大野さん川口駅マラソン駅立ち_20190821

2019年埼玉県知事選挙 (前編) - 勝敗を分けた3つのポイント -

昨日(2019/8/25)、埼玉県知事選挙にて大野もとひろさん当選しました。

1人の埼玉県民として、そして1人の立憲パートナー(いわば、年会費500円でゆるく立憲民主党に関われる準党員)として、大野さんを私は応援しました。

当選を争う二強とされたのが、青島けんたさん(無所属、自民党と公明党の推薦)と大野もとひろさん(無所属、国民民主党、立憲民主党、社会民主党、共産党が支援)であり、与野党ががっぷり四つで対決する構図が実現した県知事選挙となりました。

今回の前編では、埼玉県知事選挙で勝敗を分けたポイントと私が感じたこと、次回の後編では、厳しい選挙を勝ち抜けたとはいえ大野陣営ひいては野党の課題と思われたことを、記憶が新鮮なうちに、以下に整理したく思います。

申し遅れましたが、私は2003年、2011年、2015年の統一地方選で泡沫候補とされた新人や無所属の陣営にて戦略の策定と実行を担当し、2011年と2015年では陣営の事務局長を担ってきました。これらフルコミットした3つの選挙は幸い全勝しました(うち上位当選2回)。2017年秋に立憲民主党の結党があり、以来同党の応援に一市民として参加しています。2018年10月に市民目線の政策研究会である「立憲パートナーズ社会構想研究会(社構研、非公式)」を呼びかけ、毎週の定例会合等で、メンバーの立憲パートナーの仲間たちと意見交換をしたり、政策の研究や提言等を行なっています。

今回、1人の埼玉県民として関わった埼玉県知事選挙を通じ、日本の選挙にはまだまだ未知の領域があると感じました。ツイッターやオンライン情報では見えてこない、地元ならではの様々の気づきをお話しできればと思います。県外からの解釈が、県内で必ずしも当てはまるともいえないことも見受けられたことも、今回急いで筆をとった一つの理由です。

埼玉県知事選挙で勝敗を分けたポイント

目次にしますと、3つあります。

1. 候補者が十分な資質を持っていた。

2. 数字に基づいた選挙を行った。

3. 県民そして所属がまちまちの議員も一丸となって闘えた。

以下に見ていきます。

1. 候補者が十分な資質を持っていた。

大野さんは大学院にて国際関係学の修士号を修めた後に1989年に外務省に入省し、2010年から2019年は参議院議員でした。ご専門の危機管理や安全保障に留まらず、参議院議員時代に議員立法を多く手掛けてこられました。

ことに選挙で重要なのは、「候補者として、選挙に立つ地域になじんでいるか」です。大野さんは埼玉県川口市のご出身で、現在も川口市民です。それ以上に、埼玉をテーマとした映画の「翔んで埼玉」「のぼうの城」等、ご当地文化を常に意識した発信を貫かれました。

埼玉政財界人チャリティ歌謡祭という埼玉県の奇祭があります。正月にテレビ埼玉で放送される埼玉限定の紅白歌合戦のようなもので、一部の県民やアングラ好きなネット民の間で、キワモノを楽しむような不思議な熱狂を毎年生んでいます。個人的には私は、いかんせん、はじけすぎたイベントなので、「やりすぎだ」といつか打ち切られないかと心配していました。

ところが、県知事選というひのき舞台で、大野さんは好んで #埼玉政財界人チャリティ歌謡祭予選 というハッシュタグをツイッターで用いて、県民の心と共にありたいとの姿勢を選挙戦で貫かれました。

正直、これは賭けだったと私は思います。「県民の命と財産を守るトップリーダーを選ぶ県知事選なのに、おふざけが過ぎないか」とのお叱りの声が寄せられるリスクと、一部のキワモノ好きな県民に深く刺さって生まれる熱伝導が口コミを広げていく効用を、おそらく大野陣営では天秤にかけたのではと思います。

ただ、埼玉県民はキワモノが好きなのです。埼玉政財界人チャリティ歌謡祭の奇祭っぷりは、名前の通り、出演する埼玉政財界の有力者たちが生み出していて、埼玉県内ではお正月に欠かせない名物イベントです。よって、選挙にダメージを生むようなお叱りが、埼玉愛ある県民から入りようもないと、陣営は踏み切れたと思います。

