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つまみ食い上等 その5 黄金の驢馬 アープレーイユス 呉茂一・国原吉之助訳
おもしろいのはともかくとして、これ古典じゃなかったら岩波文庫に入ってないだろう。ちょっぴりお色気やグロも入れつつ、笑わせてもくれるしで、大衆小説というか、週刊誌のゴシップ記事の連発というか、昭和の夜中のバラエティ番組感というか。
とはいえ、途中で有名な「クピードーとプシューケーの物語」を登場人物が語って純愛物語があったり、最後に主人公が発心起こして信仰の道に入ったりで、高尚な感じがするところもあった。エジプトのイシスを信仰するというのが、2世紀のローマ小説ならではなんだろうか。作者とされるアープレーイユスはエジプトのアレクサンドリアで研究もしていたとか。
ウィキペディアの「プシューケー」の項目
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岩波文庫の表紙の内容説明にあるように、魔法にいれあげている青年が、フクロウに化けるつもりがロバになってしまって、あちこちに売られたり連れて行かれたり、きつく働かされたり殺して食べられそうになって逃げたりで、浮世の辛酸を散々あじわうことになるんだけど、それはそれとして、ロバは周りの人間の様子を見ていたり話を聞いているので、その見聞も語られる。
ロバになった青年の見聞は、マンガみたいに単純な善玉悪玉キャラによる、どろぼう、けんか、横恋慕、浮気、嫉妬、などなど猥雑というかドタバタというか、通俗的なお話いろいろ。横恋慕と浮気の逸話多すぎ 笑 で、あるていど勧善懲悪。残酷なくらい。なので読んでいてフラストレーションはたまらない。しかしこのロバが村上春樹の小説の主人公なら「やれやれ」言いまくってると思う。
このロバ、漱石「吾輩は猫である」の猫みたいだなと思ったら呉茂一の解説にもそうあった。でも「猫」ほど風刺小説的ではないとあって、そうですね。風刺という感じはしない。そこまでいうほど批評的ではない。だから、きついなぁとか嫌味だなぁとか思わないで、あるていど気楽な読み物のように読めるのだろう。
この小説、連載マンガにしたら息抜きにちょうどいい楽しさだと思う。絵で見てみたい。また、いかにその困った状況をクリアするかというところはゲームみたいでもあった。そういうエンタテインメント、娯楽的な楽しさがある。
唯一完全な形で伝わるローマ時代のラテン語小説、とのこと。
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