記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

"BONES"が教えてくれた元兵士たちの闇と苦悩

娯楽と英語耳育成のために、毎日ほぼ欠かさない海外ドラマ鑑賞。
事件モノ、刑事モノを中心に、お気に入りの9作品を順々に日替わりで鑑賞している。と言っても、主に夜家事の際にiPadでのながら鑑賞、かつ細切れパッチワーク鑑賞(勝手に命名)がもっぱらだが。。。

海外ドラマの魅力は、何と言ってもストーリーの多様性。
たとえば事件にしても、その背景にあるエピソードは、自分の日常の半径内では想像も思考も及ばない、濃くて深くて未知な世界観に満ちていて、毎回全身で引き込まれて、都度、家事の手が止まる。

9作品の中の一つ『BONES』は、人類学者のブレナンとFBI捜査官のブースがコンビを組んで、数々の難事件を解決していくクライム・サスペンス。
現場に残された被害者の『骨』(bones)からブレナンが手がかりや証拠を見つけ、事件を解決に導いていく様子は、毎回、圧巻だ。

先日観たエピソード『英雄の秘密』(シーズン1 / 第21話)では、アメリカが現在進行形で抱える、戦地から帰還した元兵士たちの現状をある事件を通して突き付けていて、胸にずっしり重く迫ってきた。

戦後79年の日本では、元兵士の戦争体験は、高齢者の方々から伝え聞く遠い記憶だが、アメリカでは普通に若い世代が戦場のトラウマに取りつかれ、今なお抱える葛藤や苦悩として、ドラマでもよく描かれる。

戦場を体験した元兵士と、体験していない反戦派の登場人物が、交わらない論戦を繰り広げるセリフの応酬は、海外ドラマのあるあるだ。

実はBONESのブースも、イラク戦争に派遣された元兵士で、誰にも打ち明けられずにいる戦地での秘密と苦悩を抱えていた。

ある日、戦死者の墓地内で焼死体が発見され、抗議の自殺と見なされたことからブースの感情は乱れ、捜査に当たりながらも心穏やかではいられない。
元兵士のブースにとって、戦死者の墓地敷地内での抗議の自殺は愚か者の行為で、戦死した兵士たちの名誉を汚した、と許せない。

お互い惹かれ合いながらも素直になれない相棒のブレナンとは、毎回、好きな子にわざとツンケンする小学生男女のような関係性だが、この回のブースの態度はいつになく辛辣で、セリフにいちいち苛立ちがこめられていた。

感情的になるブースにブレナンが告げる…

"I just think inside you're still millitary, Booth.  You might be too close to this one."(あなたは心の中ではまだ軍人なのよ、ブース。事件に近づき過ぎている)

それに呼応して、会話の終わりに、ブースが声を荒げて言い放つ。

"I have people all around me with opinions about the war, who don' know what the hell they're talking about." 
(戦争がどんなものか知りもしないくせに、俺に意見しようとするやからが多いもんでね)

焼死体は元兵士のマーシャルで、戦死者ケントの墓石に寄りかかるように置かれていた。
ケントは、NBAへのドラフト直前にイラクへ派遣された州兵で、大学バスケのスターだった。NBAとイラク戦争。。。そんな身近なスポーツにも戦争は影を落としていた。平和な日本ではピンとこないエピソードだ。

ケントはイラクでのある村で、反政府軍の隠れ家を襲撃した際、自分の命を投げ出して仲間を救った英雄として報じられていた。

一方、マーシャルの焼死体を検証した末、数々の矛盾点を発見、ブレナンは彼が自殺ではなく殺人と断定した。

そして、ケントが戦死した現場の写真や証言にも不審な点がいくつも見つかり、ついにはケントの遺体を掘り起こすことにまで及ぶ。(土葬ならでは、の捜査!)

"Exhume a war hero?  Do you have any idea what you're asking?"
(英雄の墓を荒らす?何を言っているのかわかっているのか?)

"It's the only way we'll really know what happened to him."
(真実を知るには、それしか方法がないの)

"He is supposed to be honored this week, not humiliated."
(今週、追悼式が行われるのを知っているだろ。恥をかかせるな)
→ケントが戦死してちょうど1周年の式典が予定されていた。

"Doesn't Marshall deserve as much respect and honor as Kent?"
(マーシャルもケントと同じ尊敬と名誉を受けるべきでしょ)

戦死者の栄誉を守りたいブースと、殺害されたマーシャルと、ケントの戦場での最期の真実を突き止めたいブレナン。
それぞれの立ち位置からのセリフの応戦は迫真に満ちていた。

ここからはネタバレになるが。。。
ブレナンたちが突き止めたケントの戦場での真相は、衝撃のものだった。

ケントの死は、味方の部隊の上官の誤射によるものであったことが判明。
そこまではよく耳にする話だが……..
反政府組織の隠れ家と伝え聞いて突入したその家屋は、実は一般人の家族の住処で、夕食の準備をしていただけの民間人の家族だった。

最初に突入したケントが撃ったのは家族の母親で、手に持っていた夕食の準備のお玉を銃と見間違えて。。。の咄嗟の襲撃だった。
「極限まで追い詰められた緊張と暗闇の中では、少しでも光るモノは銃に見えてしまうものなんだ」
のブースの言葉が重い。

戦場では仲間が敵に見えることもある。先に撃たなければ撃たれる。。
冷静な判断など下している猶予はない。
戦場経験者のブースも理解を示す。

でも、どうしても許せなったのは、民間人一家を襲撃、殺害してしまい、その過ちを隠蔽するために、女性の手のおたまを銃に置き換え、武器を所持していなかった男性の遺体の手にも後から機関銃を添えた、姑息な隠ぺい工作だった。

その後、部隊で口裏を合わせ、そこで起こったことは永遠の秘密となった。
ケントへの誤射も伏せられ、部隊を救って犠牲になった英雄として葬られた。
しかし、彼らの中に良心のかけらが存在しないはずはない。
やがて少しずつ、心を病んだり人格が変わったりひずみが生じ始める。
焼死体で見つかったマーシャルも、自分を責め、真実を公表する、と口にしたことで殺害された。

戦死した若者も生還した元兵士も、誰もが人に言えない深傷を心に負い、まだそれらが過去形にはなっていないアメリカの現実と悲劇が、哀しく重く迫って来た回だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?