「日経平均3万円超」で、今すぐに株を買うべきか

今年内は「日経平均株価については、年内に3万円の大台を超えると予想している。ただ高値メドを3万1000円には置いてはいるものの、今年の高値(ザラバベースで2月16日の3万0714円)に達することができるかどうかは、かなり微妙な情勢だ」と予想した。また、来年は「日経平均は2万5000円に下押しするとの予想値を立てている」と解説した。

そのうち、今年内の株価の動きに関しては、当面は上昇力に乏しく横ばいの展開で「10月初めあたりでも日経平均は2万8000円を何とか超えた程度の青息吐息かもしれないが」、その後は上昇力を強め、3万~3万1000円に達するとの見込みであると述べた。

これに対し、実際の日経平均は急騰し、一気に3万円を超えた。これほど早い時期に、速い上昇ピッチで日経平均が上振れするとは、まったく見通すことができなかった。読者の皆様にお詫び申し上げたい。

ただ、足元の急騰にもかかわらず、年末の予想値である「高値メド3万1000円」は、変える必要がないと考えている。つまり、これからまっすぐ大きく日経平均が上がり続けるとは考えておらず、短期下振れ(3万円を割れて、場合によっては2万9000円も下回る)を示現し、そこから年末までに本格的な3万円超えを再度達成する、との見通しだ。

これまでも同様だが、このように筆者はあまり見通しを変えない。筆者の多くのお客様から、「馬渕さんはあまり予想値を変えないね。これは信念があるのか、ただのバカなのか、どちらかだね」とのお褒めの言葉をよくいただく。当コラムの読者の方は、筆者が「後者」であることは、すでに重々ご存じだと思う。

それはさておき、8月20日に日経平均が2万7000円をわずかに割り込んだ局面では、多くの個人投資家が「もっと株価が下抜けていくのではないか」とおびえ、逆に9月に入って足元では「早く買わないともっと上がってしまうのではないか」と慌てふためいているようだ。

実は右往左往(株価は上下に動くから、上往下往?)しているのは、そうした個人投資家だけではない。以下、内外投資家のドタバタと、それを踏まえて「日経平均は今からいったん下振れする」となぜ見込んでいるのかを説明したい。

足元の日本株の急騰について、とくに弾みがついたイベントは、9月3日に菅義偉首相が自民党総裁選挙不出馬を表明したことだった。株価が上がり始めたのはそれより前だが、「日本の政治情勢が株価上昇要因だ」との解釈が主流となっている。

前回のコラムでは、日本の政治情勢についても触れている。「とくに菅義偉政権の経済政策に期待して株価が支えられているという状況ではない。逆にいえば、もし菅首相が交代したとしても、株価が下落することもないだろう」と、株価下落を見込んでいなかった。

その一方で「9月29日の自民党総裁選挙、その後と見込まれる総選挙(10月投開票か)が終わるまでは、結果が出ていない分だけ不透明で、日本株を大きく買い上げる材料にはならない」と書いた。筆者が接触している範囲での海外投資家の見解も、考え方の根本はこれと同様だと感じる。

では、誰がここ数週間、日本株を買い上げているのか。筆者は、直接内外投資家から株式の売買注文を受託する業務を営んでいるわけではない。本当に誰が買っているかは、そうした売買注文を実際に見ている人にしか、すぐにはわからないだろう。また、その立場にいる人たちも、自社に寄せられる注文しかわかるまい。

下記は、筆者が諸報道や自身による取材を基に推察した売買動向であって、後から統計によりいくばくか判明した部分以外は、実態に即していると信じてはいるが、事実そのままではないかもしれない。

それでもその推察を述べると、当初の株価の戻りは「先物の買い戻し」が主導したのだろう。これは証券取引所の統計で確認できる。

日経平均が一時2万7000円を割り込んだ8月の第3週は、海外投資家は日本株先物(日経225、TOPIX、マザーズなどの先物の総合計)を3453億円売り越していた。ただ、2万7000円割れで達成感が出て「利食い買い」に走ったためか、それによる株価指数反発で慌てて買い戻したためか、その後は8月第4週に3361億円の買い越しに一気に転じている。

