなんですよね。私もそう思いますし、そういう音楽でありたいと思っています。
(2022年7月19日、リモートにて)
取材・文 小野島 大