チバユウスケ追悼行脚の記録⑤後編 2024/8/17ライジングサン〜WEEKEND LOVERS'24"with you"
一度酔いを覚ましたと言いながらも、持ち込んだパックワインをチビチビ、グビグビ飲んでいた私は、夢を見ながらあの場所にいたのかもなと思ったりする。それくらいなんだか神がかりというか、奇跡的に感じる時間だったのだ。発表されていたタイムテーブルでは2時間のはずのステージは3時間近く続き、ライブが終わった後の終幕を告げる演出にも心奪われてその場を去れなくなり、音が鳴り止むのを、スクリーンが消えたのを、確認したのは3時半近かったと思う。酔っ払いながらも意識は冴え、ハプニングまみれの長旅でヘトヘトなはずの中年の体がド深夜の終盤までジャンプを繰り返していた。お盆の真夏の夜の夢。初盆にはしゃぐwith youのイタズラか。そんな不思議な夜だった。
0時になる。WEEKEND LOVERSのテーマにのってチバの声がフロアに響いて、開演前から白熱していたフジロックのレッドマーキーとは趣が違うレッドスターフィールド。昼間とは打って変わった北の大地を感じるカラッとした涼しい空気とオーディエンスたちから漂う緊張感の中、ぐっと辺りは静まって中野ミホの「ドロップ」がはじまった。透き通る歌声で表現されるこの曲に浸りながらも「あ、泣かせる雰囲気でいく感じ?」と胸がざわつく。WEEKEND LOVERSに求めるのはそうじゃない、フジのときみたいに爽快に騒いで晴れやかに笑いたくてここまで来たんだよ、頼むよ達っつぁん!
ついついセンシティブなアンテナがたってしまったけど、続いて登場した中村達也、クハラカズユキ、山本久二の演奏がすぐさまスコーーーン!と空気を変えてくれた。盟友中の盟友、キュウちゃんの存在はもちろんだが、この日の達也のショウマンっぷりには賛辞を送りたい。さみしさを感じる隙なんて埋めてしまえとばかりにバカスカ叩き、細やかにMCをしてはゲスト紹介をする。かっこいいバンドマンってこういう人のことだよなと、改めて惚れさせられた。
前述したメンバーでSNAKE ON THE BEACHの「Teddy Boy」が演奏された後に達也に呼びこまれたのはReiとハルキ。夕方のステージでもこの編成で演奏していたミッシェルの「シャンデリヤ」ではReiのカッティングが冴えわたる。湿っぽくなる暇もなく「そうそう、ミッシェルと言えばこのアベのカッティングが最高に痛快なんだよね!」とニヤニヤしてしまう。それを見事に表現するReiがすごい。
その後のステージ編成はLOSALIOSが中心となり「Hitman」が投下された後に登場したのはフジロックに続いてYONCEだ。アラバキ、フジロック、このライジングと全ての追悼ライブに登場していることから思いの強さを感じ取れるし、Suchmos自体もメンバーを亡くして活動休止中というのもまた彼をみる目が滲んでしまう理由だ。そしてYONCEのボーカルで演奏されたのはROSSOの名曲「1000のタンバリン」。さみしさと、この曲を歌う喜びのようなものが曲の美しさを際立たせている。演者でありファンでもあると言える彼の存在は、このイベントを湿っぽくさせず瑞々しく見せてくれていた。この曲にはROSSOのメンバーでありバースデイの初代ギタリストであったイマイノブアキも加わった。個性的なそのたたずまいでしばし達也にいじられ、観客をクスリとさせながら、度々チバへの愛を口にしていた。イマイの茶目っ気のある存在もまたこの日のライブのアクセントだっただろう。バースデイを脱退した後も、さまざまな名義でチバがこの人との活動を続けたことにもうなずける。
そしてLOSALIOSの締めはフジロック同様「CISCO」だ。途中でバースデイのメンバーも呼びこまれてセッションし、フロア一帯が全力の「CISCO!!!!!!!!!」で答える。ラストヘブンぶりのCISCOのモッシュにまみれて、深夜の中年が普段どこに潜めているのかわからないエネルギーを使ってはしゃぎながら中央3列目くらいまで突き進んだ。バースデイはフジよりいい位置で見たかったんだ。べスポジで貪欲に見るための所作はあの頃見についたまま、体が覚えているようだ。
そして「The Birthdayです」と名乗ったあと、「I SAW THE LIGHT」がはじまる。この曲の短いボーカルを取るのはフジケンだ。フジで一度見たとはいえ、チバの生前には披露されずじまいとなってしまったこの曲を、メンバーだけで演奏するという演出にはやっぱり泣けてしまう。あと何度見れるかわからないこのライブをまた見たくて北海道まで来ちゃったんだから。その後はこちらもフジロック同様、THA BLUE HARBのBOSSによる「ハレルヤ」だ。むやみにカバーで聞かせるわけではない、オリジナルのリリックが生々しく刺さってくる。お次もフジロックと同じ流れでまたまたYONCEが登場。しかし曲が「プレスファクトリー」ってさ。なんてイカした選曲なの。なんて愛らしい男なの。私はミッシェルの問答無用のカッコよさに溺れてチバの音楽にふれはじめたが、思い入れがより強いのは、ストレートに愛に溢れた表現が強くなったこの曲くらいの時期からのThe Birthdayかもしれない。YONCEはこの曲もとてもハマっていたし、このままバースデイの仮ボーカルになってツアーでもまわってみたらいいじゃない?と結構本気で思ったものだ。
