新潟県知事選挙の敗戦の検証(4) - 現代日本の都会の孤独はネトウヨを生む -
今回は、検証(3)の文末で申しましたように、ポスター、選挙公報、そして一番重点的には、いわゆるネトウヨ向け応援演説が示唆するものについて、ご一緒に考えたく思います。次回は検証(5)は最終回として「真の野党共闘とは」とのテーマで、今後の日常生活や選挙に向けて何をすべきかを予定しています。
今回、ポスターと選挙公報を取り上げる理由ですが、街宣やツイッターと違い、県民全員の目にとまる確度がかなり高いからです。
ポスターは県内各地に掲示され、選挙公報は原則として全戸配布です。
よって、ポスターと選挙公報は当落を致命的に左右するので、練りこんだ戦略で、万全に対策しておかねばならないのです。
まず、ポスターについては、選挙ウォッチャーのちだいさんがすでに解説されている通りで、ここでは多くを申しません。下記に引用します。
急な選挙となり、どうしてもあまり練れない中で、ポスター入稿をせざるを得なかったご事情もあると思いますが、下記のちだいさんのご指摘のように、「投票すべき必然性」のプロデュースが甘くなってしまった懸念が残ります。
最初から自民党に投票する人や、最初から共産党に投票する人は、どんな候補が立っても投票先は変わらないので、選挙で訴えるべきは「一応は投票に行くけど、その時のノリで良さげな人に投票する人」になります。そして、そういう人たちが誰に投票するかを決める際、一番の決め手となるのが「ポスターのデザイン」です。
もっと成熟した国家なら、きっとそんなことは起こらずに政策を読み込んで決めるんでしょうけど、日本では今なお多くの方が「フィーリング」で決めているということを忘れてはなりません。
そのような観点で見た時に、花角英世さんは「元新潟県副知事」という肩書きを引っさげ、QRコードを配し、「県民信頼度ナンバーワン」の根拠はさっぱりわかりませんが、とにかく信頼されている感を自称し、本当に良い人なのかどうかはさておき、なんとなく立派そうに見えます。対する池田千賀子さんのデザインは原発をなくしたい気持ちこそ伝わってきますが、この人がどれだけ立派な人であるかの裏付けがポスターには書かれていません。フィーリングで投票する人は「なんとなく良さげ」な人に投票するわけですから、このポスターを見比べた時に花角英世さんに投票してしまうのは言うまでもありません。つまり、最も重要なポスターのデザインさえ、これだけ戦略が考えられていないのですから、それ以外の部分でも戦略が考えられていないのがよくわかります。
ポスター紹介で期待されたのは、例えば地方行政と地方政治の現場に37年で経験が申し分ないことや、東京に人も金もエネルギーも吸い込まれるパイプがいいか、県民と県知事とのパイプを強くするか、さらには、脱原発後の未来に向けた転換等を、万全に練ったキャッチコピーで伝えることと思います。もちろん「新潟のことは新潟で決める」は必ず入れます。
ことに私が注目していますのが、池田ちかこさんが柏崎市議時代に副議長をされたことです。
ご案内の通り、地方議会において、議長は自民党で、副議長は公明党か、いわゆる野党会派が担うことが多いです。ですが、その野党会派の中から、女性議員である池田ちかこさんが推薦され、議会で合意されたというのは、全国でもまだまだ少ない、画期的なご経歴と思います。
遊説でどんなにきつい場面が続いても、あのように冷静沈着な語りをされて、落選後の記者対応でも毅然とした姿勢を保ち続けられたのは、副議長をされていたのも大きいのではと思いました。池田ちかこさんは資質十分の稀代のリーダーなのです。
とはいえ、池田ちかこさんのポスターデザインでは、細かいですが色も気になりました。
