シャープ系-フラット系間の転調
移動ドの鬼門、転調の3回目。前回の最後の方の説明の補足である。
前回、シャープ系からフラット系、あるいはその逆の転調について説明した。前回は臨時記号で転調する場合の話だったが、当然、普通に調号が書かれている場合もある。この場合は調号に従って読み替えればいいのだが、うまく読み替えられない場合が(多々)ある。
例えば、前回の例のDes durからE durへ、VI♭・VII♭・III♭=転調先のIという転調をしたとする。3声分を実音と階名で書くと、例えばこうなる。
Fes(ミ♭)・Heses(ラ♭)・ Des(ド)
Es(レ)・Ges(ファ)・Ces(シ♭)
——— 転調 ♭5→#4 ———
E(ド)・Gis(ミ)・H(ソ)
最後の和音はE durで解釈しているので、その前の行とはドの位置が違うことに注意。ドの位置が違うのでどこかで読み替える必要があるが、2番目の和音でE durに読み替えるとこうなる。
Es(レ→ド♭)・Ges(ファ→ミ♭♭)・Ces(シ♭→ラ♭♭)
こんなん歌えんわ!
この転調では2番目の和音は新しい調の属和音、つまりソシレの和音になるのであった。だから、記譜上では変なフラット・ダブルフラットが炸裂していても、以下のように異名同音で読み替える工夫が必要である。
Es(レ→ド♭≒Dis/シ)
Ges(ファ→ミ♭♭≒Fis/レ)
Ces(シ♭→ラ♭♭≒H/ソ)
移動ドは歌えなければまったく意味がないので、記譜通りに書くのではなく、変なフラットのことは忘れて「Re→Ti・Fa→Re・Te→So」と書きこんでしまえばいい。これで新しい調の属和音であることがはっきり分かるので、Es Ges Cesの和音を聞きながら「これはシレソ」と念じれば次の調に乗れるだろう。
この例で3番目のパートの音はDes→Ces→Hと動いている。最後のふたつの音は実は異名同音なので事実上(ほぼ)同じ音である。こういう場合、楽譜によってはCesの音符にカッコ書きで小さくHの音符が書かれている事がある。
親切臨時記号ならぬ、親切異名同音音符だが、この記譜は大変助かる。場合によっては次の音と異名同音にならない音でも次の調号では何の音になるか予告的に書いてあることもある。浄書屋さんGJ! である。
なお、フラット5個のDes durを律儀に短3度上に転調すると、フラットが3個増えてフラット8個のFes durになる。これはE durと異名同音で、E durはシャープ4個の調だから、異名同音の調に読み替えると、調号が12個増減することになる。
異名同音で読み替えた場合、例えば増1度上に転調して、短2度下に転調するのと同じである。増1度上転調はシャープが7個付いて音符の位置は変わらず、実音は半音上がり。短2度下転調は例えばC dur→H durの転調のことだから、シャープが5個ついて音符はひとつ下に下がり、実音は半音下がり。
合計すると,シャープが12個付いて、音符は下にひとつ下がり、実音は変わらないことが分かるだろう。度数で言うと減2度下に転調したことになる。今回の例ではめでたくFes durからE durに読み替えできたことになる。
増1度下に転調して短2度上に転調すると、フラットが12個付いて、音符は上にひとつ上がることになる。度数では減2度上転調である。