肩書きをみつける旅 #かくつなぐめぐる
高校生のとき、わたしは「SEKAI NO OWARI」が大好きだった。不思議なもので、自分が好きになるタイミングはいつだってその人たちがスターダムを登っていく最中だったりする。そんなわけで「SEKAI NO OWARI」は、いろんな音楽番組に出演していた。はじめて出てきた彼らを、番組の司会者は宇宙人をみるような視線を向けながら訊ねる。
「バンドの名前の由来は……?」
彼らを観たくてつけたチャンネルではこの決まり文句から始まっていて、わたしはすっかり飽きていた。けれども、だれでも最初はそうなのだろう。自分を説明する必要がある。そして説明をするためには、自分を定義する必要がある。自分たちがどういう人間なのか、どんなことをしているのか。
1か月半前、わたしは転職をした。そして入社してすぐに、名刺の肩書きを考えることになった。代表がいうには、名刺の肩書きは、自分がやっていることを正確に伝えられるものがいいとのことだった。その日から、わたしの肩書き探しがはじまった。
けれどしばらくして、わたしには何もないのだと気づいた。
ある日、会社の代表と仲のいい方がやっている本屋に遊びに行ったときのことだ。
「何ができる人なの?」
会社名と名前を名乗り、話しているとそんなことを聞かれた。
ベンチャーで仕事をしていたので、なんでも手広くといった感じで……。そんな風にもごもごしていたら、お客さんが来てしまった。会話は宙ぶらりんになり、わたしは言葉を飲み込んだ。と言いつつ、飲み込む言葉なんてなかったのだけど。
「なんでも手広くといった感じで」
新卒で入社した会社で働いているときには、すごくすごく忙しかったのに、結局わたしには「なんでも手広くといった感じ」しか残らなかったのだと、ちょっとへこんだ。
けれどそれは今の会社で働いているときも実感してしまう。即戦力としてできることは、ほとんどなかったから。
過去にあんなにも働いたのだから、なにかができると思いこんでしまっていた。それに、ちょっとだけ採用面接が上手くできすぎてしまったのだ。勘違いしてしまっていた。
だから名刺の肩書きも余計に悩んだ。なにもできないのに、わたしが名乗っていいものなんてあるのだろうか。
ある日、ライティングスクールの同期が書いたnoteをよんだ。最後まで読み終わると、その人のプロフィールが出てくる。彼女の肩書きは、「編集アシスタント」だった。
これだと思った。適切に、今の自分を表せる単語のような気がした。
翌日、代表に報告する。
30分くらい話して、肩書きが決まった。肩書きは「企画・編集アシスタント」になった。
これであれば名刺を渡した方に、自分がやっていることを正確に伝えられる。入社して1か月半、最初にして最大のミッションを完遂した気持ちだ。その日の夜、友達と公園を歩きながら、肩書きを決まったことを話す。薄着をして出てきてしまったたはずなのに、夜風は冷たくなかった。1週間前に来たときには立っていた柵がなくなっていて、どうやら工事が終わったようだった。ちょっとだけ親近感がわく。
今思えば、入社してから今日までの期間は、肩書きを探す旅のようだった。自分にはなにもないという憂鬱は、同時に今からなにかを掴める可能性でもある。いつか、「アシスタント」という言葉が似合わないほどの人になれたらいいな。