よって県民研究と県民理解の深さが、全候補者のうちで突出していたのが大野さんでした。

「候補者として、選挙に立つ地域になじんでいるか」は、日本の選挙で普遍的に共通する課題と思います。落下傘であれ、またはUターンであれ、選挙に立つ地域になじんでいない候補は、現地で演説風景を見ても、ツイッターやYouTube等の発信を見ても、地域に溶け込めていない感じがどこか出てきて、候補者は地域から浮きます。何か地域にしっくりこない感じを、無意識下であっても、有権者は敏感に気づきます。

ご当地意識」といえば穏やかな表現になりますが、ズバリ言えば、ツイッター界でいう「地域ナショナリズム」です。2018年9月の沖縄県知事選も歴史的な激戦となりましたが、当選した玉城デニー現知事は、沖縄県民の地域ナショナリズムに訴える力が相手候補をはるかに上回っていました。維新も地域ナショナリズムに訴えられる関西では強いのです。なおウィキペディアでは「地域主義」と表現されています。

ですが、ご案内の通り、地域ナショナリズムは例えばバスク独立運動のように、テロ活動を起こすほど先鋭化してしまう場合もあり、「もろ刃の剣」でもあります。手放しに「うちの陣営は落ちそうだから、当選するために地域ナショナリズムを煽ろう!」と候補者や陣営が飛びつくのは安易であり、危険な面が大きいことの留意も不可欠です。玉城デニーさんや大野もとひろさんのように、地域ナショナリズムの取り扱いは、終始、穏健に抑制的にあるべきです。ご本人たちはあくまで自然体であって、ことさらに地域ナショナリズムという意識でいらっしゃらないかもしれません。ただ、地域ナショナリズムに訴求しない候補者は、決して有権者から「おらが県の代表だ」と思ってもらえず、地域に溶け込めず、なじめず、浮き上がってしまうのです。

そして、青島けんたさんは埼玉県民がもつ地域ナショナリズムの琴線に触れることが県知事選ではあいにくほとんどできていませんでした。確かに小学校から高校では草加や春日部に住み学ばれましたが、生まれは新潟県で、今は都内在住です。いかんせん「官邸から埼玉に送り込まれた著名人」の枠を出ることはできませんでした。「野球解説者なら誰でも知事になっていいのか」と擁立プロセスを疑問視する声も今回現地で聞かれました。

いかんせん青島さんも、周囲にいる埼玉自民の方々も、準備不足であることが明らかでした。例えば、青島さんは大宮での演説にて、サッカーの日本代表やレッズの試合が行われる埼玉スタジアムの多目的化を提案してしまい、この失言で浦和レッズファンと大宮アルディージャファンに「サッカーをわかっていない」「埼玉をわかっていない」と大きな不興をかってしまいました。投票日当日は、候補者名はあげないものの「埼スタを守りたい」との趣旨のツイートをする人も見受けられました。「周囲は本人にアドバイスできないのか」と嘆くツイートもありました。

青島さんには菅官房長官や二階自民党幹事長らが応援に入り、いわば「中央政界の強大なゾウ V.S. 小さな抵抗者となる埼玉のアリたち」という図式になりました。

...あれ?この図式は、どこかで見たことが... 

既視感を覚えていたら、そうです。

埼玉を舞台にした歴史映画「のぼうの城」です。

豊臣家から20,000人の大軍で送り込まれた石田三成軍に対し、忍城(現在の埼玉県行田市)で500名の坂東武者たちが立ち向かい、負けなかったのです。

今回の県知事選は、現代版「のぼうの城」となりました。

「翔んで埼玉」も、東京に通行手形の利権で蹂躙される抵抗者たちの物語です。

埼玉県は地味なイメージですが、自然も人口も経済も豊かな県です。

そこで、自民県知事時代では利権で汚職が起こって辞任という歴史もありました。

中央から送り込まれた県知事になると、県の富が吸い上げられるのではないか。「官邸とのパイプで県を発展」というが、そのパイプは埼玉の富を吸い上げるためのパイプなのではないか。

埼玉県民の間に「自分たちはなめられているのか」との思いがふつふつと生まれていきました。

候補者の資質では、下記の発信も波紋を呼びました。

車椅子ユーザーに候補者は上から見る姿勢でなく、できる限り腰を地面近くにぐっと落として、相手に合わせた目線にするのがエチケットです。候補者に限らず、一般人の私たちも日常から心がけたいところです。ですが、青島さんは「政治を意識し始めたのは五十歳を超えた頃」(東京新聞、2019.8.11)であり、準備不足すぎたと多くの県民は受け取めました。

そして、青島さんを支えた周囲の埼玉自民の方々が、車椅子ユーザーへの接し方をアドバイスできていたのか。さらには、それをツイッターで発信してしまうことに「待てよ」とならなかったのか。

