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「小人プロレスは人権団体に潰された」←プロレス誌が全否定
皆さんはミゼットプロレス、いわゆる「小人プロレス」をご存知でしょうか。
小人プロレスは様々な原因によって身長が伸びない「小人症」と呼ばれる疾患を抱える人々がレスラー(通称、ミゼットレスラー)として参加するプロレスのことで、日本では全日本女子プロレス(全女)で前座として試合が行われていました。
行われていました、と書いていますが小人プロレスそのものは規模が縮小しただけで現在も存続しており、現役のレスラーも居ます。
しかしながら、TwitterをはじめとするSNS上では度々「小人プロレスは消えた」と語る人々が現れます。
より正確には、彼らは「小人プロレスは人権団体のせいで潰されて無くなってしまった」といった主張を展開しながら小人プロレスに言及しています。
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ちなみに、これらの「小人プロレス人権団体潰滅論」はデマです。
改めて書きますが、小人プロレスは規模が大幅に縮小しただけで消えてもいないし無くなってもいません。
小人プロレスが衰退、縮小した理由は全女の客層の変化や内容のマンネリ化で人気が低迷したことに加え、医学の進歩によって小人症の患者数が減少し、新規レスラーのなり手がいなくなったことなど複合的な原因が絡んでいます。
人権団体潰滅論を声高に主張している人々は小人プロレスが現在も存続していることすら認知していないようなので、現状認識すら曖昧な状態で知ったかぶりしているだけなのがバレバレなのですが……。
ところで、何故彼らは小人プロレスなどロクに知りもしないのに人権団体潰滅論を利用してデマを広めようとするのでしょうか。
この疑問に対する明解な答えが、とある雑誌に掲載されました。
「小人プロレスの歴史の改ざんは『人権団体というのは正義ばかり言っているけど偽善でしかないんだ』と言いたいがため」
上のコメントは、玄文社から発行されているプロレス誌「KAMINOGE(カミノゲ)」120号の「プロレス社会学のススメ」内に掲載されたものです。
発言者はコラムニストのプチ鹿島氏で、「プロレス社会学のススメ」ではプロレス解説者の斎藤文彦氏と対談しています。
プチ鹿島氏のコメントは人権団体潰滅論者の心理の本質に斬り込むような内容もさることながら、彼らの主張に対して「歴史の改ざん」という厳しくも真っ当な評価を下しています。
対談では他にも
その人たちは小人プロレスを観たことがないし、ジャンル自体には興味もなさそうなのに「人権団体に潰された」という“説”に飛びついているんですよ。
「人権団体というのは正義ばかり言っているけど偽善でしかないんだ」と言いたい思惑も感じられる。
「『弱者救済』なんて言ってるけどインチキ臭い!」という攻撃ですよね。
小人プロレスはそのダシに使われているだけなんです。
といった鋭い指摘が続きます。
対談では人権団体潰滅論者への批判だけでなく、このようなデマが生まれた経緯も解説されています。
それなのになぜ、「人権団体に潰された」というデマが簡単に信じられるかというと、陰謀論と同様に「本当のこと」がまぶされてるからなんですよ。
たとえばドリフの『8時だョ!全員集合』にミスターポーンが出演していて、1クール(3カ月)出るはずが視聴者からの抗議もひとつの理由となって数週間で降板したことは事実なんです。
(中略)
「かつては『8時だョ!全員集合』を始めとしたゴールデンタイムの番組に出演したことがある」という事実が、「小人プロレスがゴールデンタイムで放送されていたけど、抗議で潰された」に改ざんされて、「彼らは人権団体に職を奪われた」という物語になっているわけですよ。
(中略)
だから結局、陰謀論ですよね。小人プロレスが衰退したのはまったく違う理由なのに、衰退したこと自体は事実だから「人権団体の抗議で弾かれたに違いない」っていう。
さて、こんなことを書くとデマ流布には熱心な人権団体潰滅論者の方々から「でも、この記事に小人プロレスは『世間の“良識”の声』が原因で消えたと書いてあるぞ!」と、お叱りを受けてしまうかもしれません。
