香りの記憶
君の名前はずっと忘れずに居たいよ
もうこのフレーズだけで分かる人は同世代。globeのPerfume of Loveは前奏がべらぼうに長い超有名曲です。君の名前も繋いだ手のぬくもりも忘れなくないけど、どうして忘れなきゃいけないの…残るのは香りだけ…というアレ。
そして今回書くのはコレ。
パフューム ある人殺しの物語
公開時に気にはなっていたものの観ることはなく、これっていつの映画だっけと思ったら2007年だってさ。本当?そんなに昔?2.3年前だと思っていたよ。何故この映画を見ようと思ったかの理由はフィギュアスケート・ロシアのアンナ・シェルバコワ選手が今シーズンシニアデビューのプログラムにこの映画のサントラを選んだと発表があったから。シェルバコワ確か14歳とかだから、2.3歳の時の映画じゃん…。
悪臭漂う環境最悪のパリで産み落とされ孤児院で育った主人公は生まれながらにして嗅覚が天才的に優れ、木や花は当然のことながら、鉄やガラスそして遠くに居る人間の香りさえも嗅ぎわけることが出来た。
ある日、町で見かけた女性の匂いに引き寄せられ後をつけ、誤って殺害してしまうんだけど、この素晴らしい匂いをなんとか保存したいと思い、調合技術を学んでいく。
そして最終的に人間の匂いを保存出来る技術を身につけると、初めて自分に調合を教えてくれた師匠の言葉が私たち視聴者の脳裏をよぎる。
昔、最高に素晴らしい香りがこの世にあった。その成分の中の12種類は解明されたが最後の1つがいまだに解明されていない、という話。『香水は12種類の精油から成り13種目の幻が存在する』
そんな言葉を思ってか、それとも彼の本能か、主人公は町に住む美女を次々と殺害し彼女たちの香りを保存し、ついに13人目の香りを混ぜ合わせ、この世のものと思えない程の快楽を感じる香りを作りだしたところで逮捕される。
彼は死刑になる寸前にその13人の香りから作りだした香水を振りまき、人々を快楽へと落とし、誰しもが彼は天使だととひれふせ、まさに“この世の神”となれるアイテムを手にしたんだけど、最後はかすかな香りの記憶を辿って生み落されたパリの市場へと戻って、殺害した13人の香りを全身に纏うと浮浪者達に囲まれ抱きつかれ愛され、夜が明ける頃には彼の姿形はなくなり着衣だけが残っていた…っていう話。
観終わっての感想が非常に難しい。孤児院で育った主人公が愛を探す話とも違うし、猟奇的殺人映画とも違うし、両方の要素があることは間違いないのだけれど、それを“こうだ”と断言することが相応しいのか疑問だ。生まれながらの天才がその才能を活かす為にした少し異常な努力の結果、自分は特異で誰にも受け入れられない孤独なもの、と死んでいく物語をどう表していいものか。きっとタイトルの通り“ある人殺しの物語”が一番相応しい表現なのだろう。ただの人殺しの話。
じゃぁ結果として、この映画を見て感じたことは?という話題になると、重複してしまうが、感想が非常に難しい。主人公が最後に流した涙の理由が私には全く想像がつかない。孤独・後悔・恐怖、色々なものが溢れたと言ってしまうにはあまりに安易すぎる。主人公は香りに囚われてはいた事は確かだが、その理由が愛なのか嗜好なのかも最後まで分からなかった。
香りの記憶というものは私たち人間に色濃く残ることは確かで、あぁ春の匂いを嗅ぐとドキドキするのはクラス替えとか新学期とかそんな思い出があるからだろうとか、昔好きだった人と同じ香水を街で見かけて気持ちがふわふわするとか、いつまでも覚えていたりする。そんな不思議な香りの記憶と同じように、不思議な、つかみどころのない物語だった。
14歳のアンナ・シェルバコワがこの物語をどう表現するのか、今から楽しみで仕方がない。