見出し画像

『AWAKE』全曲解説 前編

2024年8月28日にリリースされたシンガーソングライターあきいちこのミニアルバム『AWAKE』の全6曲の聴きどころを解説します。
ちなみに、ほとんどの主要ストリーミングサービスで聴くこともできます。こちらから飛んでください。↓
https://lnk.to/AWAKEakiichiko_FTR

どのようなアルバムなのか

あきいちこが作詞作曲した6曲すべてが、作曲家・編曲家として名高い澤近泰輔氏によって編曲されている。

澤近泰輔氏は多数の有名アーティストの楽曲アレンジを手掛けている日本POPS界でも名うてのヒットメーカーである。
また、1987年からチャゲ&飛鳥のライブでバックバンドのキーボーディストとして活躍。2024年現在においてはASKAバンドのバンドマスターも務めている。また工藤静香のコンサートでもバンドマスターを務め、セルフカバーのアレンジも手掛けるなど、その業績は枚挙に暇がない。

CHAGE&ASKAの大ファンでもあるあきいちこが、偶然の重なりと自身の絶え間ない努力によって澤近氏と繋がり、自身の楽曲のアレンジを依頼するに至った。このアルバム『AWAKE』は、あきいちこのアーティスト活動における大きな大きなマイルストーンとなる作品でもある。
また、澤近氏がアレンジを引き受ける経緯の発端はあきいちこが「一番好きなベーシスト」と公言する惠美直也氏であることも見逃せない。

別の機会に詳細は語るが、あきいちこが惠美氏との奇跡的な遭遇を全力行動で縁に結び付け、このアルバムを完成させた。

ちなみにであるが、私は2023年の秋にあきいちこから「2つの目標」の話を聞いている。「私の曲で惠美さんにベースを弾いてもらうのと、澤近さんにアレンジしてもらうのが夢なんですよね」という話を直接聞いた。しかし、その時点でのあきいちこは私が「いつか実現するといいね」と返すような状況だった。ただ、彼女の言葉がとても印象的だったのを今も鮮明に覚えている。

「やりたいこと、叶えたいことって、口に出してたら実現する気がするんですよね」
あれから1年かからずに実現させた。実現の過程を少なからず見てきたが、それは運だけではない。あきいちこの努力と行動、長年の積み重ね、情熱、技術、信用、全力の日々によってたどり着いたものである。
99%の努力と1%の運で夢を実現させるのを目の前で見せてくれた。私は奇跡の軌跡をリアルタイムに確認している。
『AWAKE』はこのストーリーにふさわしい、宝石のような楽曲が詰まったアルバムなのだ。

アレグリア

アルバムの1曲目を飾る楽曲。スピード感あふれるイントロがあきいちこの新章開幕を思わせる。あきいちこが尊敬してやまないベーシスト惠美直也氏の演奏が歌声の背中を押すかのように疾走する。

スペイン語で「喜び」「歓喜」を意味するアレグリア。まさに夢を実現させたアルバムのスタートにふさわしい。

1番と2番の間奏部分に「めちゃかっこいい」以外の言葉で形容しえないベースフレーズが入っており、それが2番Aメロまで続く。Aメロが1番と2番でメロディが異なるのも相まって、歌詞の世界観を更に深く掘り下げている。

不確定な未来に飛び立とうとする1番から一転して、成長し進み続ける中に訪れる苦悩や障害。「壁にぶつかる」苦しさは、あきいちこの創作活動の歴史とリンクしているのではないだろうかと思わせる。”認められる為だけに生きるのは 虚しい”という歌詞に込められた思いは、芸人として活動する私にも鋭く刺さるものがある。CHAGE and ASKAの楽曲「NO PAIN NO GAIN」に出てくる”痛めた胸に手を当てたままじゃ空しい”という歌詞を聴いた時に感じた”思い当たる節があるときに感じる息苦しさ”と同じものを感じた。
あきいちこの魅力の一つである、話し言葉のように感情が乗った歌詞の歌いまわしと特に強く感じる部分である。
Cメロで特に浮き上がるドラムのキレッキレなリズム、その後のオチサビのピアノフレーズの心地よさ、楽曲全体のグルーブを倍増させるギター。演奏に着目しても聴きどころが多すぎて、一度では全てを味わいきれない盛りだくさんな楽曲である。

