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ジェンダーギャップ指数と性犯罪の関係
背景
温泉娘に対する仁藤夢乃さん(@colabo_yumeno)の批判ツイートをきっかけに、温泉むすめが炎上しました。
出張先で「温泉むすめ」のパネルを見て、なんでこんなものを置いているの😩💢と思って調べたらひどい。スカートめくりキャラ、夜這いを期待、肉感がありセクシー、ワインを飲む中学生、「癒しの看護」キャラ、セクシーな「大人の女性」に憧れる中学生など。性差別で性搾取。https://t.co/vw3w00zAPu pic.twitter.com/jkWRsvQKCa
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) November 15, 2021
「性犯罪に苦しむ女性を救う、あるいは、未然に性犯罪を防ぐ」という考えには私は大いに賛同しますが、仁藤さんは「性差別の深刻さと人権意識の低さが性犯罪と地続き」と考えているようです。本記事ではこれについて検証したいと思います。
少女を性的に消費することはもちろん、スペックを書いて女の子を並べ「選べる」存在として扱うこと自体が少女をモノ化している日本社会の性差別の深刻さ、少女を支配して楽しむ人権意識の低さそのものを表している。
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) November 16, 2021
そして現実の性差別・性搾取・性犯罪と本当に地続きの切実な問題です。
・性差別について
性的な女性キャラクターという表現が、性差別の深刻さを表していて、これが性犯罪につながると仁藤さんは考えているようです。しかし実際には、表現規制が厳しい国ほど性犯罪が多い傾向があります。
この記事にある統計から、一足飛びに「表現が自由であるほど性犯罪が減る」と馬鹿なことは言いません。しかし、表現規制派の「表現を規制すれば性犯罪が減る」はそれ以上に馬鹿なことを言っていると思うのですが...。
また、手嶋海嶺さん(@Teshima_Kairei)が主に以下の2つの観点から、きれいにまとめてくれている記事があるので、まだご覧になっていない方は是非ゆっくりしていってください。
①「バトナー研究再編」を根拠にした「表現が性犯罪を起こす」「表現には悪影響がある」論は、非常に限定された領域(自主的に治療プログラムに参加した性犯罪者)にしか完全には成立しないこと。
②「表現には悪影響がある」論も、多数の研究によって否定的な見解が述べられていること。
また、YANAMiさん(@yyposi918)が韓国での表現規制(アチョン法)を例にとりながら、実在の性被害を軽んじることに対しての危険性をまとめてくださっています。韓国では、実在の被害者を救う/未然に防ぐためのリソースが、架空の性表現の取り締まりに注がれてしまっている問題があります。
このように、「性犯罪を減らすために表現を規制する」ことはすでに統計的に否定されるばかりか、実在の被害を軽んじる危険性があります。
・人権意識の低さについて
仁藤さんのもうひとつの「人権意識の低さ」が性犯罪につながるという認識について、考察します。
ジェンダーギャップ指数と性犯罪
仁藤さんはときに、男女間格差や人権意識の指標としてジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index: GGI)を挙げています。
》遊説先には、セクハラに遭っても電車で痴漢に遭っても泣き寝入りだと、中高生ら若い女性が集まっていました。政治の中に新しい希望を見いだそうとしている人もいるのです。世界各国の男女間格差を測る「ジェンダーギャップ指数」で日本は世界百五十六カ国中の百二十位です。https://t.co/ynKviA4lzs
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) November 22, 2021
そこで、GGIと性犯罪の関係はどうなっているのか確認してみます。GGIは、世界経済フォーラムのGlobal Gender Gap Report 2021を用いました [1]。
性犯罪率(10万人あたりの性犯罪件数)は国連犯罪動向調査による統計を用いました [2]。なお、性犯罪の基準は国によって異なるので、国内外の犯罪統計を比較しやすくするためのInternational Classification of Crime for Statistical Purposes(ICCS)という枠組みがあります。近年多くの国はこのICCSカテゴリーに準拠した報告をしており、国連犯罪動向調査の統計は、各国の法的な基準でなく、国際的に定められた行動基準になってきています。ただし、各国の性犯罪率は最新のデータを用いましたが、国によっては報告の無い年があるので、GGIの年次とずれがあります。あくまで傾向的なものとして考えてください。(そもそも報告の無い国もあります。)
これらのデータから世界100ヵ国のGGIと性犯罪率を比較しました。
左と右は同じグラフですが、右側は縦軸を対数表記にしたものです。GGIが高い国ほど性犯罪が指数関数的に増加している傾向があります。男女間格差が少なく、人権意識が高い国ほど性犯罪が多いということになりますが、これはどのように理解したらよいでしょうか。
ジェンダー指数と性犯罪の解釈
GGIと女性に対する暴力の関係について言及している言説や論文はいくつかありますが、そのうちの2つ紹介します。
・EUにおける例
ひとつは2014年に欧州基本権機関(European Union Agency for Fundamental Rights: FRA)が発表した、EUにおける女性に対する暴力についての調査報告書です [3]。報告書の中では、EU諸国のジェンダー平等指数と性犯罪について次のように比較されています。ここでいうジェンダー平等指数とは、EUの政策に則って、政治、教育、雇用や財政などの観点からなる指標です。
ジェンダー平等指数が高い国ほど(縦軸)、パートナー/非パートナーからの肉体的/性的な暴力を受ける割合が高い(横軸)ことがわかります。FRAによると、暫定的な可能性のひとつとして、「男女平等が進んだ国ほど、女性に対する暴力の情報がオープンになりやすく、犯罪件数が多いのでは」としています。ただし、この説明を裏付けるためには、さらなる調査と研究が必要とも述べられています。
・フィリピンにおける例
もうひとつはフィリピンにおける、GGIの変化と女性に対する暴力事件数の関係について論じたものです [4]。(2018年)
(引用元の表から著者が作成したもの)
