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#池袋みらい国際映画祭「映像業界ハラスメント問題」深田晃司監督×東海林毅監督 トークレポ

2024年1月27日池袋みらい館大明@ブックカフェにて、池袋みらい国際映画祭の催しのひとつで「映像業界ハラスメント問題」について考え語るトークイベントに聴講者として参加しました。
映画『淵に立つ』の深田晃司監督と映画『老ナルキソス』の東海林毅監督、そしてファリシテーターとして映画祭主催側の女性が3名が登壇する約90分の内容は10数名だけで聞くのは少しもったいないトークでしたので、一部語られた内容をまとめます。


トークでシェアされた資料、以下、PDFでWEB公開中。三工社も制作にかかわっているので台本印刷にいれることができる。

こちらはハラスメント全般について。https://www.hyogen-genba.com/_files/ugd/c3e77a_77b185f62f214ea4ae34ebdae6a35a2b.pdf


以下、トーク内容のメモです。当初まとめるつもりのないメモだったので、実際の発言と異なる意図などはないよう留意はしているのですが、前後の脈絡など省いている部分もあるので、後述でいれたインタビュー記事などもぜひ参考にしてください。


前段

ファリシテーターから、万が一踏み込んだトーク内容から気分が悪くなったり、フラッシュバックが起きた場合などは、空き教室で休むことが出来るとのアナウンス。松本問題の報道にくわえ、タイムリーであると触れる。

経歴

・深田監督
映画制作者は仕事始めるきっかけがスタッフワークが好きか、映画好きか、の2択が多い。断然後者と言う深田監督、映画美学校からボランティアスタッフとして現場に参加して「洗礼」を浴びるように。まず(辛さはなかったが)長時間労働でとにかく眠れなかった。次にギャラをもらって参加した商業の現場。美術部助手として参加して先輩からの殴る・蹴る・怒鳴られるが1カ月半。この撮影期間中はつらかった。上下関係だけでなく、下っ端だから、他部署からのいびりもあった。だが当時は「仕事ができない自分が悪い」と考えていた。その後フリーランスとしてその後も照明助手や美術部助手として働くことはあったが自然とフェードアウトして自主映画メインで活動。もしも「自分が監督志望ではなかったら(映画業界は)やめていた」。

・東海林監督
VFXも制作。LGBTQ当事者、「B」。19歳~20歳で短編を制作して入賞、その後フリーランスで映像の仕事を始めるが、現場のひどさ、ハラスメントに直面。配給のほうもひどいと話に聞き、直接的な映画の仕事とはしばらく離れ、30歳で商業デビューとしたと話す。関係者から戻ってきなよ、と声をかけられたそう。

監督として

上下関係が徹底してあり、「徒弟制度」が残っていたが監督として現場に戻るとやはり待遇が違う。映画制作は権力勾配があり、それによって支えられている側面があると東海林監督。
そのぶん監督として、トップに立つと、見えなくなるものが出てくる。深田監督は「監督の目は節穴になる」と話す。
監督には優しい技師が、助手に対しウラで怒鳴りつけていることもある。周りも言わない。トラブルを隠される。それが監督は分からない。「トラブルが起きたら早くその場で早く言って欲しい」また「人によって態度を変えないで欲しい」との言葉には実感がこもる。


深田監督がSNSで2019年にパワハラに関するステートメントを出した背景について。当時かかわっていたプロデューサー(現行作品とはかかわりのない人物)が周囲からの話と、ヒアリングにより「限りなく黒に近いグレーと判明」ただし、それが分かった際に「仕事をやめる」と直接言いにくかったため、SNSでの公開を優先した。被害についてヒアリングをした際にも逆恨みされたくない、忘れていきたいとのことで、話を聞くこともすんなりはいかない。被害について女性からも直接話も聞いてはいる。狭い業界だからと、大ごとになるのを嫌がる。例えば友人から、話を聞く。ただし俳優本人にそれを尋ねたと聞いてもいいかというと、言わないでと拒まれることもあった。

どう公表するか、なぜ二次加害は起こるのか

ここでファリシテーターから週刊誌報道について。性被害についての表明がなぜ週刊誌になのか?について問い。
深田監督もいくつかのハラスメント問題を扱う団体に所属していることで、被害報告はかなり受けているがそれを公開すると誹謗中傷やハニートラップ、枕営業ではないか、と二次加害がついてまわる。さらに、その告発する相手の知名度もあるので、テレビでは下手なことをいえない。誤った内容が一部でもあったさいに名誉棄損に当たる可能性もでてくる。で、あれば訴訟され慣れている週刊誌へいく流れができている。
東海林監督から、ほかにも被害を訴える先はいろいろある、とのこと。(メモしきれず)

俳優が、制作現場について事務所に訴えても、大ごとになるのを避けようと聞き届けられないことも多い。
またなぜ、二次加害についてなぜ起こると思うかについて、ファリシテーターからの質問。
深田監督は、バイアスがかかっているからだと話す。
例えば痴漢と聞くと「冤罪」の言葉が浮かぶ。痴漢冤罪は訴えの50%ではないはずなのに。過去、それを扱った映画もあったがもう少し慎重に制作すべきだったのではないかとも提言。深田監督自身も中・高・大と3回痴漢被害に遭遇して、年齢を経てから友人にそれを笑い話にして話すことはできるが、今も親には言えないでいる。
東海林監督、議員と意見交換したこともある。年配の男性からは『性暴力の冤罪をなくす会を』との声を言われたこともあるそう。そもそもの性暴力がなければそんな話題にもならないのだが……。

