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「P」の記録_File 7-8

File7:そっくりさん診断


同級生や後輩からは強面と恐れられている様だがPの顔は実は、美形である。彫りが深く、鼻筋が通っていて、口元は引き締まり、まつ毛も長く揃って上向きである。そして可愛いと言われる兄とも似ていない様で似ている。

ある日、そっくりさん診断という写真を判定するアプリで遊んでいた時のこと。撮った写真から似ている有名人を表示するという、なんだか根拠はよく分からないものである。

Pの妹は、何やら人気アイドルらしき女性が表示されたが、その場にいる全員がアイドルに疎いため誰だかはよく分からない。兄を撮影すると、「トム・クルーズ」と表示されその場に居た全員が驚きながらも少し納得の様子を見せる。次に診断されたのはPだった。

画面を覗き込み「トム・クルーズ」の文字を見た一同は一瞬固まる。この時のPは既に、兄から原因不明に嫌悪されていたのである。皆が兄の顔色を伺ったが、別段気に留める様子も無く、自身が「トム・クルーズ」と言われたことにご満悦の様子であった。この診断、写真を変えてやり直すと結果が変わることがあるので数回試したが二人とも変わらず「トム・クルーズ」と表示された。

それから暫く彼らには、家族からトム・クルーズ兄弟と呼ばれる栄誉があったが、Pは相も変わらず無頓着であった。

追記
その後、私が密かに「海苔弁」と呼んでいる眉毛の濃い小生意気な、Pの弟の写真を撮って診断してみたところ「NON○TYLE井上」と表示されて本人以外の全員が笑いを堪えるのに必死だったことと、何度違う写真で診断しても弟が「トム・クルーズ」になることは一度も無かったという事実は、家族全員の重大な秘密事項である。



File8:クッキーが無い


Pの食欲は異常である。

私がPと同じ家に住まなくなって数ヶ月が経ったある日のこと、Pの母親から一本の電話が入った。どうもPの棲家で私がPとその兄弟のために作って帰ったクッキーが底をついたらしい。1ヶ月前に5kg程作って置いて行ったのだが、一人暮らしをしているPの兄が半分ほど持ち帰ってしまったらしい。

それにしても残りがそんなに少ない筈はないのだが、弁当と同量のクッキーを毎日学校に持って行き食べているらしく、ものの2〜3週間で5kgのクッキーが入った直径35cm深さ50cm以上の寸胴が空になったらしい。

Pの特技はおねだりである。

クッキーが消滅した翌朝の登校前、母親がPに忘れ物はないかと問うと、眉間に皺を寄せどこから出ているのか皆目見当もつかない高い声で筋肉質のガタイの良い体を小刻みに揺らしながら「くっきぃ〜…」と駄々を捏ねていたらしい。P宅には一応、市販のクッキーも置いてあるはずだが…

それを聞いた私はすっかり気を良くしてしまい、すぐ翌日にはP宅を訪れ焼いたクッキーで10kgのプラスチック製の米櫃を満杯にして帰った。

Pの家庭内とそれ以外との人からの印象は別人である。

私の焼いたクッキーを学校にまで持って行って食べるPだが高校では、先輩にろくに挨拶もしない後輩たちから何故かPだけは敬語で話しかけられ、担任の脳に膿の溜まったような愚か者は心中が読めないためにPへ始終嫌がらせをし、部活動では冤罪体質のせいで毎週のようになんらかの因縁で罰則を受けている。それでいて心を病む訳でもなく、自宅に帰って一言「あいつ、かっけぇよな」と言って嘲笑するのみである。

ある種人間の愚かさを超越したように見えるのだが、私のクッキーが無いだけで自宅では平然と駄々を捏ねる。

此れ程までに奇妙な二面性を持った生物に遭遇したことは金輪際、一度も無い。

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