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ごめんね

 百合子さんが母を亡くして間もなく、夜中に母の霊が現れるようになった。悲しげな顔で「ごめんね」と囁く。
 百合子さんが睨みつけると母は名残惜しそうに消えて行くという。
 悲しくはなかった。散々虐待した母である。母が世を去ったあとには憎しみしか残らなかった。
 母の霊は毎晩現れては「ごめんね」を繰り返す。しかし、百合子さんは引っ越すでもなく、除霊するでもなく、ただ母の霊を無視し続けた。
「成仏させてなるものか」
 百合子さんはただそれだけを思い続けているという。

―― 了 ――

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