「温泉むすめ AKATSUKI 1st Live ~艶~」朗読台本 前編
ぽか旦那・ぽか女将の皆さん、チョイナー!
FC公式ナビゲーターの「宇田川 美湯」です。
先日行われた「温泉むすめ AKATSUKI 1st Live ~艶~」内にて披露した、朗読劇の台本を前編と後編に分けて公開しちゃいます。
温泉むすめ最強グループ「AKATSUKI」結成の秘話をご覧ください♪
○モノローグ
彗 「暁。それは夜明けを告げる光。その光は世界を照らし、人々を目覚めに導く」
環綺 「暁。それはダ・カーポの合図。その光は昨日の私を焼き尽くし、今日の私を再生する」
日向 「暁。それは太陽からの一番星。その光は誰よりも早く、何よりも赤く輝いて、世界の色を変えていく」
環綺 「あの日見た暁の光を、私たちは忘れない」
彗 「過去を振り返るのは私たちらしくない。けれど、今日は少しだけ語ろう」
日向 「これは、あたしたちの始まりの物語」
○ 場面:温泉むすめ師範学校・体育館
彗N 「四月。私――玉造彗は、幼い頃から親しんできた日本舞踊を、体験入部に来た新入生の前で披露していた。私たち温泉むすめが通う『温泉むすめ師範学校』には様々な部活があり、私が代表を務める日本舞踊部もその一つである」
彗N 「指先まで神経を張り巡らせて、一挙手一投足に意味を籠める。日本舞踊は、動きが遅いからこそ誤魔化しがきかない。本番で完璧な演舞を見せるには、日頃から練習を積み重ねるしかないのだ」
○場面:同・舞台裏
後輩 「彗さま、演舞お見事でした! 今日もお美しかったです~!」
彗 「お疲れさま。新入生の様子はどう?」
後輩 「最高ですよー! 入部希望者殺到中です!今年も『玉造彗さまファンクラブ』は安泰ですね!」
彗 「(呆れて)……ファンクラブではなくて、日本舞踊部でしょう」
後輩 「いえいえ、うちの部員は彗さまに憧れてる子ばかりなんですから!きっと今年の新入生だって……(気付いて)あ、ほら、早速!」
ナレ 「見ると、気弱そうな少女がおずおずと彗の様子を伺っていた。真新しい制服。高等部から師範学校に編入してきた一年生だろう」
新入生 「は、はじめまして……」
彗 「はじめまして。入部希望かしら」
新入生 「えっと……さっきの演舞で先輩の扇子がすごくきれいで……。でも、わたし日本舞踊ってやったことなくて……それで……」
彗 「……悪いけれど、自信がないなら入部はやめておいたほうがいいわ。舞台に立つというのは孤独なものよ」
新入生 「あ……。そうですよね……」
彗 「(ふむ、と鼻を鳴らして)そうね……。これ、あげるわ」
新入生 「え? これ、彗さんの扇子……」
彗 「ここに質問に来る勇気があるのだから、もう一歩踏み出してみなさい。待ってるわね」
新入生 「は、はいっ! あの、ありがとうございま(す!)ひゃっ!?」
後輩 「(割り込んで)はいはいはいはい! 新入部員さま一名ごあんなーい!」
○場面:師範学校・グラウンド
ナレ 「彗がグラウンドに出ると、うららかな春の日差しが彼女の頬を暖めた。ここでも新入生を勧誘する運動部の声が響いている。グラウンドを横目に彼女が帰路につこうとしていると――ふと、よく見知った同級生が佇んでいるのが目に入った」
環綺 「~♪」(まだ歌詞は決まっていない)『Never ending dream』(=以下『Ned』)を鼻歌で歌っている
彗 「環綺」
環綺 「(気付いていた)やっほー、彗ちゃん」
彗 「何をしているの?」
環綺 「(くすっと笑って)誰かさんが新入生を口説くのを見てた。さすが温泉むすめ界のヒーローだなーって♪」
彗 「……帰るわ」
環綺 「あん♪ ちょっと待ってよ」
ナレ 「別府環綺。彗の昔馴染みで、この春に高等部三年生になった同級生でもある。彼女たちはかれこれ干支が一周するくらいの付き合いになるものの――彗にとって、環綺はいまだにつかみ所のない存在で何を考えているのか分からないことも多い」
環綺 「聞いてよ彗ちゃん。さっきまでスクナヒコさまに呼び出されてて大変だったんだから」
彗 「はあ……」
環綺 「ねえ、何の話だったと思う?」
彗 「知らないわよ……。雑談がしたいなら他を当たって」
環綺 「えー、つれなーい」
彗 「本当に帰るわ。それじゃあ……」
環綺 「(遮って)『温泉むすめ日本一決定戦』」
彗 「(ぴくりと反応して)!」
環綺 「の、話だったんだけど。それでも興味ない?」
彗 「……。詳しく聞かせなさい」
