調号なしの転調(臨時記号による転調)

移動ドの鬼門、転調の2回目。転調は楽譜の上では一大イベントなので、例えばイ短調から2小節だけイ長調に転調して元のイ短調に戻る場合、調号をいちいち書き直すとごちゃごちゃしてかえって見づらい。そういうとき、調号を書き直さず、臨時記号だけで済ませる場合がある。

この場合、変化音が多くなるため大変歌いづらくなるが、2小節くらいなら転調せずにそのまま突っ走るのもアリである。増減する臨時記号が3個くらいまでなら大丈夫なことが多い。

3個増減というのは、1個は属調・下属調への転調、2個は1音上下への転調、3個は同主音の長調・短調間の転調で比較的よくある転調である。また、シャープはFa Do So、フラットはTi Mi Laにつきやすいのであった。調号の増減の順序もこれと同じなので、3個までなら普通にシャープやフラットだと思って読み切れる。これ以上臨時記号が増えるとドを読み替えないと厳しい。

また、比較的長い間調性感が変わるようなときも、どこかで転調したとみなしてドの位置を変えたほうがいい。これといって明確な基準はないが、歌っていて「なんかドの音が違う」と思ったら、その感覚に従って素直に変えるのがいい。どこから変えるかがなかなか難しいが、楽譜を遡っていってフレーズの切れ目で適当に読み替えることになるだろう。

時々、調号を明示的に書き直して転調しているものの、実はその前4から8小節くらい助走区間があって、事実上かなり前から転調してることがある。この場合は臨時記号が増え出した部分で新しい調に読み替えてしまい、そのまま調号を越えていけばいい。

音が出せない状況のときは楽譜から調性を読み取らなければならないことがある。この場合は臨時記号が炸裂し始めた2小節分くらいの全パートを調べる。半音上がりの臨時記号がぽこぽこ出てきたなら、基本的には今読んでる調でFa Do So Re La Mi Tiの順につぶさに見ていくと、臨時記号が付いてる音と付いてない音が綺麗さっぱり分かれることが多い。Fa Do Soまで半音上げで、そのあとは臨時記号が付いていないのならば、ここで調号がシャープ3個分増えたことになる。

調号を頼りに調べても良いが、調号がフラットでナチュラルがぽこぽこ付き出した場合、調号が減る方向にカウントしなければならなくて若干面倒である。また、調号にすでにやたらシャープがついている場合はダブルシャープが炸裂することになるが、普通、調号にはダブルシャープは書かないので調号とみなすのが難しい。その点でも今読んでる調で追った方が有利である。

あとはドの位置がどこになるかだが、臨時記号を調号だと思って読むのだから、シャープが増える方向(フラットが減る方向)ならば、Fa Do So…の順に見て行ったときに最後に臨時記号が付いていた音が新しい調のシである。したがって、そのすぐ上の音符をドと読み替えればよい。最後の臨時記号がダブルシャープでも問題ない。

半音下がりの臨時記号がぽこぽこ付き出した場合も同様で、今読んでる調でTi Mi La Re So Do Faの順に追い、最後に半音下げの臨時記号が付いた音符が新しい調のファである。そこからファミレドでもファソラシドでも数えれば新しいドにたどり着ける。最後の音がダブルフラットでも大丈夫。場合によっては重変ロ長調(全部の音にフラットが付いた上で、BとEsに余計にフラットが付いてダブルフラットになる)とかに出会えるかもしれない。

たたし、シャープ系からフラット系、あるいはフラット系からシャープ系になる場合は臨時記号で変化する音の幅が半音を超えることがある。例えばフラット5個のDes durの場合、Gには調号でフラットが付いている(階名でFa)。これを臨時記号でシャープ4個のE durにしようと思うと、Gには臨時記号でシャープが付き、半音ではなく1音上がることになる。これはDes Durの階名だとFiよりもさらに半音高いので、移動ドで読むこと自体、無理がある。

この場合は今読んでる調で臨時記号を探すよりも、固定ド(あるいは音名)で探した方が早い。そして、この例の場合は主音がDesからEになるので、楽譜の上では元のドのすぐ上の音が新しいドになる。見た目では半音か1音上がるように見えるが、DesとEは1音半離れているので、楽譜で見た以上にドの位置が高くなることに気を付ける必要がある。

1音半は普通は短3度として書く(ふたつ上の音になる)が、この場合は記譜上は増2度上で、事実上は短3度上に転調していることになる。短3度転調は比較的よくある転調なのだった。転調を同じ方向に繰り返すとどこかで調号の数が7個を超えてしまい、こういうことが起きる。

一応、楽譜の読みだけで調性が分かるとはいえ、やはり正確に当てるのは難しい。最終的には実際に音を出して答え合わせをすることになるだろう。

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