文庫のムーミン 旧版・新装版・限定版の違い
ムーミン童話は色々な形式のものが発売されていますが、気軽に持ち運びできて移動中にも読めることから、おそらく一番身近な存在であろう講談社文庫のムーミン。
童話3作めの「たのしいムーミン一家」、右から旧版(1995、初版は1978)、新装版(2011)、限定カバー版(2014)。
この3バージョンが揃ったのは成り行きですが、比較すると文章にも違いがあるし、絵自体も違っていて面白いので、違いを比較してレポートしようと思います。
限定カバー版はひとまず置いておいて、旧版と新装版の違い。
一番分かりやすい絵の比較。
左が新装版、右が旧版。
左が新装版、右が旧版。
左が新装版、右が旧版。
2019発行の新版の絵は新装版から更にアップデートされているので、それと比較するのも面白いです。
文章の違い。
まずは旧版。
そして新装版。
旧版では女性蔑視的な表現が使われていて、新装版では変更されています。
翻訳された1965年の当時はこういう女性軽視は当たり前の時代だったのかなあなんていう想像ができて、時代感を感じられるのが面白いです。
手元にある英語版(Puffin 1961版)では女性蔑視的な表現はありません。著者が女性だから当たり前ですね。
だからこの変更は時代的な要請であると同時に、原文により忠実にしたとも言えます。
あとは、旧版で「ま夜中」(P175)となっているのが、新装版では「真夜中」(P204)となっていたりします。
また最後の山室静さんの解説にも差異があります。
左が新装版、右が旧版。
旧版では「夏の本」(少女ソフィアの夏)についての言及がありますが、新装版では削除されています。
山室さんの個人的な事情だから削除されちゃったのかなあとか、想像が膨らむ、想像の余地があるのが面白い。事情をあれこれ推測することが楽しいです。
さて、次は新装版と限定カバー版の違い。
この2つは中身の本は基本的に同じでカバーが違うだけ、基本的にはそれだけの違いらしいです。
なので純粋にカバーを見比べるのが基本的な楽しみ方ですが、
裏表紙、左が限定カバー版、右が新装版です。
本の紹介文が多少異なるのとか比べるのも楽しい。
写真にはありませんが、旧版ではISBNが違ったり、価格が当時は消費税は3%だったのねとか、やっぱり時代感ですよね、それが面白い。
また実際は中身の本にも違いがあります。
左が限定カバー版(P145)、右が新装版(P145)です。
なんと限定カバー版では絵が追加されています! 絵のあるなしは非常に大きな違い!
しかしこれは限定カバー版だからというよりは、刷数による違いだと思います。
新装版は2011年1刷で、限定カバー版は2014年12刷です。
実は限定カバー版を3冊所有してた時期がありまして、それぞれ刷が違ったのですが、同じ限定カバー版でもこのスノードームの絵のない刷がありました。
なので後年になって増刷された際に、この絵が追加されたのだと考えられます。
さて、「たのしいムーミン一家」については以上で、次は童話7巻「ムーミン谷の仲間たち」です。
左が限定カバー版(2015)、右が旧版(1990、初版は1979)です。
新装版はKindle版を持っています。
本文の違い。
・旧版では「かの鳴くような」(P9)が、限定カバー版では「蚊の鳴くような」(P10)
・旧版では「パイプのえをかみしめて」(P13)が、限定カバー版では「パイプの柄をかみしめて」(P15)
・旧版では「ぼく、願をかけよう」(P21)が、限定カバー版では「願」にフリガナが振ってあります(P24)
・旧版では「おでぶさん」(P138)が、限定カバー版では「おしゃまさん」(P163)に。
短編「目に見えない子」内の「おでぶさん」は、限定カバー版では全て「おしゃまさん」に替わっています。
この変更は有名ですが、一番最初に「おしゃまさん」に替わったのが文庫なのか全集なのかそれとも青い鳥文庫なのか、ちゃんと調べないと分かりませんね。謎が謎を呼ぶところがムーミンの面白いところです。
・短編の題名、旧版では「世界でいちばんさいごのりゅう」が、限定カバー版では「世界でいちばんさいごの竜」に。
短編内の「りゅう」の記述は、限定カバー版では全て「竜」に替わっています。
絵の違いについて。
左が限定カバー版(P128)、右が旧版(P109)。
ご覧の通り、線の太さが違います。
旧版ではわざと下手に描いたのがはっきり判って逆にトーベの巧さが光るのに比べ、限定カバー版では線が太いことにより絵の幼稚さが増していて天然で下手なのではという印象が強くなってしまっています。
旧版では線のカスレたところなんか上手いなーと感じるのですが、限定カバー版では線のカスレはつぶれてほとんど分からなくなっています。
この違いはデジタル画像を見てもいまいちピンとこないかもしれないですね。是非印刷された実際の本を手に取って確かめていただきたいところです。
ちなみに2020年発行の新版でも限定カバー版と同様に線は太く印刷されていて、トーベ本来の絵の巧さを堪能できるのは文庫旧版だと思うので、やはり旧版を実際に見ていただきたいです。
全集や青い鳥文庫での絵がどうなのかは未チェックなので分かりません。
他に違うところは、目次の前ページの権利紹介の文。なんと原書である本のタイトルからして違うというのが面白い。
また奥付の違いをチェックするのも基本ですよね。翻訳者の紹介文が違っていたりします。
本の最後には山室静さんの解説がありますが、限定カバー版ではそれに加え冨原眞弓さんの解説が足されてます。
ちなみにKindle版には解説文がなく寂しいのと、イラストはデジタルの絵よりは生の絵の方が断然良いので、やはりムーミン童話は印刷された実際の本の方が良いと思いますが、デジタルの本はスマホで外で気軽に読めるのと、ハイライトやメモをつけたり消したりが柔軟にできる点など良い点もあり、各々の読書スタイルによって選択も異なってきますね。選択肢が多いのは良いことなのでいい時代になったなあと思います。
以上、講談社文庫だけ比較してもこんなに色々と違うのに、さらにはトーベ・ヤンソン全集や青い鳥文庫やその他の形式さまざまあって、さらには原語版やその他外国語版などにも版による違いがあり、全てを把握するのは不可能なのではと思えます。
このキリのなさがムーミンの魅力でもあり、どの切り口から攻めるかでその人のスタイルが表れるのも面白いところなので、自分なりのこだわりを持ってムーミンに接してみてはいかがでしょうか。
以上です!