環綺 「改めて説明するね。温泉むすめ日本一決定戦は私たちを監督する温泉の最上神、スクナヒコさまが突然言い出した新企画」
彗 「けれど、具体的にどう日本一を決めるのかは何も決まっていなかったでしょう。……まさか、種目が決まったのかしら」
環綺 「種目を内々に教えてもらったの。聞いてびっくり、『アイドル』だって」
彗 「アイドル?」
環綺 「うん。あの歌って踊るアイドル」
彗 「(困ったように)そう……。私とは縁のないジャンルだけど、決まったのならやるしかないわね」
環綺 「あ、やっぱりやるんだ。彗ちゃんがアイドル……あははっ!全然イメージ湧かないなー」
彗 「皆を導く存在であることは、最古の歴史を持つ玉造温泉の温泉むすめである私の義務よ。やらないという選択肢はないわ」
環綺 「ほらー。そういう言い方も、アイドルっていうよりヒーローだよ?」
彗 「(流して)……。あなたはどうするの?」
環綺 「私? んー……。いい人がいれば一緒にやってもいいけど」
彗 「一緒に……グループ参加ということ?」
環綺 「そうなんだけど、私に釣り合う人なんてそういないしなー。それなら裏方に回ってみんなに曲を作ってあげた方がマシかな。スクナヒコさまにもお願いされちゃったし」
彗 「ああ、それで呼び出されたのね」
環綺 「うん」
彗 「いいんじゃない? 環綺の曲なら温泉地を盛り上げる企画に相応しいと思うわ」
環綺 「それはどうも。昔から何かと彗ちゃんに試聴してもらったおかげかな。……(と、少し溜めて)。まあ……その恩もあるし、彗ちゃんとなら一緒にやってもいいけど」
彗 「あなたと?」
環綺 「うん。どうかな?」
彗 「そうね……。(真剣に)グループを組むからには、温泉むすめ全員の模範となるような存在にならなければならないわ。……環綺、その覚悟はある?」
環綺 「あー、そういうのはいいかな……」
彗 「そう?」
環綺 「(むりやり話題変えて)あーそうそう。それで新曲書いたんだけど、いつもみたいに試聴してもらっていい?」
彗 「……ええ」
環綺 「じゃ、早速(お願い)――」
ガヤ 「おおっ!」(女子のどよめき)。
環綺 「? なんだろう?」
彗 「あそこ。人だかりができてるわ」
環綺 「えっ、体験入部でしょ? うちには大した部活もないのに、何を盛り上がってるんだろ」
彗 「……ハンドボール部のようね」
ガヤ(再び女子のどよめき&拍手)
環綺 「んー……、気になる。ちょっと覗いてみよっか」
彗 「そうね。試聴はあとで」
環綺 「はいはーい♪」
○場所:同・グラウンド(ハンドボールコート)
日向 「よっ、ほっ、やあっ! あはは、遅い遅い!そんなんじゃまた決めちゃうよ! そりゃっ!」
日向 「よっしゃ! 十点目―っ!」
同級生C「ひ、日向ちゃん! やりすぎやりすぎ! 相手は先輩チームだよ!」
日向 「え、今のディフェンスで!? あたし初心者だよ?」
同級生C「しーっ! だから、そういうこと言っちゃだめ!」
日向 「大丈夫だって! 先輩たちもまだ本気出してないはずだし、楽しいのはここから(だよ)……」
勝ち気な女顧問Dが来ていた
顧問D 「鬼怒川―っ! 交代!」
日向 「えっ!? 先生、なんで!?」
顧問D 「試合になんないんだよ! お前、色んなとこの体験入部荒らし回ってるだろ! 噂になってるぞ!」
日向 「荒らしてなんかないよ!入部したいのにどこもあたしについてこれないだけ! 女バスでしょ、柔道でしょ、サッカーでしょ、陸上でしょ……」
顧問D 「それを荒らしてるって言うんだよ! うちの部員が自信なくすから交代!」
日向 「ええーっ! ねえ、あなたからもなんとか言ってよ!」
同級生C「(引き笑い)はは……日向ちゃん、先生の言うことは聞いた方がいいよ」
日向 「あなたまでそんなこと言うの!?じゃあ先輩たちは?やられっぱなしじゃ終われないでしょ!?」
先輩たち(無言)「……」
日向 「……っ! 分かった、分かりました! じゃあね!」
環綺 「あらら……。あの子かわいそ~」
彗 「あの体操着、高等部の一年生かしら。環綺、見覚えある?」
環綺 「ううん。うちに高等部から編入してきた子じゃないかな」
彗 「(ふむ、と息)……。あの才能、もったいないわね」
○場面:師範学校・校舎裏
日向 「つまんない! つまんない! つまんない! つまんないっ!」
日向 「……はあーあ!」
日向 「楽しくやりたいだけなのになー……」
