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【SS】大型炉端焼き店のまかない料理

 とあるビルの4Fに大きな炉端焼きが店を構えていた。結構な人気店で芸能人も時々訪れる。魚や野菜を焼く網の周りに40席、それが二箇所あり、それぞれに板前が3人ずつついている。そしてテーブル席は、6人がけ席が2つずつで2列並んでいるようなかなり大きな炉端焼きの店である。

 炉端焼きの一日は2時ごろから始まる。そう、仕込み開始の時間だ。まずは、焼き鳥の準備で鶏肉を串に刺すサイズに切って、人串ずつ手作業で刺していく。この串の刺し方にもコツがいる。ただ刺しただけだと、焼いているうちに串からズレてしまうことになるので、肉を縫うように刺す必要がある。特に鶏皮の場合はそうしないとうまく焼けない。縫うように刺していれば、焼いているうちに皮が縮んで串に完全固定されるのだ。焼き鳥はを最低で毎日も300本作る。メインは魚なのでや切りは少なめだ。そして大根おろしも事前に準備する。本当は、直前でおろしを作ったほうが辛味があっていいのだが、そんな悠長なことを言ってられない。ある程度の量は作り置きしないと開店と同時の注文に間に合わない。そして、お通しの準備も重要だ。これは日々変わるし同じ日でも何種類か作る必要がある。これも200個程度を作っておいて、在庫が少なくなった時点で追加で作るような運用をしている。

 一通りの仕込みが終了すると16時くらいになり、その後の最重要な仕事はまかない料理である。これは、順番制で作る。作る量は約30人分。ある板前さんは、缶詰を大量に仕入れて手抜きで作ったり、別の板前さんは、大きな鍋でラーメンを茹でて作っていた。不思議と両方ともうまかった。流石だ。

 私にも順番が回ってきた。色々と思案した挙句、あまりものの野菜や肉をみじん切りにしてチャーハンにしようと考えた。支柱に支えられている大きな鍋で揺らしながら一気に30人前を作ることに挑戦。問題は調味料の量であった。塩胡椒の量や醤油などの量がわからない。大きなお玉で塩を掬って入れ、醤油も大雑把に入れる。色合いはいい感じで出来上がった。器に盛り付けて別途作った卵スープと共にみんなに提供した。

 結果はある程度予想してはいたが、的中しないでほしいと願っていたら。

「うーわっ、しょっぱ過ぎて食べられないぞ。これは、缶詰料理以下だな」

 私もそう思った。まかない料理の華々しいデビューは見事に撃沈した。

 しかし、誰の教えも受けずに挑戦したことに対し、スタッフはエールを送ってくれた。そしてみんな「しょっぱいしょっぱい」と言いながらも、スープとお茶で塩辛さを薄めて食べてくれた。こんなフォローがあると、次の挑戦につながるものである。


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