私は、埼玉自民に所属するお一人お一人には、もちろん何のうらみもなく、素晴らしい方々と思っております。ぜひご一緒に埼玉そして日本をよりよくできればと思います。

ですが、埼玉自民という組織としては、上田清司知事が街頭演説で「なんで自民党は青島さん(のような準備不足の人)を連れてきてしまったのか。演説をする自分がいる場所が大宮駅の西口と東口のどちらかわかっておらず、それを間違えて聴衆に呼びかける人が、知事になってはいけない。周囲は何をしているのか」と激おこされたように、知名度はあっても、明らかに政治の素人さんを連れてきてしまった稚拙さは否めませんでした。

「埼玉県民をなめるな」という地域ナショナリズムの火は、選挙戦を通じて日々大きくなっていきます。

胆力を持ち、中央のいいなりにならない埼玉を築き上げてきたタフガイの上田知事。

そして、その継承と発展を訴え、やはりタフガイの大野さん。

大野さんは埼玉県民の地域ナショナリズムの燃え上がりに一番応える、心身ともタフな候補者として、選挙戦を勝ち上がっていきました。

2. 数字に基づいた選挙を行った。

大野もとひろさんの今回の選挙スタイルは、通常の知事選から見たら異例だったと思います。

通常ならば、県知事候補は県内各地を街宣車で回り、できるかぎり各地の駅前や商店街、スーパーマーケット等の前で遊説をし、支持団体回りをし、各地会館や大ホール等で演説会というのが定石と思います。

ところが、これは埼玉県知事選の特殊事情なのですが、元土屋知事が汚職で2003年7月に辞任に追い込まれ、急遽知事選が行われたのが2003年8月でした。以降、4年ごとに8月に知事選が行われるのが埼玉県なのです。

ですが、8月は広島・長崎の原爆の日、終戦の日、そしてお盆があり、喪に服して先祖を祀る時期です。その時に、県知事選だからといって街宣カーで大音量を出して各地を露出最優先でみだらに回ることは政治としてはどうかとなります。

朝8時から夜20時まで12時間、駅立ちを続ける。これならば8月のお盆休みを住宅街や農村部でお騒がせすることは回避できると思えます。とはいえ、一見「立っているだけでしょう?」と見えますが、演説を続け、握手をし、ご挨拶を12時間続けるのは、もしかしたら街宣カーで県内回りをするのと、同等か、それ以上にタフさが求められるかもしれない、と今回気づきました。

街宣カーでは車内の様子はなかなか外からはわかりませんが、駅立ちでは終始県民の前にすべてが透明にさらされつづけるという独特の重圧もあります。不意に呼び止められてきびしい質問がいつ飛んでくるかもわかりません。もちろん街宣カーにいても常に集中力を切らせませんが、駅立ちもかなりの集中力が常に必要ではと今回思えました。カーエアコンがある街宣車と違い、駅立ちではエアコンはありえません。炎天下でも、屋根がなく熱中症リスクが高い中で、真っ黒になって続ける必要があります。いきなり夏の豪雨に直撃されることもあり、不意の風邪や体調不良に候補者やスタッフが襲われるリスクもあります。

大野さんは「正直、ヘロヘロです」とおっしゃりながらも、握手できる県民の姿を見つけたら、ダッシュしてそばにいき、目を見ながら握手を交わし、リラックスした目線で県民一人ひとりと対話をされます。「街宣車から上から見下ろすのでなく、県民と同じ地べたに立ちたかった」と大野さんは訴えられました。対話の機会が街宣車回りより格段に多く持てるのが駅立ちなのは確実です。

ただ、12時間一つの駅に県知事候補が立つことは、8月というお盆や終戦の日があるからこそ採れる、唯一無二の選挙戦術というように私には思えなくもありません。もちろん上田知事も、参議院議員時代の大野さんも、県内をくまなく日常から回っておられました。さりながら、「選挙期間中に候補者の姿を見る機会が、うちの地域ではなかった」と吐露するツイートが今回見られました。

知事就任後に、各地回りを日常からされる中で、大野さんと直接握手したいという県民の方々の思いに、よりお応えされる機会が増えることを、私は僭越ながら、願っております。

さて、数字に基づいた選挙というお話ですが、選挙プランナーとして大野陣営に軍師に入った松田馨さんは、数字やマーケティングに精通されています。その方を私は以前から存じており、松田さんが軍師とお聞きした時、「全国的にも、こんなハイリスクな選挙のお仕事をよくぞお受けくださった」という驚きと、感謝の思いと、「大野陣営としては、日々数字の押さえを緻密にやっているはずだ」という安心感を感じました。

