移動ドの鬼門:転調
曲の途中で調号が変わる、すなわち調が変わることを転調という。
転調は移動ドが固定ドに比べて不利なもののひとつである。調号が変わって調が変わると、移動ドではそれに伴ってドが移動するので、階名の読み替えをしなければならない。
転調は楽譜の中では比較的重要なイベントに位置付けられるので、普通は複縦線を書いて調号を書き直す。このとき、フラットやシャープが減る場合や、フラットからシャープ、シャープからフラットに変わる場合は、シャープ・フラットではなくなる音にはナチュラルが書かれることが多い。また、次の段から調が変わる場合、その予告で前の段の最後にも新しい調号を書くことが多い。
転調はさすがに初見ではムリなことが多い。あらかじめ転調後のドの位置を調べておいて、転調後の譜面を点打ち法で読むのか、ヘ長調・ト長調読みするのかを決めておく必要がある。新しい調のドの位置に音符を、読み替え位置(Cの位置)にあらかじめ点を打っておくとよい。
そして、調が変わる前後で転調感を醸し出している音を見つける。できれば長い音の方がいい。見つけたら、その音に古い調と新しい調の音の階名を両方書く。これはもう「Te→So」のようにモロに階名で書いた方がいい。そして、前の調でこの音符まできたら、その音を歌いながら「これはソ、これはソ」と頭の中で念じて、新しい調の階名で続きを読む。
頭の中で念じるのも練習が必要だが、読み替えを実行する音符を決めるのが一番難しい。これは楽譜を眺めていてもなかなか分からないことが多いので、音源があるなら音源を聞いて自分の感覚で決めるのが一番確実である。だから、これといって確実な正解はないことが多い。
もし、長い音が見つからなかった場合は、音のかたまり全体、例えば8分音符四つに対して「Le/Fa Te/So So/Mi Fa/Re Me/Do」のように「古い調の階名/新しい調の階名」と続けて書いておくのがいいだろう。
例えば、VI♭・VII♭・III♭=新しい調のI、という比較的よく使われる転調の和声進行がある(フラットが3個増える方向に転調し、主音が短3度上に上がる)。元がG durならば根音を追うとEs F Bと動いてB durになる。古い調の階名で読むとLe Te Meである。新しい調で読むと実はFa So Doとなって、下属音・属音・主音と進んで転調が成立する。
この場合、古い調のTe(シ♭)→Me(ミ♭)という動きが難しいので、Teを歌ったら「これはソだ、これはソだ」と念じ、そのままドに飛べばいい。So→Doは普通に歌えるので、これで転調後の調に乗れる。人によってはLeでFaに読み替えた方が楽だと思うこともあるだろう。その場合、その人にとってはそれが正解である。