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続・童貞観察日記

どうも、おにがわらです。
前回その全貌がほんの少し明らかになった童貞のことを皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか。
大変お待たせいたしました。
今回の観察で対象となるのは、『童貞観察日記』の続きにあたる、ほんの1日にも満たない出来事。
しかし、彼に深く刻み込まれることとなったこの1日は、童貞観察史における貴重な資料となることでしょう。
予め、今回は大容量となることをお許しください。
それでは、早速。
観察は前回のすぐ続きから…。


約束の日が近付いています。
その日は自分にとって人生の転機になるかもしれない、男はどことなくそう考えています。
一緒にお酒を飲む約束をしてから、バイトでKさんに会う度に緊張しまう彼はどこか楽しげに映ります。
そんな彼の1つ目の難関は、実際に予定を決めることです。
彼は友だちと遊ぶ時も予定を立てられないどころか、メニュー表を手に固まってしまうほど優柔不断というか、意志がありません。
しかも、少なからず意識している相手との食事。
ありとあらゆるセンスが試されている気がしてなりません。
とはいえ、最終的には男としてビシッと決めただろうと思ったそこのあなた。
彼は22年ものの童貞だということを忘れていますね。
結局の所、Kさんが提案してくれた中から決めるという成長ともとれない程度の努力(?)しか彼には出来ませんでした。
そこは、鳥貴族。
もっとお洒落な店にしろよと呆れた方もいることでしょう。
しかし、流れがあってのことなのです。
時を遡り、予定を決めるLINEを覗いてみましょう。

Kさんがいくつか候補を出してくれています。

K「○○ってところ前行ったけどよかったよーあと、△△も!」
K「それと、よく名前聞くのは鳥貴族って居酒屋さん」
K「行ったことないけど友達から名前聞くから有名なのかな」

このLINEを見たとき、男は驚き、そしてもだえました。

そんなバカな。俺の1個下で鳥貴族を知らないなんて。
可愛すぎる。あまりにも可愛い。

男はそう感じました。
確かに、普段居酒屋に行かないということを男は以前聞いていましたが、予想を上回ってきたことで好感度爆上がりです。
そこから男はせっかくなら鳥貴族にしてみようかと提案し、決まったのです。
さすがに、こればかりは男を責めないであげていただきたい。

それにしても、予定の1つも立てられないなんて、ほんとうにどうしようもない。
それでも彼は少し頑張ったつもりです。
それは、最終的に決めることが出来たという砂粒程度の事実と、候補として挙がっていた駅ナカのお店を選ばなかったためです。
少しでもKさんと長く話せるように、と彼なりに考えたのです。


そして、いよいよ約束の日。
Kさんのバイト終わりに集合ということで、その日シフトが入っていない男は友人と近くをぶらぶらして時間を潰すことにしました。

「この服どうかな?」「これ多分合わせにくいよな~」

友人のそんな言葉は彼には届きません。
今、男の意識の全ては携帯の通知に注がれてます。
ワクワクが抑えきれないのです。
普段は切っている通知をオンにして、音量を最大にしていても落ち着きません。
連絡が来ているはずがないとはわかりながらも、彼は何度もスマホを開いてしまいます。
ワクワクが抑えきれないのです。
Kさんとの待ち合わせに心が弾むのです。

程なくして、待ちきれない男を救うようにスマホが約束の時を知らせます。
今にも走り出してしまいそうな彼は気持ちを落ち着かせ、友人に出陣を伝えます。
友人と固い握手を交わし、覚悟を決め、男は遂にKさんのもとに向かいました。


季節は冬。
Kさんを待たせるわけにはいきません。
はやる気持ちを静めつつも小走りでKさんとの待ち合わせ場所に向かいます。
遠くにKさんの姿を捉えたとき、彼女が同僚の女性と2人で待っていることがわかりました。
それを見て、男は戦慄しました。
食事に誘われた日。その日の友人との会話が思い出されたからです。



男は、友人にKさんからさしでの飲みに誘われたことを興奮気味に話しました。
当然、友人たちも遂に時が来たかと盛り上がりましたが、ふざけ半分で、
実はドッキリで、待ち合わせ場所に行ったら他の同僚もいて「こいつほんとにきたよ~ww」って言われるんじゃないか、なんて話していたのです。


