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#18 - リピートオーダープロジェクト

 プレイングマネージャとして活動を始めた頃は、当然のように現場でもリーダーを演じていました。ある日、営業から連絡が入り、新規のお客様での案件が受注できそうだと言うことで、同行を依頼されたことがあります。お客様訪問をしてみると、工場内の各部門で作成されている論文や研究している内容を記述した文書などの管理システムが限界に来ているので刷新したいと言う希望のようでした。そのお客様は、すでに他社のSEがサポートに入っているお客様であり、我々との接点はありませんでした。なので、最初はお客様も疑心暗鬼状態でした。当時の営業が上層部とのつながりを利用してなんとか漕ぎ着けたという案件でした。営業のたくましさには頭が下がりました。

 そう言う背景を受けて最初の仕事が始まりました。まずはお客様の希望を切り出して適切なプロジェクトにすることからです。現在の文書管理システムを利用している研究者の方の代表者10名程度に集合してもらいセッションを開きました。利用者として感じている課題、問題、改善、追加などを思いつくままに吐き出してもらいました。この時のセッションリーダーは私が務め、プロジェクトになった際にPMとしてアサイン予定のSEを同席させセッション結果の整理などを担当させました。私の進め方を見せるという目的と自分だったらどうするかということを体験させるためです。

 全体概要を把握し、そこからお客様が納得する機能とサービス価格に切り出して提案します。この時に、私の頭の中にあったのは、1プロジェクトを3000万以下の金額に抑え3ヶ月程度でサービスインし、リピートオーダーに繋げるということでした。これは、その時のお客様の中で決済する金額で通しやすい規模感であるということと3ヶ月後には試行できるというスピード感が受け入れられやすいだろうという読み、そして、3000万以下の案件であれば当時の私の権限で決定できるからということもありました。一番最初の提案は、なんとしても受けてもらう必要があったので、私主導でプレゼンし、その場でサービス料金の提案もしてお客様にも即決してもらいました。現在ではあり得ないプロセスです。

 その後、お客様に正式にPMを紹介し、メンバーとして協力会社のSEさんも紹介し開発プロジェクトを開始しました。最初は、私にも現場に来てほしいという要望がありましたが、PMとは密に連携し必要であれば伺いますということで、PMに任せる環境を作りました。短い期間なのですが、PMに依頼したことは、実現しなければならない機能はまだまだあるのだから、プロジェクトが終了する前に次のプロジェクトを提案して受注することでした。リピートオーダーを取得するところまでをPMとしての仕事にしたのです。もちろん、提案するタイミングは重要です。作っているシステムの形が見え、研究者の方達のいい評価が出始めた頃がその時でした。なんとか、最初のPMの役割は達成できました。この時のPMはまだ、主任にもなっていないSEでしたが、見事に計画通りのサービスインを実現させてくれました。PMが次のプロジェクトを提案した後は、再度私の出番です。お客様から次の案件もお願いしますという言葉をもらった後、次のプロジェクトメンバーについて宣言させていただきました。PMおよび協力会社さんのSEを全員交代させますと宣言しました。お客様はびっくりです。せっかくお客様の環境を学習したのですから。そこをなんとか説き伏せ、挑戦させてもらうことができました。お客様の環境やシステムをよく知る担当者をたくさん養成することは、今後システム稼働後にお客様からの追加の要望などが入った場合、対応がとてもしやすくなりますので是非やらせてくださいと頼み込みました。

 連続するプロジェクトをそれぞれのPMがリピートオーダーを取るための提案まで実施するとともに、次のPMに対する引き継ぎも実施しなければならないし、バグだらけのシステムを引き継ぐわけにも行かないという環境を作って各PMが責任を持って成し遂げるということを経験させるのが私の目的でした。また、プロジェクトメンバーも全員交代なので、PMがしっかりと内容を把握して引き継がないと失敗する確率が高くなるということもPM育成の一つの材料としました。実は、そんな考えを実行できたのは、この時が最初でした。内心はかなりドキドキしていたのを覚えています。そして登場させるPMの順番も考慮しました。徐々に経験豊富なPMにバトンを渡すようにしたのです。普通は、育成の場合は逆が多いのではないでしょうか? リピートの回数が多くなるほど過去に実施したものが増加し、それらを把握する必要があるので、このような順番にしてみたのです。

 2つのプロジェクトが終了し3つ目のプロジェクトを開始するときは、お客様の方から全員交代なんですよねと言われ、はいそうですと自信を持って答えられるようになっていました。そうして、リピート案件も無事終了する頃には年末になっていました。お客様から全体打ち上げのお誘いを受け、その場で、お客様から「流石に人材が豊富ですね。それぞれのPMさんに、もれなくしっかり引き継がれていてびっくりました。本当にお願いして良かったと思っています」という言葉をもらい、心の中でガッツポーズをしました。担当してくれたメンバー全員の頑張りにも感謝しました。

 私が考えていた、お客様にメリットを感じてもらえて育成にも利用でき、協力会社との関係もなぁなぁにしないための連続したプロジェクト運営がこの時に実現しました。このことは、私自身の経験で、お客様に提案し続けると自分が抜けられなくなった経験、協力会社の見積もりでトラブった経験などを踏まえて考えた方法でした。常に使える手法ではありませんが、担当したPMさん達も緊張してプロジェクトを推進する経験ができスキル向上に役に立ったものと信じています。


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松浦 照葉 (てりは)
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