ライバルではなくパートナーとして。3つのホテルの仕掛け人が見据える、これからの五島。【旅先案内人 vol.16】五島リトリート ray#2
島に新しい風をもたらす、3つのホテル。
この夏、五島列島には、2つの新しいホテルが同時期に開業しました。私たち五島リトリート ray、そして、カラリト五島列島。2年前の2020年にはhotel souというデザイナーズホテルがオープン。近年五島では、それぞれカラーの違った新しいホテルが立ち上がっています。
コンセプトも大きく異なる私たちのホテルですが、共通点は「地域の案内人」であること。3つのホテルの仕掛け人が集まり、これからの五島や観光の未来について、トークセッションを行いました。hotel sou共同代表 桑田隆介さん、カラリト代表 平﨑雄也さん、五島リトリートray 支配人 西浦圭司さんの対談の様子をお届けします。
島を代表するデザインホテルを。<hotel sou 共同代表 桑田隆介さん>
ーーー2020年4月に開業した「hotel sou」。築50年以上の建物をリノベーションして作られました。設計は、 建築家 谷尻誠・吉田愛率いるSUPPOSE DESIGN OFFICEが担い、廃墟のような雰囲気の中、五島の地域性を捉えながらも、これまでにない斬新なデザインホテルです。2年前はまだ福江島自体にも、デザイン性にこだわったホテルが少なかった中で、大胆なチャレンジをされたhotelsou共同代表の桑田さん。ホテルの先輩でもある桑田さんに移住のきっかけやホテルの立ち上げについてお聴きしました。
桑田:「もともと私は対馬の出身で、父の出身が壱岐、母の出身が対馬なんです。大学からずっと東京にいて、社会人になってからはアパレルの仕事に就いていましたが、長崎の島々にルーツもあったのでいつか長崎の島で何かしたいという思いはありました。
はじめて五島へ訪れたのは2013年。アパレルの仲間4人と有志のプロジェクトを組んでよく五島に通っていました。ただ遊びに行くのではなく、何か地域に貢献できることをしたいと思い島の人にヒアリングしたところ、当時から島の後継者不足に課題があることを知りました。そこで、街コンならぬ”島コン”を企画して、東京の女性と島の男性のマッチングイベントを数回開催したんです。その時の開催場所がソトノマというカフェでした。ソトノマと出会ったことが移住の大きなきっかけだったのですが、そこからソトノマを起点に現地の人とたくさん繋がり、五島のマグロの養殖の会社に誘われたこともあり移住を決めました。」
桑田:「ホテルをやろうと思った動機は五島の注目度も上がってきて、著名人やクリエイターが足を運ぶことも増えたのに、面白い人たちの琴線に触れる上質な宿がなかった。それであれば、自分達が人を連れて行きたくなるようなおもしろい宿をつくろうと。
2018年に長崎や五島が世界遺産に登録され、移住者や観光客が増えていく中で、上質な宿が必要だと思いました。そこで、かつて自分達の仕事仲間でもあった建築家の谷尻誠さんに声をかけさせてもらって設計してもらったのが、hotel souです。」
ーーーー五島のポテンシャルを強く感じながらも、滞在の要となるホテルに課題を感じていた桑田さん。ないなら自ら作ってしまおう!と、ホテル運営は未経験ながら、大胆なデザインのホテルを五島に誕生させました。
現代社会のライフスタイルの新しい在り方を模索したい <カラリト代表 平﨑雄也さん>
ーーー2022年8月、この夏オープンしたばかりの「カラリト 五島列島」。大浜というエリアのビーチ沿いに建ち、”飾らない自分にかえる、晴れやかな時間”をコンセプトとしたホテルです。どこかホッとする雰囲気で、思わず「ただいま」と言いたくなるようなあたたかな場所には、代表の平﨑さんの想いが詰まっていました。
平﨑:「2019年7月に、はじめて五島を訪れました。当時、東京の不動産開発の会社に勤めていて、”大浜でホテルをやるので投資してほしい”と話を持ちかけられたのがきっかけです。私自身、熊本生まれ熊本育ちなこともあり、いつかは九州に帰って、発展・活性化につながることをしたいと思っていました。五島のプロジェクトの話には、心ときめいてメインでやらせてほしいと企画を練ったんです。
しかし、当時の会社では規模が小さい、コンセプトが新しすぎるという理由で、保留の状態になってしまい、進めることが難しくなってしまいました。悶々とした想いでいたところ、投資家ではなく、一緒に運営をやっていこうよと、話を持ち込んでくれた現在の仲間に誘われたんです。即答でYESでした。新卒から13年いた会社を2020年に退職して、五島へ移住をしました。ちなみに、私も桑田さんと同じく、ホテル運営に関しては全くの素人で。投資家時代にホテルに関わったことはありましたが、本当にゼロからのスタートでした。」