そんなことはないとわかりつつも、男は少し身構えてしまいます。
実際の所、そんな悲劇は待っていませんでした。
男が着くと、同僚の女性はすぐに、
「お疲れ様ですー。あ!安心して、私は行かないから!」
と言いました。
単純にKさんと仲がいいので、男が来るまでの時間を潰してくれていただけだったのです。
男とKさん、同僚の女性の3人は何となくの世間話を終え、男とKさんは同僚に別れを告げ、遂に2人になりました。
実はこのとき、男の期待は更に膨らんでいました。
それは、先ほどの同僚の発言があったからです。
彼女がKさんとかなり親密であることは以前から知っていました。
そんな彼女は少なからずKさんの側から自分について話を受けているだろう。
その上であの「安心して」という発言…
しかも、その含みのある言い方をKさんは少しも否定しない…
これは、どう考えても……
童貞は実に発言の含みに敏感で、そして単純な生き物です。
このとき、男の中はワクワクより緊張が勝っています。
緊張が伝わらないよう、平静を装ってKさんと居酒屋に向かいました。


席に着いた彼らが会話を始めようとしています。
ここからは、少しでも彼を間近に感じて頂くために、観察者である私による彼への指摘は極力控えることにします。
是非、男にとってのリアルな現場感を追体験ください。


机を挟んでの2人の会話は、バイトのことなど当たり障りのないものから始まりました。
この段階で、男は既にどことなく気が合うように感じました。
以前、彼が別の面識の薄い女性と2人で食事をしたときより明らかに話せていると感じたからです。
ゲームが好きなKさんはドラクエも履修済み。
しかも1番好きなのは9で、モンスターズも大好き。
こんな"わかっている"女性が存在するだなんて。
男は大喜びで話はどんどん盛り上がっていきました。

そんな中、Kさんはおもむろに男の手を見て言います。

K「○○くん手大きいね!ほら!」

そういってKさんは男の前で手を広げて見せ、促されるように男は手を重ねました。
おいおい。
おいおいおいおいおいおいおいおい。
これはやっている。さすがにやっている。
童貞を殺す気満々である。
何気ない感じでさらっと。
ほんとに恋愛経験乏しいんですか?
しかし、男はあたかも動揺していないかのように相手のテンションに合わせるのが得意です。
なんとか気持ちの悪いデレかたをせずに済みました。

注文をするとき、彼女は少し恥ずかしそうに、

K「私、結構食べるけど大丈夫?引いたりしない?」

と男に聞きました。
いちいち可愛い。
その細い体にどれだけ入るのか是非見せてほしい。

話が盛り上がってくるとお互いの過去の恋愛経験の話になりました。
男は恋愛経験がないことを既に言ってあったため、さらっとそのことをおさらいして、Kさんの話を聞きます。
彼女は、高校の時に1度だけ経験があったようです。
それは断りきれず何となくの交際だったため、直ぐに別れたとのこと。
そこから加えて、その時に嫌だと感じたこととして、マメな連絡や頻繁にデートすることがあると男に伝えました。
男も、出不精であるため、会う頻度については共感したものの、連絡のことが少し気にかかりました。
Kさんは毎日の連絡が煩わしいと言っていたのに対し、彼にとっては1日1ラリーでも少なく感じるからです。
しかし、その事は口にはしませんでした。
少しでもマイナスな印象にしたくなかったからです。

恋愛観はどうでしょうか。

K「○○くんはどんな子がタイプなの?」

恋愛経験がない男は具体的なイメージをすぐに伝えられませんでした。
そんな男を見かねたKさんは、逆に嫌なポイントを聞いてくれました。
ここは気をつけなければいけません。
正直「こんな女性は嫌だ」なんていくらでも出てくることでしょう。
しかし、無計画に素直なことを言ってしまって、少しでもKさんに当てはまってしまったらもう全ておじゃんです。
彼は嘘はつかないという謎のプライドを維持しつつ、精いっぱい言葉を濁して嫌なポイントを伝えます。

男「なんていうか、オシャレな場所とかものとか好きだと自分じゃ満足させてあげられない気がして物怖じしちゃうかな」

要するにインスタ映え大好き女子無理ってことですが、オブラートを重ねに重ねた甲斐があってかKさんの地雷を踏み抜かずに済みました。
Kさん曰く、

K「私はそーゆー映えとかそこまで意識しないかなー」
K「記念日とかもレストランに連れてってくれるとか、高いプレゼントくれるとかじゃなくてお花とか手紙の方が嬉しいかも!」

