30:ねぇ、エミちゃん
※登場人物は全て仮名です。また一部詳細を変えています。
あなたが亡くなって、もう随分と時間が経ってしまいました。
でも、実はまだ1年も経ってません。
一年って本当に早いよね、なんて言います。
実際、本当に早いんだと思います。
でも、今のオレに取っては、あなたを亡くしてからの時間はとても早く感じるけど、あなたがいない時間はそれほど早く感じません。
あなたとの約束を心待ちに毎日を過ごしてた時は、本当に毎日が早かった。
あなたと過ごしてた時間は、もっと早かった。
今は、今日と言う日を乗り切る為の身近な目標がありません。
仕事からの帰り道、橋の上から遠くに、あなたとの思い出が詰まってる場所にあるランドマークが見えます。
ライトアップで青く縁取られたそれを見ると、子供の頃に見た遊園地の観覧車の様な、心が浮き立つ様な気持ちになります。
あなたがいた頃は、それを見ながら、あなたとの次の約束までを指折り数えていました。
その麓で何度も会っていたから。そこは、あなたとの場所だから。
今は、それを懐かしく思いながら眺めるだけです。
ランドマークの麓に行ってもあなたはいないし、ランドマークの麓を歩いてもあの日の様に、あなたは横からぶつかってきません。
肩をぶつけ合う様に、肩を寄せて歩いた記憶が鮮明にあるのに、今歩いても誰もぶつかってこない、その風景は変わらないのに、何故かとても悲しくなります。
あなたは、あなたを苦しめていた物から解放されましたか?
大好きだったお酒、今でも飲んでますか?
お兄さんと再会出来ましたか?
新しく友達は出来ましたか?
後悔してませんか?
あなたに対する気持ちで、気掛かりな事があります。
ねぇ、エミちゃん。
あなたはオレと接する事で、オレに色々なものをくれました。
あなたを通じて出会えた仲間達とは、今でも仲良くやってます。
あなたが声を掛けてくれた事がキッカケで、いくつもの新しい景色を見ました。
あなたに対して10年以上振りに、本気の恋をしました。
面と向かって、直接『好きです』と伝えたのは、伝えられたのは、あなただけです。
あなたと過ごした時間全てがかけがえないものです。
オレはあなたと接する事で、あなたに何かを残せましたか?
オレはあなたと接する事で、あなたに何かをプレゼント出来ましたか?
オレは、あなたにとって、負担ではありませんでしたか?
今となっては、もう何もわかりません。
ただ一つの気持ちを除いては。
やっぱり、あなたの事が大好きでした。
ササキエミちゃん
享年45(満43歳)
オレがあなたに出来る事は、お互いに28歳で出会ったあの日からこんにちまでの事を、あなたが自ら命を絶ったあの日の事を、あなたの事を一生涯忘れないという事だけです。
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