平﨑:「都市の発展はデベロッパーがプロデュースしてやっていますが、都市は豊かになっていくのに人の心は疲弊していくような現象が起きている気がして、反比例だなと感じていたんです。そんな現代社会を変えたいという想いがずっとありました。疲弊しがちな都市の暮らしと、対立軸になるようなライフスタイルの新しい在り方を模索したいと思い、そのためには地方に人を連れてくる必要がある。都市ではなく、自然や文化があり、損得勘定がない人情や会話が生まれる。そういったカルチャーって九州らしくて、全員九州に移住しちゃえばいいのに!と思っていました(笑)
実は、ホテルをやりたかったわけではなく、移住に近い形の中長期滞在からはじめたかったんですよね。ただ、東京や他の都市部でいくら五島・九州いいですよ、と言っても伝わらない。とっかかりとしてのホテルが必要でした。ホテルで五島を知り、カラリトを知り、こういう文化があると、知ってもらうための第一歩ですね。」
たどり着いた五島。リゾートの中でも”特別”な地。 <五島リトリート ray 支配人 西浦圭司さん>
西浦:「27歳から31歳まで、それまで勤めていたホテルの仕事を辞めて、4年かけて世界一周をしていました。旅に出た理由は、純粋に好奇心で世界を見たいという動機だったのですが、100カ国くらいをほぼ飛行機に乗らずに旅をしました。さまざまな国に足を運び、自分自身が多くの感動を受け取った中で改めて思ったのが、今度は世界中の人を日本に呼んでおもてなししたい、日本のことを伝えたい、ということでした。なので、帰国後は再びホテルマンの仕事に就きました。」
西浦:「最初は温泉地の老舗旅館、その後、京都の外資系ラグジュアリーホテルへ勤めました。シティホテルで働いてみて、シティの窮屈さというか・・・もっとゲストに過ごし方の提案の余地がある方が楽しいなと思って。そこからリゾートに目が向きました。その後知人からの誘いもあり、伊勢志摩、沖縄、ニセコ、そしてベトナムのホテルで働いてきて、今年の4月、rayの開業のために五島にやってきました。
多くのリゾート地を実際に見てきましたが、五島は特別ですね。赴任して数ヶ月経ちますが、いまだに毎日海を見ては綺麗だなと思って、飽きない。自然、食の豊かさなども、唯一無二です。そしてなにより、”人”の魅力の厚みがある。離島というある意味不便な立地柄なのか、島の人は”自ら生み出す力"に長けているように感じます。皆さん二足の草鞋どころか、三足も四足も、色んな活躍をされている人が多くて。自分の中になかった暮らし方や働き方の選択肢がある方が大勢いらっしゃって、毎日刺激をもらっています。」
「かえってこんね!」人を繋ぐ”ソトノマ”での出会い。
西浦:「rayの開業にあたり、桑田さんには本当にお世話になりました。移住をしてきたばかりの右も左もわからなかった頃に、桑田さんが毎日のように色んな地元の人を繋げてくれました。その場で電話をかけてくださって、10分後に来てくれるから!と(笑)rayが地域と深い繋がりを持ちつつ、地元の方にご協力頂きながら開業を迎えられたのは、間違いなく桑田さんのおかげです。」
桑田:「平﨑さんとも、西浦さんとも、初めて出会ったのは、”ソトノマ”(カフェ)でしたよね。私は普段、ホテルの業務をやりつつ、ソトノマでも働いているのですが、西浦さんと平﨑さんがそれぞれお店に来た時、運命とご縁を感じました。今でも覚えていますが、店に入ってきた瞬間にピンときて、直感でわかりました。絶対これはカラリトかrayどちらかの関係者だなって(笑)」
平﨑:「桑田さんも含め、移住者の先輩たちが私たちが入っていきやすい土壌を作ってくれたのは、すごく大きいと感じました。今度は、自分がそうなって人を呼び寄せたり、繋いでいかなくちゃと思いますね。」
桑田:「私が移住したきっかけも、10年程前にUターン・Iターンで五島に来た移住第一波の先輩方の影響が大きいです。特に、ソトノマで店主をされていた和子さんをはじめとする、ソトノマファミリーの皆さん。島に通っていたときに、色んな人を繋いでくれて、あたたかい仲間と出会えたし、本当にファミリーのように接してくれたんです。サービスを超えたサービスを、素のままやっている。まだ完全に移住を決めきれていなくて悩んでいた時に”かえってこんね!”という和子さんの言葉に背中を押されました。なので、こうやって仕事できてくれた人も、観光で来てくれた人にも、自分が和子さんや他の先輩方にされてきて嬉しかったことを、そのまま返しているだけなんです。」
平﨑:「”かえってこんね”って、すごく五島らしい言葉ですね。こんなに優しい愛に満ちた言葉はないなあ。何かあったら帰ってこれる場所、島にきて力を活かして何かに挑戦することもできる。心のセーフティネットがあるからこそ、東京や都市部で頑張れる。この”ふるさと感”が、五島の一番の魅力だと思います。ちなみに、うちのスタッフもみんな和子さんの虜になっていますね(笑)」