うーーーーーーん。
これはいいのか、悪いのか。
童貞にお花とか手紙は厳しくないか?
ま、まあこのくらいはいいでしょう!
完璧にマッチすることなんてないことくらい童貞でもわかります。
ここ以外でも十分すぎるくらいです。


Kさんはそんな話の流れで、職場にいる男性の中で男は短い付き合いなのにトップクラスで仲がいいと言ってくれました。
嬉しすぎです。
ただの友だちからだとしても嬉しすぎる言葉だったからこそ、次の言葉が異様に引っかかりました。

K「ほんとに1番くらいで仲いいです!」
K「もう一人仲いい男の子いるんですけど、今二人並んでます!」

???
男には疑問でなりません。
どうしてこの場にいない別の男を引き合いに出すのでしょう。
正直言って向こうからの脈を感じていたからこそ、別の男が登場するなんて思ってもみませんでした。
彼にとってこの言葉は謎でしかありませんでした。
多少の嫌悪感すら抱いてしまいました。
でも決して言葉にも態度にも表しません。
とにかく仲がいいと言ってもらえただけでも万々歳ということにしておくことにしました。

そんなこんなで探り合いのような時間を感じながらも楽しく、非常に楽しく時間が過ぎていき、そろそろ出ようという空気になりました。
Kさんは電車で来ているので最悪でも終電には乗せなければいけないと思っていた男は、時間もちょうどよく、ちゃんと送ることが出来そうで安心しました。
帰り支度をしていると、Kさんがおもむろにこう言いました。


K)「なんか眠くなってきちゃった~」


…………………。


何を言っているんでしょう?
せっかく楽しく話していたのに急に「眠くなっちゃった」は失礼だろう。
つまらなかったのだろうか、早く帰りたいのだろうか。
なんていうか、男は興がそがれてしまいました。
まあ、むこうはバイト終わりだししょうがないか。
帰るタイミングだったし丁度よかった。
男は納得し、片付けをして早々に店を出ることにしました。
眠くなったのなら早く帰らなければいけません。


外に出ると一層寒さが増しています。
駅に向かって寒さに耐えながら談笑をしていると、

K)「私末端冷え性なんですよね~」
K)「私より手冷たい人会ったことないもん」

なるほどなるほど。

男)「俺もめっちゃ手冷たいですよ!」
男)「絶対俺の方が冷たいです!ほら」

そう言って男は手を出し、Kさんの手を握りました。
冷える夜。冷え性宣言。男女。
これだけ揃えばさすがの童貞にだって所作はわかります。
しかし、ここで期待を裏切る、いや期待を裏切らないのが男が童貞たる所以です。

男)「うわ、ほんとにKさん冷たいですね!」
男)「俺より冷たい人初めて会いましたよ」

そう言うと男はKさんの手を離しました。

先ほども言ったように、これは決して男が無知だからというわけではありません。
まだ自分の中で明確に気持ちが定まっていないのに手を握るのは違う。
男はそう考え、意識的に手を離したのです。

自ら離したとはいえ、男は空になった手に一段の寒さと虚しさを感じたまま、駅に着いてしまいました。
名残惜しさがあるものの、ここで長話をするのも違うと考えた男は少しの間だけ会話を楽しみ、Kさんを送り出すことにしました。

男)「それじゃそろそろ電車も来るんで解散しますか」
K)「ですね~、また遊んでくれますか?」
男)「もちろんですよ!」

改札を通ってホームへと向かうKさんを見送った後、男は家路につきました。
彼にとって非日常的な一時の思い出と別れ際のKさんの発言は、男に”次”への期待を膨らませるのには十分すぎるものでした。