フィリピンにおいて、女性の権利を守る法律の制定などにより、年を追うごとにGGIスコアが線形に増加傾向です(左軸・黒色)。また、暴力件数も二次関数的に増加しています(右軸・赤色)。男女平等が進むことで女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数の増加につながったとされています。
・日本の例
EUとフィリピンのどちらの例でも、「ジェンダー平等によって、暴力に対する認知度が上がり、報告件数の増加につながった可能性」が示唆されています。それでは、日本におけるGGIと性犯罪率の推移はどうでしょうか。
上記と同様に、左軸・黒色でGGIを、右軸・赤色で性犯罪率の推移を示しています。GGIスコアは増加傾向ですが、性犯罪率は低下傾向であることがわかります。この結果は、「男女平等が進むと女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数が増加するのでは」という上記の考察とは対照的です。
「男女平等が進むと女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数が増加する」のは「誤り」か、「当てはまる国は限定的」あるいは「比較的当てはまるが日本は例外」のいずれかだと考えられます。
ここまでの統計をまとめます。
① EU独自の指数でも、GGIでも、男女間格差が少ない国ほど女性に対する肉体的/性的な暴力が多い傾向がある。
② さらなる調査が必要だが、「男女平等が進むことで、女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数が増加するのでは」という説がある。
③ しかし、日本では男女平等が進むにつれて性犯罪率が減少している。
④ 日本の例を見るに、上記の説は「誤り」「当てはまる国は限定的」「比較的当てはまるが日本は例外」のいずれか。
GGIの変化と性犯罪率の変化
比較的日本と状況が近いであろう先進国(OECD加盟国)に限定して、GGIの変化と性犯罪率の変化についてグラフにしてみます。ただし、国連犯罪動向調査の統計にはアメリカとイギリスのデータがなかったので、それぞれのこちらのデータ [5][6]と人口の統計 [7]から算出しています。
見にくくなってしまうので、グラフを4つに分けています。縦軸は対数表記の性犯罪率を、横軸はGGIを表しています。どの国もGGIは増加傾向なので、プロットの左の点が始点:2006年になっています(国によっては2007年からなどもある)。また、国によって性犯罪率のデータが欠損している年があり、グラフが途切れている場合があります。
国同士を比較すると、先進諸国に限定しても、GGIが高い国ほど性犯罪が多い傾向がわかります。また、GGIの増加とともに性犯罪率が増加する/減少する/増減する国があり、一般的な傾向として「GGIの増加によって女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数が増加する」とは言えません。
EUとフィリピンの例から、以下の説がありました。
①GGIが高い国ほど、女性に対する暴力の認知度が高く、性犯罪率が高い。
②GGIが高くなると、女性に対する暴力の認知度が上がり、報告件数が増える。
①について、世界全体でも、先進諸国でも傾向としては間違いありません。しかし、「GGIが高い国ほど本当に性犯罪率が高い」のか、「暴力に対する認知度」が影響しているのか、あるいは「その両方」なのかはまだわかりません。認知度が問題になりにくい殺人や強盗の件数を用いて、間接的な「治安の悪さ」などで比較してみるのがよいかもしれません。
GGIが高い国(アイスランド、フィンランド、アイルランド、・・・)などは、経年で性犯罪がむしろ増加傾向で、「性犯罪を減らすための人権意識」として「GGIを用いるのは適当か」は不明です。
②についても、先進諸国で比較しましたが、「GGIの増加によって暴力に対する認知度が上がり、性犯罪率が上がる」のは一般的な傾向としては読み取れません。むしろ、国独自の事情(経済状況、表現の規制度、教育、・・・)などの影響の方が大きいと考えられます。
特に、(海外の例ですが)性教育に注力することで性犯罪が激減したという記事を見かけたので、もう少し調べてみたいと思います。「性犯罪を減らすための人権意識」として、GGIより性教育の方が適切なのかもしれません。
まとめ
・「性犯罪に苦しむ女性を救う、あるいは未然に性犯罪を防ぐ」に大いに賛同します。
・「表現規制によって性犯罪が減る」というのはまったくの無根拠です。
・韓国の例を見ると、表現規制に注力することは、実在の被害者を軽んじ、より危険にさらすことに繋がります。
・GGIを上げることによる性犯罪への効果は、現状では明らかではありません。「性犯罪を抑制するための人権意識」として、盲目的にGGIを用いるのは不適当だと考えます。
・日本においても、「性教育による人権意識の向上」であれば、性犯罪の抑制ができると期待します。
引用
[1] https://jp.weforum.org/reports/ab6795a1-960c-42b2-b3d5-587eccda6023/in-full
[2] https://data.humdata.org/dataset/crime-trends-and-operations-of-criminal-justice-systems-un-cts-sexual-violence
[3] https://fra.europa.eu/sites/default/files/fra_uploads/fra-2014-vaw-survey-main-results-apr14_en.pdf
[4] https://www.researchgate.net/publication/337158624_Violence_against_Women_and_Gender_Equality_in_the_Philippines_Are_they_Related
[5] https://www.statista.com/statistics/642458/rape-and-sexual-assault-victims-in-the-us-by-gender/
[6] https://appsso.eurostat.ec.europa.eu/nui/submitViewTableAction.do
[7] https://www.worldometers.info/world-population/us-population/
今後の展望
・性犯罪率が増加している国と表現規制の関係
・治安の指標として、認知度が問題になりにくい殺人や強盗などの件数とGGIの関係、推移
・性教育の効果
について調べてみようと思います。
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