オレンジは確かにアルビレックス新潟や新潟名産品の柿の種のカラーなので、新潟ゆかりという面もあるかと思います。
しかし、落ち着いた立憲ブルーの方が、有権者には安定感ある候補者との印象を与えられたかと思います。
事例で申しますと、先の京都府知事選は、もし立憲民主党が相乗りに参加しなければ野党候補が勝っていたと私は見ていますが、野党候補の福山和人さんを共産党が応援しました。福山さんが立憲ブルーで戦ったのも、相乗り候補に肉薄できた見えない隠し味だったと思います。例えば下記の街宣車も立憲ブルーです。
陣営がオレンジ一色を打ち出し続けたのに違和感を唱える方を今回よく拝見しました。
確かに陣営メンバーがオレンジ一色は一体感を打ちだせてわかりやすいですが、支持者にオレンジ一色を求めるのは、内輪で盛り上がっているのかと一般有権者からは解されてしまいます。むしろ支持者の多様性を打ち出す方が広がりがあります。
そして、選挙公報ですが、こちらのようになっています。
選挙公報は、有権者によっては相当時間をかけて読み込む人もいます。または数秒で読んで決めてしまう人もいます。
とはいえ、いずれのタイプの有権者にもまずいなと私が感じましたのは、池田ちかこさんの自己紹介文の中で「私には特別な才能は何もありませんが」とご謙遜の下りを拝見したことです。
この箇所は有権者の目に止まってしまいます。
「特別な才能がないんなら、自信がないのか? ならば県知事への投票はできない」という判断も少なからず発生し、ことに仕事に厳しいタイプの人は、ためらいを感じてしまう箇所になったと思います。
選対の方々は「もっと特別感を出し、選ばれる必然性ある言葉を一言一句まで練り込む」という観点で、選挙公報づくりを徹底せねばならなかったのではと思います。
池田ちかこさんは、特別な人物です。白羽がたった必然性がある方なのは明白です。
かえすがえす、ポスターそして選挙公報の力不足が悔やまれます。
そして、いわゆるネトウヨ向け応援演説が示唆するものについて、以下に申します。これは、実は背筋が寒くなる仮説であり、そうあってほしくないと願いたいのですが、「現実は野党共闘にますます不利になり始めている」という指摘であり、対策をせねばとの次回原稿での提言につながります。
まず、選挙の最終局面でいわゆるネトウヨ向け応援演説を花角陣営は次々に繰り出しました。
ちだいさんは「花角陣営スタッフの見識を疑う」との趣旨のツイートをされました。
ところが。
新しい現実が投開票後にわかってきたのです。
下記のはるさんのツイートを拝見した瞬間に「何か異変が起こっている」と感じました。
いわゆるネトウヨ議員の投入は、決して花角陣営の血迷いではなかった。
選挙に必ず勝つための合理的判断だった。
与党陣営の現地のコントロールタワー(司令塔)として、選挙参謀である選挙プランナーの三浦博史さんは、新潟県内ことに新潟市の住民統計を精査して、新潟市の中心部は人口が多い割に単身世帯が多いと気づかれたのだと思います。
ネトウヨとはネット右翼の略であり、昭和では滅多に現実社会(リアル)には現れませんでした。当時の自民党で冷や飯を食い続けた石原慎太郎らがたまに右翼的発言をすると、マスコミは失言扱いしました。自民党で歴代の総裁を出してきた、穏健な保守本流の宏池会の人たちから冷たい目線を送られるのが関の山でした。
それが今や、ネトウヨは現実化し、実社会に出現しています。
例えば居酒屋で隣のテーブルからとんでもない嫌韓や嫌中の話が聞こえてくるという場面を体験された方は、今や少なくないかと思います。
先日私は、東京から帰る夕方の通勤電車にて、回りくどく婉曲表現ながら、ご勤務先の中国人同僚の悪口を話すサラリーマン二人の会話が聞こえてきました。
「ああ。この人たちもネトウヨだなあ」と私は感じたのです。
