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反射光

満月の夜

満月の夜だ。
今宵の月はウルフムーンというらしい。
狼男も満月に変身するし満月と狼は相性がいいのだろう。
満月の夜に狼の遠吠えがよく聞こえたのかもしれない。

一週間前

日本セルビア映画祭の東京上映まで一週間になった。
セルビアでの開催の写真を見て規模の大きさに驚いたけれど、東京では座席数が限られている会場になる。
どうやらチケットは一日券でその日に上映される作品を全て鑑賞することが出来るらしい。
最終日の15日も日本とセルビアの作品が並ぶ。

舞台挨拶には僕と、河原幸子、織田稚成の3人で登壇することになった。
どのような質問があるのかもわからない。
もちろんどのぐらいの方が来てくださるのかもわからない。
他の作品を目当てに来る方もきっといるはずだ。
どんな時間になるのか楽しみでもあるし不安でもある。
今も時々肌を何かが走る。
楽しんでいただけることを願うしかない。

映画祭エントリーのルール

映画祭へのエントリーには自分の中で一つルールを決めている。
それはオンライン上映の映画祭にはエントリーしないということだ。
オンライン開催の映画祭はものすごい数があって選出されやすいことは事前に情報として持っていたのだけれど、それはやめにした。
いつかモニターで誰かが鑑賞する時が来るかもしれないけれど、それまではスクリーン以外ではこの作品をかけたくなかった。

理由はいくつかあるのだけれど。
その中でも大事なことの一つがモニターでは物理的に見えないシーンがこの映画には含まれているということだ。
そんなことあるの?と思うかもしれないけれど本当にそうなのだ。
編集時に部屋を暗くしてモニターで確認しても、そこにあるはずなのに目を凝らしてみないとわからなかった。他のモニターでも試してみたけれど同様だった。
スクリーンでは映るはずだと信じて編集するしかなかった。

そもそもモニターとスクリーンは性質として正反対の位置にいる。
モニターはそのものが光るけれど、スクリーンは反射光だ。
電源を落とせば正反対の意味が解る。
モニターは真っ黒になるし、スクリーンは真っ白になる。
電源を落とすということは何も映さないという意味だから正反対なのがわかるはずだ。
光の三原色でRGBの光を合わせたら白くなるけれど、絵の具のRGBを混ぜたら黒くなるのとまったく同じだ。
黒の階層と白の階層に決定的な違いが出る。
巨大液晶スクリーンみたいなものも海外で出てきているようだけれど。

オンライン上映

でも実際にはオンラインでの試写が出来る準備はしてある。
それは映画祭にエントリーしたり、映画館に観てもらうためには現代には必須と言っていい。DVDを送ったりしていた時代に比べればとっても便利な時代になった。
ただどうしても、でもあれは見えてないんだよなといつも思った。
見えることと見えないことで映画の大きな感想が変わるとも思えないのだけれど。
それでも僕自身の中では映画の持つテーマに触れている重要なことで。
それが見えないのはなぁといつも考えてしまうのは仕方のないことだ。

見えないけれど存在しているもの。
僕たちはそういう世界に生きているからだ。

それでもこのオンライン上映が公開へと運ぶ唯一の道だ。

反射光の中で

僕たちがみている世界はほとんどが反射光だ。
大自然の景観だって、太陽が輝いているから見えている。
山は緑に光っていないし、海は青く光ってなんかいない。
太陽光線を吸い取って、反射した光線の波長で色が変わる。
だから夜になれば真っ暗になる。
僕たちが生きている世界は本質的に真っ暗なのだ。
大きな光に照らされて、初めて世界は景観を生み出す。
まるで映画じゃないか。

電気をつけて。テレビをつけて。スマフォをみて。
光をいつの間にか当たり前のように手にしているけれど。
実は光そのものじゃなくて、光で何を照らすかが大事なのだろう。

ウルフムーンが光り輝いていた。
いや。
月は光らない。
あれは太陽の鏡だ。
太陽の光を月が反射している。
反射光が夜を包んでる。

反射光の中で。
遠吠えが聞こえたような気がした。

暗闇の中で光に向かって。

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小野寺隆一
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