リアルの都市体験を拡張!都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」
インターネット上の仮想空間の中で、世界中の人と交流できるサービス「メタバース」。近年急成長を遂げており、無数のメタバースワールドが生まれ続けています。そのうち渋谷駅前の街並みを模した「バーチャル渋谷」は、景観の再現にとどまらず渋谷区や地元組織と連携し“都市連動型メタバース”という考え方を掲げて運用されています。
今回は、運営に携わるKDDI株式会社の川本大功さんにインタビューし、街に根差したメタバースならではの体験価値の生み出し方に迫ります。
新型コロナウイルスの流行から約2年半。私たちの働き方・暮らし方は少しずつ変わりました。非対面でもアバターを用いてコミュニケーションがとれる「メタバース」はコロナ禍という環境も後押しし、ゲーム「フォートナイト」上では世界中のアーティストの音楽ライブを開催、Facebookも社名を「メタ・プラットフォームズ」に変更するなど、これまで以上に注目される分野となっています。
日本初の自治体公認メタバース「バーチャル渋谷」とは
渋谷エリアでは、2019年にKDDI・渋谷未来デザイン・渋谷区観光協会を中心に「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」※を組成。翌年5月に自治体公認のバーチャル事業としては日本初となる、渋谷区公認メタバース「バーチャル渋谷」を公開しました。スクランブル交差点やハチ公広場など駅周辺の景観が再現されており、来訪者はアバターを使って自由に歩くことができます。
―「バーチャル渋谷」の特徴を教えてください!
渋谷区や地元商店会など地元関係者と深く連携していることです。KDDIではこの考え方を、メタバースを拡張した概念として「都市連動型メタバース」と呼んでいます。
人気声優との交流も……メタバースならではのブランド体験づくり
2022年春、特別イベント「バーチャル渋谷 au 5G シブハル祭 2022」が開催されました。昨年公開された「バーチャル大阪」ワールドとも連携し、人気アーティストやVtuber、キャラクターがイベントを盛り上げました。
―このイベントは2年目の開催とのことですが、実際に運営して見えてきた課題はありますか?
「バーチャル渋谷」を運営し始めてから、メタバース内には常に人がいるわけではないので定期的にイベントを行う必要があるという課題が見えてきました。昨年秋には「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021」を開催したのですが、その次も時期を大きく開けずにイベントを行いたく、卒業シーズンに合わせて開催することになりました。期間中は「名探偵コナン」イベント、サッカー日本代表戦メタバース観戦、オンライン音楽フェスをはじめ3か月に渡って大小さまざまなイベントを開催しました。
―特に「メタバースならでは」といえるイベントは?
人気Vtuber 3名による音楽ライブ「au じぶん銀行 Presents VIRTUAL MUSIC LIVE in バーチャル大阪」です。コメント・投げ銭機能で各Vtuberを応援できる参加型の企画で、盛り上がりが大きいほどステージが進化していくインタラクティブ体験を演出しました。
アバター同士のリアルタイムのコミュニケーションという点では「超渋谷コナンフェス」も当てはまります。主人公・江戸川コナンを演じる高山みなみさんが、コナンのアバターを操作することで「コナンくんが目の前にいる」「客席に降りてきて、一緒に写真を撮った」など特別な体験を生み出すことができました。
―他にも出演者と参加者の交流の場はありましたか?