日向N 「昔から体を使う競技では一度も負けたことがなかった。すごいねって色んな人が褒めてくれるけど……何をやっても勝てちゃうというのは、それはそれで退屈なんだ」
日向 「この学校ならちょっとはマシになると思って編入してきたのになー。温泉むすめ師範学校もこんなもんか……」
彗 「――それは聞き捨てならないわね」
日向 「ん?」
彗 「周りの人間に不満があるのなら、自分が先頭に立って導くべきよ。愚痴を言うだけなら誰にでもできるわ」
日向 「……どちらさま?」
彗 「高等部三年、玉造彗。こっちは別府環綺」
環綺 「こんにちは~♪」
日向 「ふーん。で、なんか用? 今、あたしすっごく機嫌悪いんだけど」
彗 「では、要件だけを伝えるわ。あなた――私とアイドルをやりなさい」
環綺 「えっ?」
日向 「はあ?」
環綺 「ちょっと彗ちゃん。初対面の子にそれはないんじゃ(ない?)」
彗 「(遮って)環綺、少し下がってて」
環綺 「(面白くない)む……」
彗 「(日向に)近々、アイドルを種目にして『温泉むすめ日本一決定戦』が開かれる。あなたには大会をリードしていくべき才能と、義務があるわ」
環綺 「……またそういう言い方……」
彗 「どうかしら、鬼怒川日向」
日向 「パス」
彗 「理由は?」
日向 「日本一って言われても全然響かない。一番なら取り飽きてるしね」
彗 「なるほど……。つまり、今のあなたでは日本一の温泉むすめになれないことを示せばいいのね」
日向 「……へえ。あなた面白いね!」
日向 「じゃ、勝負しよう! そっちが勝ったらアイドルやってあげてもいいよ!勝負の内容は……そうだなー、アイドルだし、ダンスでどう?」
彗 「ダンス? なぜ? アイドルに必要な資質はそれだけではないわ」
日向 「あなたの立ち姿、踊りやってる人って感じだから。そっちの得意分野で勝負してあげるってこと!」
彗 「……なるほど」
日向 「どうする? やる?」
彗 「やるわ」
日向 「オッケー! せいぜい頑張ってね。そっちの人もやるの?」
環綺 「私?」
彗 「ああ、彼女は関係ないわ」
環綺 「(食い気味に)いや。そういうことならダンスの課題曲は私が選ぼうかな」
日向 「へ? 曲?」
彗 「環綺……?」
環綺 「うふふ、よろしく~。じゃあ、踊れる場所に移動しましょう♪」
彗 「え、ええ……」
○場所:師範学校・屋上
ナレ 「環綺が二人を連れてきたのは、温泉むすめ師範学校の屋上だった。ルールは単純な一曲勝負。環綺が作った曲にそれぞれがアドリブで振り付けを考えて踊るだけ。勝敗はその優劣で決める」
彗 「(静かに、深く、一回だけ深呼吸)」
日向 「お、それ何? 準備運動?」
環綺 「彗ちゃんのルーティーンだね。踊る前はいつもそうやって集中力を高めるの」
日向 「ふーん……」
環綺 「さて、スマホのスピーカーだけど、曲の用意は終わったよ。ふたりとも、準備はいい?」
彗 「ええ」
日向 「うん!」
環綺 「じゃ、頑張ってね。――ミュージック・スタート!」
日向 「へー。いい曲だね! じゃあ、あたしから行くよ!」
N 「そう言って、鬼怒川日向がステップを踏み始めた――その瞬間に勝負は決したようなものだった。『これは勝てない』と彗は察した。曲への反射神経が違う。身体のバネが違う。持って生まれたリズム感が違う。軽やかなステップと、伸びやかな上半身の動き。日向は音楽に本能で反応しているのだった」
環綺 「(呆然と)……すごーい……」
彗 「(忌々しげに)……っ。想像以上ね」
日向 「へいへーい! それで本気?」
N 「いつの間にか彗も踊り始めていた。しかし、彗のダンスがまるで印象に残らない。こんな惨めな姿をさらした彗を環綺は初めて目の当たりにした。二人の間には大きな差があり、環綺は咄嗟に――」
日向 「あれっ? なに?」
環綺 「(誤魔化して)あー、ごめん! スマホ落としちゃった!」
日向 「えーっ、なにやってんの!? スマホ大丈夫? 壊れてない?」
環綺 「うん。ホントごめんね」
日向 「ならいいけど……。ただ、こっちが大丈夫じゃないみたいね」
彗 「(軽く息を乱して)はあ、はあ……」
日向 「ま、ここまでかな。歯応えはなかったけど、曲はよかったよ! じゃね!」
彗 「(まだ息を整えつつ)……あなた、わざと止めたわね……」
環綺 「あ、それ聞いちゃう?」
彗 「余計なことを……!」
環綺 「……ふふ。ごめんね、彗ちゃん」
「後編に続く」
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