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【SS】見守ってきたけれど (800字) #青ブラ文学部

 眩いくらいに輝く長い黒髪を風に靡かせて、天使のような笑顔と共に出かけていく綺麗なお姉さんが隣に住んでいる。この十年間でとても素敵な女性へと成長したようだ。

 僕はいつも壁に開いた穴から、出かけるお姉さんをそっと見ているだけ。毎日毎日、壁の穴から覗いている僕の存在をお姉さんは知らない。僕にあんな綺麗なお姉さんがいたらなぁといつも思いながら見ている憧れのお姉さんだ。僕が住んでいる家には残念ながらお姉さんはいない。だから弾けるような笑い声が響くこともない。年老いた仲のいい静かな夫婦だけが住んでいる。それでも幸せだから僕もずっと住んでいる。

 最近、隣の家の住人が一人増えたので僕はとっても心配している。憧れのお姉さんからこれまでの天使のような笑顔が消えていくんじゃないかと。隣の家にはお姉さんとご両親の三人が住んでいたんだけど最近おじいさんのような格好をした人が夜中に引越しをしてきたようで、その後から隣の家から明るさが消えていったような気がするんだ。毎朝出かけていくお姉さんは笑顔を見せることもなくなり、いつしか長い髪は短くなってしまったんだ。

 いっそお姉さんに話しかけてしまおうかなと何度も思ってはみたけれど、ルール違反だから見守るしかないと自分に言い聞かせて我慢している。でも段々と変わっていくお姉さんを見ていると居ても立っても居られなくなって、ある朝、ついに声をかけてしまった。

「お姉さん、僕が見えますか。この前、お姉さんの家に引っ越してきた老人は貧乏神ですよ。僕は隣にずっと住んでいる座敷童子です。お姉さんの事が気になって生まれた時から見ていたんです。可能なら早いうちにご家族で引越ししてください」

 残念ながら僕の声が憧れのお姉さんに届くことはなく、隣の家は次第に活力を失い遂には一家で夜逃げをしてしまったようだ。憧れのお姉さんに笑顔が戻ればいいなと思いつつ、僕はまだこの家に棲みついている。

おわり (800字)


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#青ブラ文学部 #掌編小説 #憧れのお姉さん #ショートショート

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松浦 照葉 (てりは)
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