I KNOW

これぞあきいちこな楽曲。静かなピアノの伴奏でそっと歌い始める。
サビで繰り返される「I KNOW」というフレーズの歌い方の変化、バリエーションの広さに、ヴォーカリストとしてのあきいちこの奥の深さと技術力を大いに感じる。
1番の歌唱で印象的なのは「泣き出しそうな」歌声だ。涙を堪えるように歌う。1番の「I KNOW」から感じるのは「分かってる。分かってるんだけど。」の”だけど”の部分。分かっているけど辛い。分かっているからこそ辛い。その先に答えがある。けれど手を伸ばすのが辛い。でも、進むのは自分自身しかいない。そういった想いが強く伝わる。
1番サビの終わりからストリングスが入ってきて、楽曲に少し暖かい色が射す。透明だった前半が孤独を表すとすれば、後半は勇気を表しているように感じる。
2番のサビの「I KNOW」は1番とは一転して実に力強い。同じフレーズ、同じメロディであっても、歌い方の違いでこれほどに対照的に聴かせてくるというのは、一朝一夕にできるものではないだろう。
私自身、素人ながらここ数年音楽活動をしておりバンドなどで楽器演奏をする機会がそれなりにあるが、やはり感情を演奏や歌唱で表現するというのは努力と才能を併せ持った者にだけ可能な特殊な技能であると改めて感じる。
3回目、ラスサビの「I KNOW」には炸裂音のようなSEが入ってくる。これがどういうわけか「希望ある未来」のような景色を作り出す。
それにしても感じるのは、あきいちこの歌詞をメロディにハメる上手さである。日本語として極めて自然に入ってくるので、表情豊かな歌唱と相まってよりいっそう楽曲の世界観を色彩豊かに描き出す。
澤近泰輔氏の巧みなアレンジによって、名作映画のように物語が進行していく。ありきたりだが、作詞作曲・アレンジ・歌唱が三位一体となった楽曲の心地よさを存分に味わえる楽曲である。

アオサギ

ここで雰囲気は一転し、3拍子の穏やかな楽曲が流れ出す。ケルト音楽的なアレンジと伸びやかなあきいちこの歌声がとても爽快だ。
しかしながら歌詞に潜ませたあきいちこの「譲れないもの」が穏やかなだけではない楽曲の世界観を作り出す。この感じの楽曲で歌詞に「ワカラズヤは陰で とやかく言うね」とか「嗤うなら 嗤えばいい」がちりばめられている。
穏やかで優しい歌声であるからこそ余計に感じるあきいちこの芯の強さ、気の強さ。そこからCメロに込められたときに顔を出す弱気。ラスサビでしっかりそれを払しょくする流れが巧みで、唸ってしまう。
この楽曲は随所にあきいちこ自身によるハモが入っているが、旋律もまた巧みである。あきいちこの楽曲全般に感じるヴォーカルトラックの鮮烈さ。今回のアルバムを担当したレコーディングエンジニア橋本まさし氏の技術と感性が高度に融合した録音とミキシングもあるが、なによりあきいちこのピッチの良さがあってのものであると言える。レコーディング後のピッチ修正(ヴォーカリストの歌で音程が外れてしまっている部分を後からPCで修正する作業)がほとんど無いという、あきいちこの音感があってこそ、鮮度が高いヴォーカルが音源で味わえる。

次回は後半3曲の聴きどころを徹底解説。

念のため、自己紹介。どうも、お笑い芸人ジョニー小野です。
30年以上のオーディオマニアであり、オーディオショーなどで講演をさせていただいたり、たまにゴーストライターとしてオーディオ製品のパンフとか製品紹介とか書いてます。
2023年からチャゲアスバックバンドリスペクトバンド「WHITE NOSE」を結成。ライブ活動や配信などで演奏やらトークやらをお届けしています。

いいなと思ったら応援しよう!

ジョニー小野
皆さまの支えがあってのわたくしでございます。ぜひとも積極果敢なサポートをよろしくお願いします。