~パークホテル東京の快進撃 2/5
岡村 衡一郎
客室の安売り禁止。かみ合わないプロジェクト
「客室の安売りは、自分たちのホテルの価値を自分たちで下げていることになります。値下げなしで、現状を立て直す対策を考えてほしい。決めたことは、原則応援していきます」。
柳瀬連太郎社長が退路を断つ思いで、パークホテル東京の現状突破プロジェクトは立ち上がりました。
「宿泊」「料飲(料理と飲料)」「企画」「マーケティング」「人事」という各グループのグループ長が、落ち着かない面持ちで集まりました。
建設的な対策を打ち出すプロジェクトのはずが、他部門に対する非難からなかなか離れられません。
仕事は基本的にグループごとの分業制で、自分が率いるユニットでできることは精一杯やっていたのだから、うまくいかない現実の責任をほかのグループの取り組みに押しつけてしまいたくなる気持ちも分かります。
「接客を何とかしてくれないと、せっかくお客さまを集めてもリピートしてくれない」は、マーケティンググループから見える世界です。
「今の人事制度では人が定着しない。働きやすい環境づくりが いいサービスを生むはず」と、宿泊グループは育てた人が辞めてしまう原因を人事グループに求めます。
そこで、一つの提案をしました。
うまくいかないことに対して誰かを責めるのではなく、問題を数多く、できれば、なるべく面白く、ポストイットに書き出してみるように促しました。
モヤモヤしていたことを公にしていくプロセスは、解決のアクションへの移行を妨げていた壁を崩していきます。
問題点をすべて確認し合うことができれば、自分の立場を守るとか、人間関係を壊すことを怖れて発言を控えるといった障害はなくなっていきます。
そして、それらの根っこにある原因を一言で説明できるようになるまで掘り下げていきます。
プロジェクトメンバーとともに、100枚のポストイットに書き出した問題の核心に何があるのかを考えました。
「うちはデザインホテルと言っているのに、それが形骸化している……」
加盟したこだわりが感じられなくなってきていないか、というのです。
この問題提起には、しばらく皆が沈黙します。
その静けさを破るように 「そうだよね」と、勇気を出して別のメンバーが口を開きます。
「僕らは東京で最初にできたデザインホテルという看板に甘えている」
「開業時のコンセプトは、素晴らしかったけれど、自分たちが『なんとなくデザインホテル』にしてしまっていないか」、次第に、プロジェクトメンバーたちは、ホテルが苦戦している状況に対して自責で考えるようになっていきました。
問題の根っこにある原因と自責で向き合えるようになれば、突破口は半分見えてきたようなものです。