西浦:「私たちも、和子さんに会いにソトノマへ行ってますね(笑)色々な土地でホテルに携わってきましたが、島の人たちは仕事で外から来る人にも非常にオープンマインドですよね。普通、同業者が来るとなると、ライバル視されたりあまり関わりを持ちたがらなかったりすることも少なくないです。ところが五島は、桑田さんもそうですが、多くの方が歓迎してくれて、一緒に盛り上げて行きましょうという心意気を感じています。」
ライバルではなく、パートナーとして。共に高める”地域の総合力”
桑田:「rayやカラリトができる前は正直寂しかったですね。開業と同時にコロナ禍で、メインターゲットのインバウンドも全く来る気配がなく、一人悪戦苦闘していました。いま、こうして同じ価値観を持った同世代の仲間が周りに増えたことは素直に嬉しいです。実際に、既にhotel souのお客様で、rayやカラリトにも泊まったよ、という方もたくさんいて”回遊”が起きているのを実感しています。souはどうしても3部屋しかないので、キャパ的にも限界があります。相乗効果でお互いハッピーな関係になれたら最高ですよね。」
西浦:「地域を深く知るには、ある程度の滞在時間が必要だと考えています。もちろん1泊でも楽しんで頂けると思いますが、2泊・3泊あるいはそれ以上滞在してもらった方が、五島列島の本当の楽しさを味わえるはずです。そんな時に、宿泊の選択肢が複数あるのは地域としての強みです。hotel sou、五島リトリート ray、カラリト、それぞれ個性が違って、異なる層にアプローチできるのも、五島の観光に厚みが出ると思います。カラリトで非常に特徴的だなと思ったのが、マリンスポーツなどのアクティビティは全て無料で提供しているんですよね?」
平崎:「そうなんです。アクティビティ=あそびと捉えていて、SUPなどのアクティビティは宿泊者は全てタダです。一緒にあそびにいきましょう!という感じで、特に予約も取らずにやっています。故郷に帰省したとき、親戚のおじさんが釣りに連れて行ってくれた、というような”誰しもが感じるふるさと感”、この雰囲気を出したくて。スタッフも親戚のお兄さんお姉さんのようなコミュニケーションを目指しています。風通しよく、気さくな空気感、それが五島らしいなと思いますし、実際に島にフィットしている手応えを感じています。」
桑田:「私も試行錯誤を繰り返す中で、ふれあいがなにより大切だと考えています。最初は、お客さんとの距離感もわからず、コロナもあったので完全無人で営業していました。今は、お客さんによってはフルアテンドしますし、どこまででも接客します。スタイルを変えたことで、お客さんの反応がポジティブに変わっていきました。いままで、ローカルな体験ができる選択肢はたくさんありましたが、本当に良質なサービスを求めている人たちに対応できる場所がありませんでした。まだまだ伸ばせる余地がある部分だとも感じます。ぜひその領域は五島リトリート rayに引っ張っていって欲しいです。」
西浦:「お客様は、究極のラグジュアリー、ローカルにあるラグジュアリー、2つ求めていると思うんです。この掛け算が、新しいラグジュアリーなのではないかと、私たちは考えています。五島で自然や街も楽しみたいけれど、都会と変わらないような上質なサービスや空間も求めている人たちの受け皿となりつつ、島を楽しんでいただく。最終的には、hotel souやカラリトのように、島の営みに触れて頂けたらと思いますが、”入口”がそれぞれ違うからこそ、さまざまな層に五島に興味をもってもらい、足を運んでもらえるチャンスがありますよね。」
西浦:「既に島のホテル内で”回遊”が起きているように、これからもお互いがお互いを紹介しあって、ライバルではなくパートナーとして連携して観光を盛り上げていきたい。地域の中で戦うのではなく、もっと広い視野でみると、五島に人を呼ぶためには”地域の総合力”を上げていく必要があると思います。仲間がいて、それぞれが違う切り口で入口を構えているからこそ、1つのホテルでは到達できなかった場所へたどり着くことができるのではないでしょうか。」
島に住まう人・観光客・島の文化が、混ざり合う場所を目指して。
デザインに刺激され、地域との深い触れ合いを感じるhotel sou、共にあそび共に楽しむカラリト、上質な空間とサービスで島の魅力を引き出す五島リトリート ray。
オリジナリティあるホテルを”入口”に、島に住まう人、観光客、島の文化が有機的に混ざり合い、人々が出会い、新しい感動が生まれる。私たちのホテルがそんな場所になれれば、これほど嬉しいことはありません。
この地と出会い、この地に惚れ込み、3人の仕掛け人たちがそれぞれがたどり着いた五島列島。そんな「地域の案内人」たちがいるホテルで、それぞれの魅力を楽しんでいただき、島の暮らしや文化、あたたかさに触れていただければ幸いです。
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