この後の「OH!BABY DON’T CRY」も個人的にとても大事にしている曲だ。イマイがチバと2人で組んでいたギターデュオMidnight Bankrobbersのこの曲を、ソロでも大事に歌い続けているのに納得できる、強い力を持った曲だ。ここまでで十分すぎるほど濃密な時間だっなのだがまだまだ終わりは見えない。息を飲む暇もないほどの宴は続く。
HARRYが貫禄たっぷりに「世界の終わり」を歌い、
民生がチバの愛がこれほどかと溢れている「誰かが」を歌い、
WEEKEND LOVERSの同志だった斉藤和義が万を持して登場し、チバとの競作である「恋のサングラス」を民生とデュエットする。
MANNISH BOYSまで久しぶりに拝んだあとは「涙がこぼれそう」。
そして、フジでは開演前に音源で流れていた「WEEKEND LOVERS」がライブ演奏される。チバのパートのボーカルをとったのはフジケンだった。たくさんの豪華な演者が立て続けに登場する中で、この日の彼のたたずまいは、まっすぐで強くて綺麗だった。この月日を過ごしてきた中で得たものだろうか、これまで以上に凛とした存在感を増していた。素晴らしい声を持つそうそうたるゲストたちよりも、フジケンの歌が一番今この曲にふさわしい。この「WEEKEND LOVERS」の演奏によって、フジロックからはじまったこのパーティーは完成したんだ。完結した。終わってしまった。けど人生のパーティーはまだ終わらないし、生き続ける以上美しいものにしたい。後悔はしたくない。なんてなエモいことを思ってしまう。お盆マジックか。ただの酔っ払いのたわごとか。
本編を終えてアンコールでThe Birthdayの3人が登場し、鳴らされたのは「サイダー」だ。ハルキとキュウちゃんがボーカルをとる。ああ、やっぱり泣いちゃうんだ。もうこの編成でこの曲が聞けないかもしれないと実感しながら、大事大事に目に耳に焼き付ける。
オーラスは出演者全員が登場しての「ローリン」だった。終演時間だったはずの2時はとっくにすぎている。2時間のライブも夜更かしも容易に耐えられなくなったはずの中年の体が、「ローリンベイベーイッツオーライ」の連呼に合わせてはずむはずむ。
大団円を迎えた頃には雨が降りだし、開演時には見つけられなかったあの手を広げたチバの姿がスクリーンに映っていた。なんつう演出するんだよ。動けない。離れられない。そんな中流されたのは、「〜Wild Children」「ルルといた夏の日」「OLIVE」。立ち尽くして聞き入る人たちから拍手があがる。魔法をかけられていたような時間は思い返しても奇跡の連続で、これが追悼するってことなら何度も味わってみてもいいかもしれないけど、チバがくれた今までの時間も全て夢で、これが壮大な夢オチだったりして。そんなことを考えるほどに不思議で濃密なお盆のスペシャルなプレゼントだった。もしかしてずっとここから消えないのではと思ったりしたあのスクリーンの姿とステージを照らす光は、我慢できずに行ったトイレから戻ると消えていたけど、記憶から、脳裏から、心からは消えないだろう。追悼の旅は次が最後だ。
以下、ネットから拝借したセトリ。
ドロップ/中野ミホ
365(ザ・スターリン)/中村達也、クハラカズユキ、山本久士
Teddy Boy/中村達也、クハラカズユキ、山本久士、イマイアキノブ
シャンデリヤ/中村達也、クハラカズユキ、Rei
Hit Man/LOSALIOS
1000のタンバリン/LOSALIOS、イマイアキノブ、YONCE
IQ69/LOSALIOS
CISCO~思い出のサンフランシスコ/LOSALIOS、The Birthday
I SAW THE RIGHT/The Birthday
ハレルヤ/The Birthday、ILL-BOSSTINO
プレスファクトリー/The Birthday、YONCE
OH!BABY DON'T CRY/The Birthday、イマイアキノブ、中野ミホ
Baby It's You(シュレルズ)/HARRY、
Let's go down the street/HARRY、The Birthday
世界の終わり/HARRY、The Birthday
誰かが/奥田民生、The Birthday
恋のサングラス/斉藤和義、奥田民生
猿の惑星/MANNISH BOYS、堀江博久
涙がこぼれそう/MANNISH BOYS、The Birthday、イマイアキノブ
WEEKEND LOVERS/MANNISH BOYS、The Birthday、イマイアキノブ、堀江博久、Rei
EN
サイダー/The Birthday
ローリン/ALL
アウトロ
〜Wild Chirdren
ルルがいた夏の日
OLIVE