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阿佐ヶ谷ヤング洋品店旗揚げ
きっかけはささいな車内での会話からだった。
水道橋博士はラジオ収録を終えて、私の運転するMAZDA車のリアシートに乗り込み日課であるエゴサーチに勤しんでいる。
ルームミラーで様子を伺いながら、ひと段落した頃合いを見計らって声をかけた。
「博士は、最近ライブやりたくなったりしませんか?」
「ライブやりたいよ。俺、全然ライブやるよ」
何故かとても強気に答える博士。しかし、予想以上にしっかり食いついてくれた。手応えを感じる。
「そうですか。実は、テレビもひと段落する事ですし、博士にライブをやっていただけたらうれしいなと思っておりまして」
もちろん、これは本心である。水道橋博士の運転手「ハカセードライバー」としてではなく、水道橋博士ファンとしての率直な気持ちだ。
「バラエティの水道橋博士」をみられる機会が、最近少ないと感じていた。お笑い度数の高い博士をみる手段として、ライブをやって欲しいと思ったのだ。
はやる気持ちを抑えて博士に言う。
「ライブやりたいですか。よろしければ段取りさせていただきますけども」
さらに強気に答える博士。
「いつでもいいよ!!俺ライブすぐやるから!!」
強気になる理由は分からないが、博士のライブ熱はとても高い様子だ。これはいい。熱いうちに打とう。
「そうですか博士!!実は阿佐ヶ谷ロフトさんに知り合いがおりまして、よろしければお繋ぎ致します!!」
即答する博士。
「やろうよ。今からでもいいよ。」
すみません、博士。実は既に先方には打診しておりまして、条件面など詰めております。なんなら、阿佐ヶ谷ロフトさんからはぜひやってもらいたいというところまでお返事もらってます。あとは日程決めたらいつでもスタートできるんですよ。
「先方に連絡して、打ち合わせの日程決めましょう。」
すかさずアポイントをとり既成事実にしていく。よく分からないが、「まるで私は、令和の新間寿だな」と心で言う。
この時点で2月下旬。念のためマネージャーに根回しをする。
「博士がライブやりたがってるんですけど、大丈夫ですか?」
「ライブは全然問題ないけど、いつやるの?宣伝の期間もいるから、できたら5月くらいがいいと思うけど。博士はそういうのすぐやりたがって準備が大変だから、うまく抑えるようにして」
「かしこまりました!!」
なるほど。博士くらいになると、私が阿佐ヶ谷の公民館でライブをやるのとは違う。「再来週、商工会館の和室取れたからライブやろうよ」みたいにはいかないのだ。
2日後、博士と技術スタッフでもある関口長官を連れて阿佐ヶ谷ロフトへ。
条件面は事前に確認してあるので問題ない。後は日程である。
「4月5月の空き予定を教えてもらえますか?」
と私が言うや否や、語尾に被せ気味に
「そんなの全然遅いよ。すぐやるから、最短で空いてる日でやろう」
「!?博士、そんなにすぐやるんですか!?」
「当たり前だよ。俺はすぐライブやるから!!」
博士すみません。運転手として2ヶ月ほどお付き合いさせていただいてますが、どのように当たり前なのか分かりません。
「3月は夜はもう埋まってまして」
と答えるロフト担当。そりゃそうである。阿佐ヶ谷ロフトがそんなに空いてるわけではないじゃないか。
「配信は、2週間アーカイブでみられるんですよね。それなら昼間にやって収録な感じでもいいんじゃないですか?」
いらん事を思いつく関口長官。やばい。マネージャーには5月にやるよう言われているのに。
「最短だと3/18の17時から2時間だけ空いてますね」
おい!!空いてるんかい!!
