八月二十五日に山へ散歩に沢が流れ
灼熱高気圧が南海上に下がり空気が楽になった頃、宇宙センターからロケットが地球を抜けるのを見届けて私は山の麓に着いた。動きやすい黒のジャージズボンに水色のポロシャツを着てシュプリーム(偽物)のリュックを背負ってハイキングコースに入ろうとしたのだけれど入り口にトラロープがピンと張られ町役場名義の侵入禁止を案内する看板がかけれていた。熊の目撃情報があったらしい。私が目撃者にならずによかった。
フェアレディZ32の重すぎるのにショボいトランクにリュックを戻し靴をサンダルに履き替えて沢に降りた。一日中歩き続けるつもりで用意してきた気持ちがこの優しい沢登って上流まで進んでみようと思わせたのだった。沢の水はキンと肌を固くさせたがすぐに慣れた。水の流れる音とのしのし歩く私の足音だけで立ち止まるとまったくの静かだった。一〇〇メートル進むのに随分と時間がかかる。ほとんどは足首程の浅くて柔らかい流れだが時よりそこにある大きな石を避けようとすると膝まで浸かりそうだしそこは流れが急になっていてそれを避けようとすると苔びっしりのった岩を慎重に進まなければならなかった。
随分と登ってきたように思える。クネクネ自由自在に流れる沢は距離と時間感覚を失わせそのかわりに自身の自由を与えてくれるように思う。
枝木の隙間から見える空は青く澄んで水の流れる清潔な音を聴きながら汗だくでさらに上流に進むと空がひらけ沢幅もひろがった。水車が周りイカ焼きの匂いがして見上げると休憩所と食事処とBBQスペースになっている場所だったようでテントを張ったり炭に火をつけている人がちらほらといた。私は場違いだった。沢から上がりビショビショのまま公衆便所で小便を出し車道を五分くだったら木漏れ日の中に白のフェアレディが見えた。小走りしたい気持ちを抑えてどこまで遠くからリモートでエンジンをかけられるか試しながら近づいていこうと立ち止まりオンスイッチを入れるとエンジンが始動したからもう駆け寄った。それから足だけを軽く拭いて帰路に着いた。
家を出てから一時間半の長旅だった。
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