また、さまざまな情報を寄せ集めると、一部のプログラム売買が日本株の買いを発動させたようだ。これはまさに「機械的な買い」で、ネット上の報道を検索し、日本の政治に関連した単語が増えると、自動的に日本株を買った向きがあったと報じられている。

加えて、CTA(商品投資顧問)と呼ばれる海外投資家が買い出動したとの報道も目にした。CTAのうち、トレンドフォロワー、すなわち市況が上に動意づけば買い、下に勢いがつけば売る、というプログラムによるものだ、と推測されている。

こうした先物の買い戻しや、人間ではない投資家、つまりコンピュータプログラムによる買いは、日本の政治情勢が実態としてどうであるかなどに関係ない短期的な買い物であり、長続きするとは考えにくい。実際、菅首相の出馬断念表明の日を含む9月第1週は、海外投資家は先物を買い越したものの、その額は2955億円とその前週からはやや減少している。

では、短期的な機械などによる買いが一巡しつつあるとすると、そのあとの株価の上昇は、人間の投資家が買ったのであろうか。

実はここ数日、筆者のところには、海外投資家から寄せられる質問で増えているものがある。それは以下のようなものだ。

「自分自身の判断としては、別に自民党総裁選や総選挙の結果が出たわけではなく、また総選挙で与党が議席を増やすかどうかは疑わしく、別に日本株を大きく買い上げる必要はないと考える。大した経済政策も出ないだろう。しかし、実際の日本株は急騰している。これは日本の投資家が買っているに違いない。われわれ海外投資家は日本に住んでいないので気がついていないが、日本人なら『日本株は明らかに思い切って買いだ!』と誰でもわかる、政治面でわれわれが見落としている要因があるのか」

時折冗談を交じえて「そんなもんはねぇだ」という回答を返しているが、人間の海外投資家で足元の株価上振れに驚き、きっと国内投資家が自信と根拠を持って買い上げているに違いないと、焦った向きがあるようだ。

こうした焦りから買い出動した海外投資家はいるようで、現物の日本株(東証1部、2部、マザーズや名証などの総合計)の海外投資家の売買金額を見ると、8月第3週は3634億円の売り越しであり、第4週も小幅ながら45億円の売り越しであったものが、先物に遅れて9月第1週は3669億円の買い越しとなった。これが先週(9月第2週)も買い越しで続いている可能性がある。

一方、国内投資家の間では「足元の政治情勢を踏まえて、日本株を思い切って買いだとは判断しないが、海外投資家がわれわれの知らない何かを知っていて、本格的な日本株買いに出動し始めたのではないか」と悩んでいる向きも多いようだ。

つまり、海外投資家は国内投資家が何か隠れた買い材料を持っているといぶかり、国内投資家は海外投資家が何か確信を持って買い上げていると思うといった、相互の「疑心暗鬼」に陥っているようだ。しかし、こうした疑念による買いもそう長くは続くまい。

こうした点から、足元の日経平均はいったん下押しし、上値を再度探るのは、10月ともみられる総選挙のあと、そのタイミングで4~9月期の決算内容を踏まえてから、と見込んでいるわけだ。

実は、多くの内外投資家の目が日本株の急伸に奪われているところ、アメリカの株価指数の頭が極めて重くなってきたことのほうが、筆者は気にかかる。

まだアメリカの株価は上値を伸ばす余地があると見込むが、その余地はかなり狭まった。来年、テーパリング(量的緩和縮小)が実際に進み、本格的な株価反落に至る前の今年内の株価上昇は「最終段階」に差しかかりつつあるのだろう。

それでも上値余地があると見込むのは、企業収益の増勢が続くと期待できるところによる。アメリカのファクトセット社が集計した、S&P500種採用銘柄のこの先12カ月間の1株当たり利益のアナリスト予想値の平均値を見ると、前年比で4割強の増益が見込まれている。

しかしその前年比は、前年同期がコロナ禍を抜け出して収益水準が大きく戻る局面であったことを割り引いても、伸び悩みに陥っている。一方、株価はかなり先行きの収益増まで織り込んでしまった感がある。結果として予想PER(株価収益率)も高水準で、アメリカ株がこのさき大幅に上伸するとは予想しがたい。

そのため日本株については、アメリカ株上昇という「支援」があまり期待できないとすれば、当面いたずらに悲観視する必要はないものの、いくばくか慎重に見ておいたほうがよいのだろう。



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