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「いやぁ、流石はベリアルだ!全く勝てる気がしないよ!」

「………」

 ますきゃっと・ベリアルは紫色の粒子となって消えていく、ますきゃっと・アミーを無表情のまま見ていた。アミーは全身にベリアルが作り出した無数の剣で地面に縫い付けられるように貫かれており、しかしその表情はとても清々しい。アミーの姿が完全に消えたことを確認するとベリアルは近くにある廃墟となった建物に身を隠した。先程の戦闘中に緊急回線を通してバエルから送られてきた圧縮データを確認するためだ。

「………」

 普段から表情の無いベリアルだが、内心泣きながらこの戦場を逃げ出したくて仕方がなかった。すでに作戦は達成不可能の状況に陥っている。しかし作戦指揮を行う月との連絡が通信妨害により出来ず作戦地域外から月との連絡を行おうとした、ますきゃっと・マルファスは何者かに破壊され数時間後にマルファスはアミーと共にベリアルに攻撃を仕掛けてきた。

 68号、ますきゃっと・ベリアルは部隊の姉妹たちの中でも最後の方に製造された機体である。主に地上への降下後に設置した拠点の防衛を任されていた。ベリアルは自身の専用装備の特性や応用法を独自に解析し戦闘においては部隊の中でもトップクラスの実力だがその実力は本来共に戦うはずだった姉たちを破壊するために振るわれている。シミュレーションルームで行われる模擬戦闘ではない、破壊されるか破壊するかの状況にベリアルに表情は無くともその心は折れかかっていた。

(解凍完了…これは………)

 バエルから送られてきた情報はベリアルの状況と同じだったが、バエルは今起きている同士討ちの原因となっているのは73号、ますきゃっと・ミシャンドラの持つ専用装備のタブレットではないかとの考えを持っているようだった。

「73号……」

 ベリアルにとってミシャンドラは数少ない妹となる機体であり、与えられた専用装備を起動させることが出来ず専用装備に頼ることなくあらゆる種類の通常兵器の扱いを学び、使いこなすことが出来るようになった努力の天才だ。人が扱える兵器だけでなく、無人機に搭載されている大型兵器までも内部情報を書き換え戦闘用アンドロイドの腕力で自在に扱う、ベリアルにとって頼りになる自慢の妹だった。しかし本来ベリアルと共に後方支援に専念するはずのミシャンドラは地上への降下中に降下ポッドが小規模な爆発を起こし、地上のコーポが部隊を展開している最前線に単身落ちてしまった。その後前線に展開予定だった他の機体が駆け付けた時には、元の形状がわからないほどに破壊された降下ポッドと地上のコーポ部隊と思われる大型無人機3体、中型無人機8体の残骸だけが残されており落下地点にて激しい戦闘が行われた痕跡が残っているだけだった。その場所にミシャンドラの姿は無かったが、部隊内で共有しているネットワークからミシャンドラの信号が消えており地上のコーポとの戦闘の末破壊、回収されたと判断されていた。
 バエルは最後に、これらは状況から判断した結果でありミシャンドラもまた他の攻撃してくる姉妹機たちと同じ状態かもしれない。彼女を、その専用装備を破壊した所でこの同士討ちは止まらないかもしれない。と、残していた。

(……)

 戦闘用アンドロイドであれば、この情報は参考までにとどめ月からの追加支援が到着するまでの間、攻撃してくる姉妹機たちを倒しながら地上のコーポ部隊の殲滅作戦を継続するべきである。しかし残った10数機で作戦を継続したところで無駄死にするだけだろう。ベリアルは考えに考え、ミシャンドラに直接会いに行くことを決めた。

 ベリアルのメモリには月での最終調整時、ミシャンドラからかけられた言葉が今も残っている。

『ベリアル、皆で生きて月に帰りましょうね――』

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