夫婦
私は先日、父になることになった。
奥さんに妊娠が発覚したのだ。
率直に私は嬉しかった。自分の愛する人との間に生命を授かった事実に対して純粋に喜びを感じた。しかし、奥さんは違った。「堕ろそうと思う。」
私が適応障害で休職中であること。この事実が嬉しさよりも不安を大きくしたようだ。完全に私の責任である。様々なことを悔やんだ。夫婦揃って、精神的に辛い日々が続いた。
ある日、仕事から帰ってきた奥さんが、ぼそっとこぼした。「堕すことは人殺しなのかな。」私が避けてきたワードだった。本音の部分で思っていたことだ。どうも職場の人間に「殺しちゃうんだ・・・」と言われたようだ。
私は、そう見られる覚悟を持って堕すことを決断したのだとばかり思っていた。このままでは、全て取り返しが付かなくなる。その思いから、もう一度2人で話し合うことにした。
普段、喧嘩することがないのだが、今回は大喧嘩になった。「最終的に決めるのは私。仕事もできていないのに理想論だけ語るな。根拠を示せ。」
このセリフが決定打になった。私は何も言い返せなくなった。酷く自分を呪ったことを覚えている。
しかし、転機が訪れる。奥さんの友人が会いにきたのだ。その友人と何を話したのかは、わからない。けれど、奥さんは産むことを決意して帰ってきた。少々、複雑な気持ちではあったが、とにかく産むことになった。
特にオチもないが、こうして私は父になることが決まったのだ.