見出し画像

「あなたのために」と「あなたのせいで」を使い分ける人―――外化とは何か

「あなたのために」という自己犠牲的なメッセージは、ある種の人たちによっては「あなたのせいで」という責任転嫁のために利用される。見返りを求める自己犠牲という点では、この行動は条件付きの愛情や依存と関連付けて考えることができる。

自らの行動の動機を他人に預ける人は、何よりもまず自らの選択責任を回避するというメリットを得ることができる。ある葛藤的な状況で納得のいかない判断をしたり、あるいは判断を先延ばしにするのを合理化するために「他者」が利用される。防衛機制の用語を借りれば、このような手段は「外化」と呼ばれるものに分類される。



”私はこうすべきでない”


動機の外化を説明する代表的な例は、問題を抱えながら離婚できずにいる親が子どもに「お前のために」離婚しないでいる、と説明するような状況である。破綻した結婚生活がますます子どもの不幸を積み重ねているのなら、この親は離婚すべきだということになるが、実際には子どもは親が「離婚すべきでない」と考える別の理由のために利用されている場合があり、この場合は子どもの事情が度外視されながら、「子どものために」という大義名分だけが残り続ける。この「利用された動機」は、無意識的なプロセスで合理化されており、実際に親の中では「私が離婚しないのは子どものためである」というのは真実として作用している。このため、この因果関係は逆転して「私の離婚を阻んでいる子ども」という存在への憎悪が蓄積することも考えられる。このようにして「あなたのために」が「あなたのせいで」に転化する。

あるいは、もっと大規模な例でいえば、軍国主義的なプロパガンダに扇動された国民が、内心では葛藤しながらも「国のために」「仕方なく」軍国主義的に振る舞い、残虐な戦争に加担したとする。戦争が終わると、この国民は残虐な戦争に喜んで加担していた「現実の」自分の責任を放棄し、「誰か、あるいは何か」が私をそうさせたのである、と考えるが、この時に「国のために」と美化されていた感情は「国のせいで」という追及的な感情に変化する。


画像1

△自己犠牲は自分の行動の「責任を負わない」



選択からの逃避


これらの例は、外化という防衛が一種の選択をせまる葛藤的な状況からの逃避のために行われている点で共通している。離婚をしたいが、離婚するのは「良い親」のすることではない、と考える親は、「したい」という願望と「すべきでない」という体裁の間を葛藤する。この親は結局、願望よりも体裁のほう(離婚すべきでない)を選ぶが、その判断は「離婚したい」という本来の自分の願望と乖離しているために、この矛盾を解決するために、一種の認知不協和(選択と現実の矛盾を一致させるための合理化)のようなプロセスが起こり、「子どもの存在」がわたしの離婚を阻害している、という因果関係が後付けで形成されるのである。

ここから先は

2,325字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?