公式スタッフとの交流も盛んに行われていて、「スタッフさんに会いたい」という現象も起きていました。今回は日本航空株式会社さんとも連携し、バーチャル上で渋谷から大阪にワープすると、本職のキャビンアテンダントさんが大阪案内をしてくれるコンテンツも用意しました。渋谷・大阪とも、地元のみなさんと連携してバーチャルの景観を作りこんだので目的が分かりやすく、かつ新しいコミュニケーションの形になったと感じています。
―都市連動メタバースを拡大させるうえで、大切にしている考え方を教えてください。
「バーチャル大阪」は渋谷である程度の知見を得たからこそ、実現できたチャレンジでした。渋谷や大阪などの「都市連動型メタバース」は、リアルの都市体験を拡張する表現手法であるべきだと考えています。地場の商店等と連携し、地場サービスをバーチャルに拡張する取り組みを地道に重ねてきており、昨年の渋谷ハロウィンでは、株式会社エクシングさんと「JOYSOUND Presents “Machico 新感覚ひとりバーチャルカラオケLIVE”」を実現させました。この企画は渋谷のカラオケボックスとバーチャル渋谷内ライブハウスを繋ぎ、演者がカラオケボックスで歌うだけでアバターと同期してパフォーマンスができるものでした。演者側には、ライブ会場の画面を共有したり、差し入れに食べ物が届いたりする演出も行い、双方向で楽しめるものとなりました。
目的整理~体験設計を丸ごとサポートする、一日貸し切りプラン
―日本航空・エクシングのようにメタバースでの交流・プロモーションを行いたいという企業がどんどん増えているのではないでしょうか。
バーチャル渋谷では「1dayイベントパッケージ」という貸切プランをご案内しています。これまで幅広い業種や学校のイベントなどにも利用されていて、先日はクローズド利用として入社式にも活用されました。プロモーション利用というより、お客様とのエンゲージメントを深める目的でご利用いただくことも、思っていた以上に多いと感じています。
企業がメタバースプラットフォーム上に別の空間を作ることもできますが「1dayイベントパッケージ」を使う利点としては、既存の渋谷ワールドを活用できること、KDDIが持つトラブル回避ノウハウまで含めてお客様に提供できることが挙げられます。トラブル対処だけではなく、プロモーションは試行錯誤してみないと得られない知見もあります。例えば「メタバース空間に動画、画像を掲出したい」という要望があった場合、屋外広告で動画放映するのとは目的が違うことをお伝えしています。メタバース上では「映画・ドラマを流す」という単方向のコミュニケーションより、双方向での体験設計をどのように作り上げるかが重要です。その点で「シブハル祭」でのキャビンアテンダントさんとの交流は、それだけで「魅力的な体験」として成立していましたね。
―航空会社であれば“観光地の映像を流す”という選択もあったと思いますが、キャビンアテンダントさんと話し、「観光・食のオススメ」を会話できる体験のほうが、本質的にメタバースに合った体験設計となるのですね。
同じように「メタバース空間を作りたい」という相談もいただくことがありますが、空間を作ることが目的ではなく「どんな体験をお届けしたいのか」が本質的な目的ですよね。「1dayイベントパッケージ」をご利用の場合、どのような体験をお客様にお届けしたいか、一緒に整理していくことから始めることが多いです。
リアルとバーチャルを地続きに。だれもが参加しやすい余地をつくっていきたい
―今後チャレンジしたいことを教えてください!
KDDI社内では、今実現できていることはやりたいことの10%未満だと捉えています。通信量・端末スペックも課題ですが、実現したいこととしてはUGC(一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツ)機能の強化です。ユーザー自身がパフォーマンスを披露すると対価も得られるような、経済活動が生まれる空間を作っていきたいです。
もう1点はリアル体験です。メタバースならではの体験を創り出すことも重要ですが、メタバース上で起こった現象を生活空間にも同期させるような取り組みができると面白いですよね。リアルとバーチャルの境目がなく、地続きに考えられるようなチャレンジを進めていきたいです。例えばバーチャル上で人気が出たショップがあれば、期間限定でリアルの渋谷にPOP UPショップが登場!といった循環ができると良いです。いろいろな方が参加できる余地を、こだわって作っていきたいです。
―バーチャルとリアルが循環することで、あらゆる「街での体験」が拡張されていきそうですね。
そのためにはメタバース業界全体で考えていくことも大切です。バーチャルシティコンソーシアムは、これまで得たノウハウを共有する意図で2022年4月に「バーチャルシティガイドライン ver.1」を公開しました。現在はメタバースの共通理解も深くなく、権利問題など実情もまとまりきらない状況で、共通の課題にぶつかる企業も多いです。相互運用性を高め、業界の発展に向けた議論のたたき台として活用してもらえたらと思います。状況は日進月歩で変わっているので、オープンに議論にしていきながら、ソフトウェアのようにガイドラインを更新していくのが理想です。
―メタバース業界全体が繋がり進化することで、新たな体験が生み出されていくことが今から楽しみです!
川本さん、ありがとうございました。
「ONE-STOP! SHIBUYA(ワンストップ渋谷)」では、渋谷エリアのありとあらゆる空間・資産(公共空間等含む)やネットワーク先を活用し、プロモーションやイベントを主催する企業や団体に対して、最適な街活用のプラニングや空間などの調整・調達支援サービスを提供しております。
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