身長141センチのプロレスラー、プリティ太田が語る「こびとプロレス再生は俺の運命」
しかしながら、当該記事は小人プロレスの歴史にまつわる記述に誤りがあり、KAMINOGEの対談でもこれを問題視しています。
まず、記事冒頭の
1980年代までゴールデンタイムのお茶の間を沸かせた「こびとプロレス」。
の部分ですが、前述の通り小人プロレスの試合はそもそもゴールデンタイムでTV放送されたことがないため「お茶の間を沸かせた」は明確に誤りです。
これに関しては、記事のライターがネット上のデマを鵜呑みにしてしまっているのも問題ですし、それほどまでに事実と異なる人権団体潰滅論が広まってしまっていることも憂慮すべきことです。
また、人権団体潰滅論者が度々言及する「ミゼットレスラーは人権団体の抗議のせいで職を失って困窮した」という話も事実を無視しています。
実際は、レスラーを雇用していた全女は小人プロレスの人気が低迷しても試合を無くしたりはせず、レスラーを解雇することもありませんでした。
それどころか、ケガや基礎疾患によってリングに上がれなくなったレスラー達を埼玉県の秩父に作った「リングスター・フィールド」というレジャー宿泊施設で雇用し、引退後も彼らの生活を支えていたのです。
全女が倒産して定期的な試合を開催出来なくなったことで小人プロレスは確かに衰退しましたが、それは結果論でしかありません。
当記事で何度も書いているように小人プロレスは様々な要因が複雑に絡み合って規模が縮小しただけで消えたわけではありませんし、人権団体のせいで辞めさせられたレスラーも存在しません。
2022年5月28日には新団体の旗揚げも予定されており「消えた」「辞めさせられた」どころか、むしろ現役です。
KAMINOGEの対談では、こんなことも語られています。
本来「人権団体によって小人プロレスは潰された」みたいなことを言うなら、その歴史をちゃんと勉強して、議論もできるように調べなきゃいけないと思いますけど、陰謀論に乗っかる人たちというのはわかりやすいものをポンと出されると勉強しなくてもいいんですよ。それにすがってしまえば。「あっ、こういうことなんだね。はい、わかった!」っていう。
「情報を極端に簡略化してわかりやすいストーリーにしたところでまったく本質を捉えることはできない」
ド正論ですよね。
人権団体潰滅論者は事実を無視した「わかりやすい」「信じたい」「都合が良い」情報を裏取りもせず広めることばかりに躍起になっていますが、そんなことは何の役にも立ちません。
小人プロレスを語るなら、衰退に至る経緯を正しく理解した上で、消えてもいなければ辞めさせられてもいない、現役で活躍するレスラー達に目を向けるべきです。
対談では、人権団体潰滅論のような事実無根のデマが広まってしまう原因についても考察しています。
「デマとか陰謀論って、それを本気にして善意として広めてしまっている人も多い。だから無症状のまま、どんどん感染を拡大させてしまっている」
人権団体潰滅論者は一見すると、小人プロレスの衰退を悲しみ、レスラーに寄り添うような態度をとっています。
もちろん純粋な良心からそうしている人も居るのでしょうが、中には何度誤りを指摘されても「小人プロレスは人権団体のせいで潰された」というストーリーに固執する人が少なからず存在しています。
恐らく、彼らが本当にやりたいことは小人プロレスの復興でもレスラーの支援でもなく、小人プロレスを棍棒にして人権団体をはじめとする気に入らない人々を貶すことなのでしょう。
個人的には、それは彼らが敵視している人権団体よりも何倍も悪質なのでは?と思ってしまいますが……。
兎にも角にも、せっかく豊富な情報が得られる時代に生きているのですから、怪しげな情報に惑わされてデマを流すよりも、有識者や経験者から正しい知識を学び自身の糧として行く道を選びたいものです。
記事中で引用した「KAMINOGE」120号と「プロレス社会学のススメ」はAmazonでも購入出来ます。
気になる方は是非とも入手してください。
小人プロレスにまつわるデマについては、こちらのブログで詳しく解説されています。