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001

 物心ついた時から戦い続ける人生だった。

 最初は自分の身を守るために、その後は自分の生活を守るために。気が付けば、コーポに雇われ戦場の最前線をさまよう傭兵になっていた。戦闘で成果を出せば数年は食うに困らない額の報酬が支払われるからだ。雇い主からすれば無人機の開発よりも安あがりなのだろう。大小様々な無人機が戦場に投入されているが、費用が安いという理由で傭兵を雇うコーポも多い。今はごく一部の人間を除けば人の命がもっとも安い時代だ。どんなに大きな成果を残してもあっけなく死んでいく。雇われ傭兵はその最たるものだ。

 ふと、ぼんやりしていた意識が引き戻されるような感覚を覚える。
(そうだ、何で俺は横になっているんだ?)

 そこまで考えたところで強い頭痛が襲ってきた。どうやら額を切っているらしく、流れた血が左目に入って開くことができない。ゆっくりと右目を開けると、飛び散ったバトルマスクの破片と愛用だった対無人機用にカスタマイズしたアサルトライフルが中央からくの字に折れた状態で遠くに転がっていた。
 小型とはいえミサイルの直撃を受けたにも関わらず、死んでいないどころか骨折すらしていない。流石アーマーに関しては評判の高いメガコーポの装備だが、銃弾程度ならびくともしないはずのフルフェイス型バトルマスクが粉々になってしまった。

 「頭を狙われたのか」

 かすれた声でつぶやくと同時に目の前に転がっているそれを見つけてしまった。それはぱっと見、人間のちぎれた腕のように見えるが、ちぎれた部分からはチューブやケーブルの類が飛び出し青色の液体が流れ出している。その手には彼女がレメゲトンと呼んでいた分厚いタブレット型の装備が握られたままになっている。耳鳴りがひどく、視界もボヤけているが遠くで戦闘が続いているのがわかる。彼女が…ミシャがまだ戦っている、俺が攻撃を受けて意識を失ってる間に追撃部隊に追いつかれたのだろう。

 ミシャ、俺がそう呼ぶ彼女は見た目は少女の姿をしているが戦闘用に作られたアンドロイドだ。

 当初メガコーポ同士、小競り合い程度の戦争とすら呼べない泥沼の戦いが続いていた。しかし月のメガコーポ、IMRインダストリによる攻撃で状況は一変した。元々は装甲板や建材等で有名なコーポではあったが、突如として世界中の主要都市に月面にある本社から謎の砲撃を行い壊滅的な被害をもたらした。この攻撃により世界は戦争と呼べる状況へと突入し『地上のメガコーポ連合軍』対『月のメガコーポ』という対立構造へと変化した。しかし本社を物理的に潰されてしまった地上のメガコーポが集まったことろですぐには足並みなど揃うわけもなく、次に来るであろう月からの攻撃に対しろくな対策もできないままだった。
 そして忘れもしない、辛うじて砲撃の被害が少なかったコーポに傭兵として参加し施設防衛のために出向いた先で空から降ってきたミシャと出会った。

 意識が戻ってしばらく経ったが頭を負傷したためか立ち上がることすらできない。ミシャに出会う前の俺だったならきっとこの時点で全てを諦めていただろう。だが、今は迫ってくる死に抗いたい。脆弱な自分に対して、攻撃してくる敵対者に対して、戦い続ける生活の中で久しく忘れていた怒りが込みあげてくる。

 そして、視界端の赤色の点滅に気が付いた。彼女が持っていたタブレットの光が青色から赤色へ、点滅しながら変化しているようだった。

(呼ばれている)

 気が付けば思うように動かない身体で這うようにしてタブレットの方へ向かっていた。額の傷を押さえていたせいで血まみれになった手でタブレットを掴むとまるで応じるように周囲に赤く強い光が広がった。

 ――理不尽に、抗う力を

 遠くから叫ぶような近くで囁くような声が、聞こえた気がした。


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