黒 十一月某日、私の好きなものについて記事を書くという課題が出た 蜜
※個人の主観が強く反映された(5割程度の誇張・虚偽の表現を含む)文章につき、理解をもってお読みくださいますよう、お願い申し上げます。
失って、後
特別な理由はない。ただ、時節と私の気持ちが具合良く重なっただけである。それ以来というもの、絶えず側へ置いていたので愛着が湧いたという、たったそれだけのことだ。いつ失っても痛手などない。そう思っていた。
失って気づく大切さが、本当にあるとは。ものの一週間で幾度となく恋焦がれた。それほどまでに大きな存在になっていた。山のような課題に疲れた時、朝目覚めた時や、きな粉が家に届いた時。何度考えただろう、
「ここに黒蜜があれば」
2ヶ月前
思えば黒蜜は、私の日々を味あるものにしていた。一本目の黒蜜は、実家に長い間放られていた。わらび餅などなくとも、黒蜜は単品で楽しめるとを教えられた。一本目が空になり、大急ぎで買い足した二本目は、ドラッグストアのもの。会計が終わり店を後にしてすぐ、我慢できずに封を切る。するとすかさず、身に覚えのない味が舌を攻撃した。
「なんだこの酸味は!食品添加物か?なんと不味い」堪らず成分表を確認する。
さとうきび、オリゴ糖、糖蜜、蜂蜜…
「よくわからないものが沢山あるな」
…メープルシュガー
「めいぷるしゅがあ!?はぁ?」
落ち着け、なるほど酸味とおかしな匂いは樹液だったか。待てよ、黒蜜にメープルシュガー、メープル…
「夢か?」
落ち着け。そうか、不味いと感じれば現実か。それにしても黒糖と樹液はこんなにも相性が悪いのか。これを飲み切るまで新しいものを買えない過酷な生活が続くのか。
新たな刺客
一週間後、漸くメープル混入蜜を飲み切った。三本目を買いに意気揚々とスーパーへ赴き、入念に成分表記を確認する。
「ヨシ。メープルは入っていない!」
久しぶりのまともな黒蜜だ。存分に味わおう。そう思って口にしたそれは、喉を擦るようなベトベトとした味だった。この牛乳に入れるくらいが丁度良いしつこさ、
「蜂蜜だ」
二本目にも含まれてはいたが、まさか裏切り者だったとは。なるほど黒蜜のためには一切の不純物も排除すべきだった。
決着
諸悪の根源を突き止めたは良いものの、求める黒蜜はなかなか見つからない。
私は悟った。他力本願ではいけないのだ。私自身が黒蜜に真摯に向き合うべきだった。意を決してジャム類コーナーを後にし、黒糖と水あめを購入。
鍋にたっぷりの水と黒糖、水あめを入れて丁寧に煮詰める。まだ温かいとろりとした液体を匙で掬い慎重に、神妙に口へ運ぶ。まろやかで素朴な甘みが広がりほっと笑みが溢れる。
「これぞ黒蜜。成功だ」
最初からこうすればよかったのだ。
最後に
おことわり
私は黒蜜中毒者ではありません。ただ脳が労働の対価を求めるので、黒蜜を流し込んでいるだけです。人間の体は新陳代謝を繰り返し、日々変化していると言います。私の体は皆さんよりも少し多く、黒蜜でできているのです。酸素や水のように黒蜜は私の構成要素であって、黒蜜は害悪ではありません。黒蜜が、語彙が黒蜜に侵蝕されるなどの現象は起きていません、黒蜜。