なぜ制作現場で暴力がふるわれているのか

ファリシテータから深田監督への質問。なぜ制作現場で暴力がふるわれているのか、なぜ暴力が振るわれたと思うか?深田監督、現場でドロップキックを受けた瞬間はスローモーションではっきり覚えている。相手は元ヤンみたいな人で、その時は間違った小道具を持っていたからだった。徒弟制度やそのなごりが残る荒っぽい教育の時代もあり、理由はたくさんある、と分析。

そもそも「東宝争議」(1964年ごろ)には、今の韓国の制作現場体制よりもかなりよい条件を勝ち取っていると深田監督。
この労働条件については、詳しく現在執筆中とのこと。

(実際、数字や諸条件についてWEBではざっとみたかんじ記された内容が見つけられないが)1日8時間、週44時間、産前・産後休暇、生理休暇という。映適では現在1日13時間と条件は「後退」してしまったのが現状とりまく状況ともいえる。

(実際の制作現場に入ってしまうと1カ月半での長編制作では、1日13時間も余裕があるわけではないが……的な余談も)

継続した教育があった時代から、現場ごとに集まって解散する体制になり低予算化も進む。新人をその数日間で即戦力にするには、短絡的な暴力に訴える手段が横行するのではないか、とも言及。

東海林監督も、続けてフリーランスが多い業界の弊害として、企業が行うパワハラ研修を受けていない人が多かったのでは、と語る。徐々に時代によって変化していくものが、できていない。そこに「映画やってんだ」という志しも変化できない要因のひとつか。現在の映画制作者の「労働者」として意識の希薄さも指摘した。

フランスの現場では

藤井光氏からの話を深田監督が紹介。フランスは「芸術職」に就く人への支援制度があり、映画監督や俳優やスタッフがその対象にあたる。撮影期間のないときには週5日×8時間(労働)の換算で月に23万円程度が支払われる。審査の基準は雇用契約書。「芸術労働」の考えがねづいている。

「性」について

「性」「性被害」「性加害」について日本人の意識はどこか低いと東海林監督。ハラスメントについて下の世代へは教育機関でのレクチャーが必要ではないかと提言。上の世代もまた、大手制作期間では現場入りの前にハラスメント研修を受けているが、どこか真剣みを感ぜられないときがある。

深田監督も話を受けて「ハラスメント研修を受けたのでハラスメントしていない」というコメントが出てくることが一番おそろしい、研修をやってゼロ件になることを目指す話ではない。研修や制度など、どの対応もしていく方がいい。我々は「不完全な人間」であるから。

ハラスメント研修については国からmax20万円の助成金が出るプランもある。※令和5年度は募集終了している。


韓国の制作体制の変化

韓国もパワハラが厳しい現場だったというが、この10年で変化した。一番大きく変わった要因は社会の目の厳しさにあると、深田監督。社会は、厳しい目でハラスメント問題を見て欲しい、と聴講者へ呼びかけた。

多様性、当事者、それからミニシアター

深田監督、「多様性」について語る。多様性とは、浸透する前に古びたような言葉ではあるが、今の映画業界に残っているのは「たまたま生き残った人たち」。生存者バイアスで「辞めたのは弱かった人たち」という考え方を持ちやすい。特権であることに気づいていない。これからの映画業界について、このままでは先細っていってしまう。当事者が、表現する大切さを説く。
東海林監督はフリーランスを守ってくれる場づくりについて話す。秘密保持契約書があるせいで誰にも相談できない、話せないこともある。セーフティネットもいるのではないか。

話は、徐々にミニシアターをとりまく現状へ。日本のミニシアターで起きたハラスメント問題について、海外のミニシアターに聞くと労働組合があるからそんなことは起こりえない、との回答があったという。

日本では最近閉鎖するミニシアターも本当に多い。海外では年200万円~300万円が助成される取り組みもある。それは上映プログラムの内容によって審査されている(フランスの話か、韓国の話でした)。ジュニア向け、実験性、クラシック、難易度の高いプログラムなどが上映されているか、その公共性の観点で、ポイントに応じて支援金額が決まる。例えば大手シネコンが上映するマーベル映画はプログラム対象ではないし、日本のミニシアターであればその基準をクリアしているところが多い。

また、2011年にあったのと同じように、2024年、DCPの補償期間終了にともなって、800万円ちかい新たな上映機械の購入を迫られている。海外なら「インフラ」として助成金が出るが、日本は無い、という話。

みらい国際映画祭

国内映画祭の中でシンポジウムが開催され、かつ、あえて業界の抱える問題について言及する内容は大変珍しい。「国際」と掲げて日本国内の映画ばかりと思っていたが元々「日本から世界へ羽ばたいて」の意味が込められているそうだ。
映画祭の建付け上、映画制作者の姿よりも、意識の高い一般市民のほうが会場には多い気がした。質疑応答があればもっと深堀した話題も展開されたのでは、と少し残念でもある。


参考記事

深田監督のインタビュー記事

配役・キャスティングについて「当事者が演じる」ことについて


以上です。どちらが何に詳しく言及したか、やりとり活発で分かりにくいところもあったらすみません。どこかで動画が出たらいいのだが……もし誤った点などあればお手数ですがご指摘お待ちしております。また感想や所感は別にアップできたらしたいです。


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Hikari Onodera| 小野寺ひかり
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