大野さんが12時間マラソン駅立ちを選ばれた駅に関連して、2019年3月の埼玉県内鉄道駅の乗降客数です。以下は「リアルさいたま」より引用です。

順位 駅名 乗降客数
1位 JR大宮駅 500,958人
2位 JR浦和駅 175,300人
3位 東武和光市駅 172,336人
4位 JR川口駅 164,650人
5位 東武朝霞台駅 161,320人
6位 東武新越谷駅 150,581人
7位 JR南越谷駅 146,570人
8位 JR北朝霞駅 138,262人
9位 東武大宮駅 135,437人
10位 東武川越駅 126,600人

上記の駅は、大野さんの12時間マラソン駅立ちで多くカバーされ、見事に大野陣営が意識していたと思えてくるのです。

そして、埼玉県内の自治体別人口のトップ10です。下記は埼玉県庁「令和元年7月1日現在人口と6月中の異動人口」からの引用です。

市町村名 総数(人)
1 さいたま市 1,305,943
2 川口市 591,874
3 川越市 354,264
4 越谷市 345,183
5 所沢市 341,390
6 草加市 250,659
7 春日部市 229,957
8 上尾市 225,795
9 熊谷市 195,911
10 新座市 163,939

よって、12時間マラソン駅立ちという地上戦(相手が見えるコミュニケーション)をし、口コミやSNSで広範の県民に拡散していく空中戦(不特定多数へのコミュニケーション)を組み合わせていったのが、今回の大野さんの闘い方だったのではと私には思えます。インターネットの力もフル活用だったのです。最後の三日間(8/22木曜日から8/24土曜日)の追い上げにツイッターの効果的な発信がなされ、YouTube動画も貢献しました。

しかし、大野さんは人口ランキング上位の県南の自治体ばかりを見るのでは決してなく、選挙の第一声を秩父でなさり、きちんと川上戦略をお取りになっているのです。

選挙に弱い陣営は人口の多いところばかりに目が奪われ、農村部を放置してしまいますが、大野さんは真っ先に秩父に入られたのです。お訴えでも県北や秩父を意識され、県全体のバランスを志向されていることが伝わってきます。

3. 県民そして所属がまちまちの議員も一丸となって闘えた。

上記でもご紹介しましたように、青島陣営が自民県議や市議、そして国会議員で揃っていたのと対照的に、大野陣営に参加する人々は、自民から共産まで所属まちまちの議員、さらには落選中の議員、全盲の視覚障害者、そして私たち県民と、いわば雑兵集団でした。

ですが、秋田県で7月参院選で当選した寺田静参院議員が説かれるように、「大きな象もアリが束になってかかれば、倒すことができる」。

大野さん自身は12時間マラソン駅立ちで県南回りを中心にしつつ、連携する地方議員や県民の方々が、別働隊となって、県内各地にて状況を配慮しながら街宣車を回したり、チラシを配布するなど、同時多発的な多地域活動になっていったのです。

もちろん、上田知事そして県内首長、経済界の方々の動きも精力的だったことは、明白だったと思われます。

今回大野さんの陣営に多くの自民党員の方々が加わっていたと8月24日の川口のマイク納めや8月25日の開票速報の会場で実感しましたが、埼玉自民の中でもケンカに強い人たちが、こぞって大野さん支持に回ったのではと私には見えました。

そして、国民民主党、立憲民主党、無所属等、所属まちまちの議員の方々が応援弁士としてマイクを持ちました。野党共闘は見事に機能していたように感じました。

玉木雄一郎国民民主党代表はじめ、応援弁士にお見えになった国会議員の方々が、率先してビラ配りをなさるとの見せ場も、埼玉県知事選挙ならではの魅力と感じました。

下記は私が現地参加した限りですが、ペリスコープによる中継録画集です。

立憲民主党政調会長の逢坂誠二さんは、「勝つ候補者に集う支持者は、思想信条でまちまちや両極端になるが、それをまとめてこそ政治家」との趣旨のお話を、先日の都内の勉強会で語られていました。

そして、現場の切り盛りでは枝野事務所から送られた方々も尽力しておられました。枝野代表としても、立憲埼玉としても、全精力をかけていたと思われます。

今回、埼玉県知事選挙で勝敗を分けたポイントと私が感じたことを、1県民の目線でお話しいたしました。

次回の後編では、厳しい選挙を勝ち抜けたとはいえ大野陣営ひいては野党の課題と思われたことを、お話しできればと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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