第二次大戦前、ワイマール憲法という世界でも民主的な憲法を持ったドイツにて「自由から逃れたい」とヒトラーという独裁者の支持に人々が走った現象から、心理学者のエーリッヒ・フロムが執筆した『自由からの逃走』という、大学生にはおなじみの本があります。
ですが、その現象は現代日本で再来しつつあると考えます。
現代日本の都会の孤独はネトウヨを生む。
そして、新潟市の中心部です。
転勤族のサラリーマンが多い地域で、このご時世、未婚の人も多い。
(6/16 3:20am追記:先ほど新潟在住との方から「転勤族という見立ては違う。県内から通勤・通学の時間短縮や、豪雪時の確実な移動のため賃貸物件を借りる人が多い」との貴重なご指摘をされるツイートを偶然拝見しました。むしろ、まだまだ新潟市が大都会とはいえ人のつながりが強いこと、佐渡出身で新潟高校出身という花角候補のご経歴により、出身校ネットワークで党派を問わない支持を得たのが当選で決定的だったことと、新潟は社民でなく保守でないと決して勝てないとのご指摘もツイートされています。この場をお借りして、貴重なご指摘を、心から、ありがとうございます。一方、考え続けているのですが、なぜ花角陣営が最終局面でいわゆるネトウヨ議員の方々をあえて集中的に投入されたのか、謎が残ります。各地でも世代を問わずネトウヨ化が進んでいるとの声を拝見しており、より多面的な情報を知りたく存じます。今後にもしネトウヨ議員の方々が各地選挙に引っ張りだこになって勝利が再現されたら、各地もネトウヨ化が進んでいるという仮説も考えねばならないのかと私は悩み続けています。)
会社から帰宅してからネットざんまいとなって、打ち込めるものの一つがネトウヨ情報あさりという人も中にはいらっしゃるかと思います。
そこに、ネトウヨ議員の方々が県内にやってきて、演説してくれる。
正直に、彼らとしては無上の喜びでしかありません。
わざわざ身バレするリスクを冒して、ネトウヨ議員の方々の遊説現場に行かなくていいのです。
県内の風景をバックに、ネトウヨ議員の方々が遊説する映像を、YouTubeで家で静かに見て感動に浸れていれば、もう十分です。
花角一択になるのです。
応援演説は、もはや番組収録です。どんどん拡散していきます。
これは、池田陣営、立憲民主党はじめ野党各党には、これまでの選挙戦略を根底から覆す衝撃的な現象です。
「しがらみのない大都市中心部の住民は、人口ボリュームが大きく、政権批判票をかなり期待できる」との見立てが根底から覆るからです。
昭和で社会党、平成で日本新党や民主党の躍進を支えたのも、大都市中心部の有権者たちだったのです。
投票後に多くの方々が指摘を始めていますが、ネトウヨ有権者の方々が大都市中心部でかなりのボリュームとなってきていて、与党候補を応援する。
この仮説を花角陣営にて、選挙プランナーの三浦博史さんは立てて、仮説を検証したいと、ネトウヨ議員の方々の応援演説を二階幹事長に打診したのではと思われます。
二人とも合理主義者であり、仮説検証を新潟県知事選にて行い、仮説は正しかったことが立証されたのが選挙結果だったと感じるのです。
確かに、二階幹事長も、三浦博史さんも、選挙前から「投票率が上がったら不利になる」という不安を強く抱かれてきたと思います。
結果、前回投票率の53%を上回った57%(速報値。最終確定値は58.25%)でも、しっかりと無党派を開拓して、与党は勝ち上がったのです。
次回は新潟県知事選挙の敗戦の検証の全5回の最終回となる「真の野党共闘とは」について、ご一緒に考えます。
(6/16 23:00追記) 古谷経衡さんは下記の貴重な指摘をされており、賛成です。確かに、今回いわゆるネトウヨ議員の方々の投入という強烈なイベントはありましたが、私もこの五回の検証にわたって総合的な視点が必要と申しております。