「じゃあ、そこで決定しましょう」
満足げに答える博士。もう決まってしまった。私が口を挟む余地などない。ライブまで3週間切ってるんですけど。
帰り道の車内。関口長官がニコニコしながら言う。
「ライブは阿佐ヶ谷だからアサヤンでいいんじゃないですか」
「それいいね。そうしよう。アサヤンなら誰呼ぼうかな。エガちゃんに連絡してみようか」
50代の2人がキャッキャとアイデアを出し合っている。私はマネージャーへの報告をどうしようかと悩みつつ車を走らせる。
博士は唐突にこう言い放った。
「俺はお笑い界に万里の長城を築く!!」
「築きましょう!!」
即レスの関口長官。しかし、プロレスを全く知らない関口長官は、意味が分かっているのだろうか。というか、そもそもお笑い界に何故万里の長城が必要なのだろう。まてまて、万里の長城を築くってどういう意味なのだ!?元ネタは新間寿である。あれ?新間寿の事この前なんか考えたな。と、とりとめなく思いが巡る。
とりあえず、水道橋博士にとって阿佐ヶ谷ロフトでライブをするというのはカジュアルでポップな行為であり、現状ノリノリである事は理解できた。
この日から3週間弱、怒涛の準備でライブ当日を迎えるのだ。
キャスティングは全て博士。企画も博士。日々ZOOM会議で博士のアイデアを聞き取り、文章にまとめる。
ある程度台本がまとまってきたと思うと
「ルーさんが来るから、内容変えよう」
と振り出しに戻る。結果、当日現地に到着するまで台本は完成しなかった。全員が博士の発言をそれなりに解釈して、なんとなく分かった感じで本番を迎えた。
あと、これは言いたい。
「アサヤンの総合司会は君だから、ルーさんのモノマネできるようにしといて。君は令和のルー大柴なんだから」
って私に伝えるの、遅すぎませんか、博士。そういうの、本番1週間前とかに言われても心の準備が必要なんですよ。
とはいえ、「セリフを噛まない」という一点突破で採用された司会である。そりゃもう念入りにシミュレーションした。
しかし、その全ては無駄だった。達人たちのアドリブと、ガチのノーアポ電話など、縦横無尽に暴れる博士と共演者。
ライブ開始15分で全てを諦めた。もう、笑っておこう。私はリングサイドで観覧しているだけだ。司会でもなんでもない。そう思わないとやってられないくらいの緊張だった。フワフワと夢の中にいる。
後半、石原伸晃さんの話題になったところで観覧にきていたコラアゲンはいごうまんさんが博士に呼ばれて舞台に上がった。
コラアゲンさん!!大先輩なのに後輩に全く緊張感を持たせない、通称カジュアル兄さんである。(これは私が思っているだけだが)
がっつり緊張して白い顔でエピソードトークを披露するコラアゲン兄さんを見て、やっと正気を取り戻せた。緊張していたのは私だけじゃないんだ。
まさか、コラアゲン兄さんに助けられる日が来るとは、お釈迦様でも知らぬ仏である。
clubhouseで連日経済力でマウンティングし続けた先輩。でも、この日はビッグなゲストばかりで緊張し過ぎていた私を、経済力の低さで助けてくれた。同じビッグでも、イシューの方なら緊張しない。
コラアゲン兄さんを見て涙が出そうだった。優しい目でこちらをチラッと見るコラアゲン兄さん。
「緊張してるのはお前だけじゃないぞ。なんなら俺の方が緊張してる。俺はくちびるだって震えてるんだぞ」
そう言ってくれている気がした。
冷静さを取り戻して進行する。あっという間に2時間が過ぎて次回の予告をし、画面にはアナーキー。
ホッとした。もう、ホッとしたよ。
舞台をフラフラと降りる。そっと近寄ってきて私のお尻をポンと叩いて
「ちゃんと司会できてたよ。よかったよ」
コラアゲン兄さんである。うっかり泣きそうになってしまった。しかし、コラアゲン兄さんで泣くのはドキュメンタリー「貧しくてもがんばる」みたいな時だけだ。ここで涙をこぼしてはいけない。
必死に笑顔をつくって応えた。
「コラアゲンさんのおかげで緊張がほぐれました。ありがとうございます。お礼にビッグイシュー2冊買います!!」
すかさず
「社長なら束で買えー!!買えるやろー!!」
コロナ禍なので打ち上げは無し。博士をご自宅へ送る。珍しく帰宅後にリビングに立ち寄る博士。奥様やお子さん達に話しかけている。
「パパ、面白かったでしょ?」
「パパどうだった?かっこよかった?」
必死に今日の賞賛を求める博士。しかし、あまり反応が芳しくない様子。なおもしつこく食い下がる博士に、ついつい言ってしまう。
「博士、みなさん困ってるからその辺にしましょう。しつこくするとまたお子さんに怒られますよ」
先日お子さんの部屋へ大量の資料を運び込もうとして大揉めしたと聞いたので、ついそれを踏まえた注意をしてしまった。
大人しく引き上げる博士。背中が寂しい。
博士の部屋に戻り、片付けや今日の反省、次回の打ち合わせなどをする。
途中リビングに行って戻ってきた博士がうれしそうに私に言う。
「お前しくじったな!!ママが怒ってるぞ!!子供部屋で俺が怒られたの地雷だったぞ!!」
うーん、うーん、うーん。
ここからは私の予想である。きっと博士は「なんで子供との事を人に言うのよ」という趣旨を言ったのではないだろうか。しかし、先代ハカセードライバーのガン太さんが奥様にハマっている事が悔しくて仕方がない博士は「子供の事をいじったジョニーがママに怒られてる」とすり替えたのではないか。
博士は奥様やお子さん達にウケたくて仕方がない人だ。きっと、今日のライブも特に無観客ライブというのもあり、家族から「パパ面白かったよ」が聞きたくて仕方なかったのだ。
しかし私は、家族にお笑い活動をしている事を言っていない。秘密でやっている。だから、家族から賞賛を受けるなど望むべくもない。
やはり、お笑いで家族を食わせていられる状況はうらやましい。本当にうらやましい。
今は4歳の娘が、自分からテレビやyoutubeでお笑いを見る頃までに、堂々と「パパは芸人」と言えるようになろう。
と決意しながらも
「親戚のおじさんなんて、いらん事言うもんですよ!!」
と逆ギレした私なのである。
次回は4/6と4/15です。アサヤン観てね。
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