(二) ハローワーク・インディア

 海外で転職活動をしていると面白い事が起きる事もある。職探しについては日本の転職サイトにしか登録してなかったが、インドのヘッドハントエージェントから連絡が入って来た事があった。どこから情報を得たのが謎だが宛先は会社のメールアドレスだったので取引先かうちの現地社員がリークしたのかも知れない。中国に駐在中にも同じような事があったが、その時は元従業員から推薦があったようだ。そういったエージェントは事前にこちらの事をある程度知っていて、細かい職歴なんかを説明する必要はなく、ただ案件を紹介されてイエスかノーかを答えるだけの場合が多い。

この時のオファーの内容はインドにある日本の商社の海外現法の子会社の管理のポジションだった。おそらく数年単位で交代してしまう駐在者の代わりに現地のマネジメントに長けている人材を長期的に運用していきたいという狙いだと思う。

ここだけ書くとなんだかすごい感じに見えるかも知れないが、なんてことはない。インドみたいな不便な国にずっといたい日本人は少ないし、長くいられるだけでひとつの才能みたいになってくる。能力なんか特別高くなくても現地人と上手く付き合ってれば長期的には運営は安定してくる。

転職の条件は悪くないのだが、その国に居続ける事が前提になるし、所属先が海外の海外現地法人になり日本の社会保険からも外れてしまう。現地に永住する気持ちがないのであればなかなかハードルが高い。逆に欧米人で本国に帰りたくないと言って高い現地給与で海外暮らしを続ける人も多い。

息子の学校での苦労も思い切って一度海外で仕切り直したらどうだろうかという気持ちもあって家族にも提案してみたが妻は息子の適応性の問題から日本で安定した生活を送る方を望んだ。

なかなか自分の特徴を活かす事と家族の事情との衝突でやりにくいところがあるが、まぁ、しゃーない。自分の仕事の都合で家族を振り回そうと思ったら旅芸人一座にでもならない限り無理でしょ。

ダメもとでのんびり応募を継続していると、あるコンサルタント会社の目に僕の経歴が留まったようだ。いつもの流れと少し違い最初から社長とZoomでインタビュー面談する形になった。これは面白いかも知れない。人事部長とか中間管理職が間に入ると事前の約束が反故にされたり、認識の違いという表現の下でストーリーがころころ変わるのはこれまでの経験でイヤというほど痛感している。決定者との話は良くも悪くも時間を無駄にしないし、入社後にキャラ変する圧力をかけられる事もない。

面談をする以前に先方はこちらの簡単な職務履歴を見ただけで既に感じるものがあったようで会話は採用前提で進んだ。この会社はまだベンチャーであるが、TV番組の「ガイアの夜明け」でフューチャーされたり、大手電装機器メーカM電機のコンサルティングを請け負っていたりと成長著しい様子だった。これに加えて、海外事業に力を入れているところから僕にも役目や、やりがいが感じられるかも知れない。フワっと腰が浮きそうになる。「いいか、カズヤ。都合の良いストーリーに浸るなよ」もう一人の自分が呟く。

なんと社長は一度インドに来て直接話したいとまで言ってくれた。

おいおい、三国志の「三顧の礼」か。俺、チョーシ者やからやめてくれよ。過去に男に弄ばれた女が必要以上にガードを固めるかの如く、ふ、ふーんって感じで余裕をカマす。採用は役員待遇との話になり、転職エージェントは外して直接交渉のテーブルにつく事になった。

 結局、先方のインド出張の時期は僕が別の来客のアテンドでタイミングが合わなかった為、インドでの面会はかなわなかったが、その1か月後に日本への出張を予定していたのでそれに合わせて彼らの事務所で顔合わせする事になった。

 ここでの出来事が自分のこれまでの仕事に対する価値観を一変する出来事になった・・・。

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