それにしても、居酒屋を出るときのKさんの言葉はいらなかったよな~。
何だったんだあれは。

……
ん?なんか聞き覚えがあるような………



いかがでしたでしょうか。
ここに書き記したことがあの日の男にとっての全てです。
今まで皆さんが童貞という生き物に抱いていた疑問への回答の一助となるような1日を振り返ることにしましょう。
非童貞との大きな違いはやはりその思考回路にあるようです。
女性と2人で飲みに行くとき、多くの場合、何らかの形で関係を進展させることが念頭に置かれます。
その過程には、お互いの気持ちを一つにしていくような会話があり、物理的な距離感を縮めていくこと、場合によってはその先があることでしょう。
しかし、童貞にはそれがありません。
あの日の男には成すべき目的はありませんでした。
更に言えば、男の行動の選択肢の中にもそれらは一切含まれていませんでした。
恋愛において必要なアクションが男には思い浮かびもしないので、そもそもが無理な話だったのです。
結果として、ほぼ全てがKさん主導で動いていたあの1日が出来上がってしまったのです。
男はいくつものミスを犯してしまったわけですが、総じていえるのは、「無駄に正直だった」ということ。
変えよう、変わろうと思わなかったのは決定的なミスでしょう。
少なからず気になっているのなら、好意を持たれるように話せばよかったのです。
何もわからないのなら、とりあえず握った手は離さなければよかったのです。
正直に、誠実にあることを履き違え、徒となっていました。
次に、男の致命的な勘違いについて。
ここに関しては観察者によって意見の分かれるところかもしれません。
問題となるのは、Kさんの発言に対して。
「もう一人仲いい男の子いるんですけど、今二人並んでます!」
そして、
「なんか眠くなってきちゃった~」
男が不快感を抱いたこの発言。
男が友人に否定的にこの話をしたとき、待っていたのは予想に反して大爆笑でした。
実際の意図がどうあれ、あの言葉が夜の誘い文句のテンプレートであることだけは間違いありません。
仮に、俗にいうような意味だったとして、何か行動を起こせていたのかどうかはわかりませんが気付くことすら出来ないなんて論外です。
まあ、きっと何も出来なかったでしょうね。

あの短時間に童貞はいくつもの失態と勘違いをしてしまっていたわけです。
これらは後、彼の友人たちによって男の知るところとなるのでした。


さあ、長くなった今回の童貞観察日記もいよいよクライマックス。
あの日から男とKさんの関係はどうなっていくのでしょうか。


次の出勤日がこんなにも待ち遠しいことは今までにありませんでした。
Kさんとどんな話をしよう、次の約束も決めたいな、そんなことばかり考え、浮かれた気持ちで男は出勤しました。
今日もKさんは可愛いです。
きっと遊んだ直後の出勤だからKさんからも話しかけられるだろうと男は思っていました。
しかし、どういうことでしょうか。
朝礼の時には離れた場所に行ってしまった上に、そのまま男に見向きもせず持ち場に行ってしまいました。
結局、男がその日交わしたのは「おはようございます」の一言だけ。
明らかに何かをやらかしてしまった。
怒っているわけではなさそうですが、男は焦りました。
あの日は帰り際まで間違いなく楽しげに会話をしていたからこそ、男には何が何だかわかりません。
どうしてこんなにも素っ気ないのだろう。
男は勤務が終わると、家に帰りすぐにKさんにLINEを送ることにしました。
正直、内容なんて気に出来る心境ではありませんでしたが、丁度いいので今月中にもう一度遊ばないかと誘ってみることにしました。
ちなみにその日は月中。
返信がきたのは2日後。

「今月は予定があって厳しいんだよね行けそうになったらまた連絡する!」 

この時に全てが終わっていることを男は悟りました。
あまりにも早計だったようにも思われますが、それからの日々はこの感覚を確かにしていくものでした。
職場で話すことは食事に行ったときよりも増えることはなく、LINEの頻度も明確にあいていきます。
先ほどのメッセージに返信をして既読がつくのに1週間、返信が来るまでにそこから更に1週間ほどが経ちました。
そうして日々は過ぎていき、男は予定通り退職することとなりました。
それまでも、それからも、この日記に書き記すようなことはなく、それまでの高揚が嘘だったかのように男はいつもの日常に帰ってくることとなったのです。

人生は小説よりも奇なり。
あまりにも稚拙で、出来損ないな男にとってのドラマには劇的なクライマックスは用意されていませんでした。



男がKさんに抱いていたものは恋心だったのでしょうか。
今となっては彼にもそれがわかりません。
返信をしないという返事は、彼から確かめる術を奪ってしまいました。
忘れようにも、あの時の高揚と後悔が彼を掴んで離しません。
この体験を男から聞いた彼の友人たちは皆、口々にこう言いました。
「お前には早い相手だったな」
童貞には早かったのか、あるいは齢22の男には遅かったのかもしれませんね。
この経験は間違いなく彼の糧となることでしょう。
しかし、好機を逃し、学習すらしないのがこの男。
この童貞観察日記に続編を与えてくれる、あるいはピリオドを打つ女性は今後現れるのでしょうか。
期待はせずに、長い目で観察を続けていきたいと思います。



………


半年ほどの時間が経ち、連絡すらとっていなかったKさんから飲みに誘われるのはまた別のお話。


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