社長芸人による芸人経営学.6
それでは、最後に芸人経営における(4)人事経理部門(5)総務部門について説明します。
人事経理部門。芸人は経営者として自分の様々な能力を「社員」として雇用し「社内組織」を構成していきます。
そして、事業を継続させていくためにキャッシュフローを管理します。
以上の二つを、芸人事業における人事経理部門の役割と定義します。
では人事部門はどのように運営していくべきなのでしょうか。
芸人経営においてどのような人事管理が必要となるでしょうか。
まず営業部門です。
もちろん、営業成績に応じて人事評価をして昇進させていくことが必要です。しかし、芸人の営業成績というのは定義がとても難しいものです。
一般的には売り上げ高に応じて、または収益に対して評価することになりますが、芸人事業における営業成績というのは金額以上に将来への期待値を生み出すことが、その場で発生した収益より重要になることがしばしばあります。
特に、「売れている」という状況になる以前は持ち出しのほうが圧倒的に多いのが芸人事業です。また、黒字化したとたんに一気に収益が改善するのも特徴です。
本書では最初に芸人経営の成功を「2.7億円稼ぐ」と定義しましたが、その売り上げ推移というのは極めて加速度的な曲線となります。
事業開始後はズルズルと赤字を重ねますが、上昇モードに入ったとたんにすぐに累積赤字を一掃し黒字を比例級数的に積み上げることになります。
分かりやすく言うと、「ミリオンゴッド」です。AT全盛の4号機の出玉推移をイメージしていただければだいたい間違いありません。(もちろん高設定です)
つまり、毎月40万円の収益を675か月つまり56年稼ぎ続けるというのは、芸人事業においてはあり得ないということです。いや、むしろそれは大金を稼ぐより難しく、それができるなら他の事業でもっと大きな成功を収められるはずです。
2.7億円を稼ぐモデルの一例を示します。
芸人事業の年間収益とその累計をグラフにしたものです。モデルケースではありますが、5年目までの数値は芸人事業開始から5年目である私自身の実際の数字を入れています。
今年が30万円、来年が100万円というように収益の増加を想定しています。10年目経過時点で年間収益を5,000万円と想定し、その時点で頭打ちとなりそれが継続して15年目で累計2.7億円を達成するという、かなり楽観的ですが、目標達成のために必要な数字を想定してみました。
上記を15か年の事業計画であるととらえれば、事業開始時に重要なのは最終的に大きく収益化できる商品を重点的に売ることが営業成績として評価されるべきです。
一例を述べます。
芸歴が浅くお笑いによる収入がほぼない時期に、主催ライブを開く芸人というのが一定数存在します。私自身もその一人です。
実績のない芸人が出演できるお笑いライブというのは2種類あります。
1.ライブ運営事業者によるエントリー制ライブ
2.芸人主催ライブ
1は、ライブ運営自体を事業として行う主催者が収益を目的として行うライブです。草ライブ、フリーライブなどとも呼ばれます。参加費(エントリー料)を支払うことで誰でも出演できます。参加費はだいたい2,000~3,000円で、3分前後の持ち時間でネタを披露することになります。
厳密には、様々な問題を起こしたことにより出入り禁止となる芸人もいます。そもそも、お金を払うといっているのにお金はいらないからライブに来ないでくれという芸人がいるという事実に驚かれる方もいるかもしれません。
どのような商売でも、問題が多いから出入り禁止になっている「客」というのはいると思います。しかし、お笑いライブにおいては出入り禁止になっている「芸人」というものがそれなりにいます。
ここで具体例や出入り禁止になった原因などを挙げることは、後々私自身に被害を受ける可能性があるのででしませんので個別にお問い合わせください。
ある程度の情報は、拙作「ポルシェに乗った地下芸人」をお読みいただけるとイメージできるかと思います。
話が逸れましたが、お金を払ってこのようなライブに出ることも営業成績にカウントします。自分でお客様を呼べばそのお客様の支払ったチケット代が自分に還元されるという経済的利点もありますが、大きいのは他の芸人やライブ運営スタッフに自分の技量をPRできるという点です。
持ち時間におけるネタもそうですが、楽屋でのコミュニケーションなどを通して芸人同士の横のつながりができるというメリットもあります。
ですので、エントリー制ライブに営業人員を割くのもある程度の技量が身につく前であれば必要です。
2の芸人主催ライブですが、まずコストが安いという利点があります。主に公民館やレンタルスペースなどで開催されるため、劇場コストが極めて安くできるため、参加費は数百円で済む場合も多くあります。
デメリットとして、参加するためには主催者に伝手が必要な点があげられます。
SNSなどで広くエントリーを募ることもありますが、だいたいは気心知れた芸人に声がかかって出演枠が埋まるので、そういったツテがないと出演することができません。
ですので、コストを削減して舞台に立つ経験を増やすための行動は営業活動であると認識して、実績にカウントするべきといえます。
しかし、ここで気をつけなければならないのが「芸人主催ライブのビジネス化問題」です。
芸人がライブを主催することで収益を得ることには一切問題がありません。ライブ運営には会場の選定や企画立案、集客などの手間がかかりますし、演者の管理や当日の運営も多大な労力を要します。その対価として幾らかの利益を得ることは当然でしょう。しかし、ただ演者を集めてネタを順番にやらせるだけの出演料目当てのライブをやってしまう芸人もいます。
そうなるとライブ主催がただの小遣い稼ぎとなり、自分自身のネタの向上に意識が向かなくなります。結果的に、芸人としての成長が止まり、ライブ運営事業者となっていきます。
それは働き方としては一つの方法だと思うのですが、芸人としての立ち位置を忘れてライブ運営がメインの芸人活動になっていっているケースを散見します。
そういった活動を主としている芸人が芸で大成したケースは思い当たりません。趣向を凝らしたライブや優れた動員をしている芸人が成功しているケースは多いのですが、一見してその辺りの趣旨が分からないため、その見極めが重要です。