ぼくとまとめサイトさんの3650日戦争③~依存症克服編前編~
前回のあらすじ
おねむのましふは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の2ちゃんねるまとめサイトを除かなければならぬと決意した。おねむのましふにはネット依存症の克服方法がわからぬ。おねむのましふは、怠惰で弱い人間である。中学・高校・大学の貴重な時間をまとめサイト閲覧に費やし、灰色の人生を送って来た。けれども時間の大切さに対しては、人一倍に敏感であった。セリヌンティウスはなんj民だった。
そして始まるまとめサイトとの決別の戦い
果てしない時間をどぶに捨て、とうとう正気を取り戻した私は思いました。まとめサイトを見るのはもうやめよう。こんな生活はもうこりごりだ、明日からはまっとうな人間になって毎日を誇れるように過ごそう。そうかたく胸に誓いました...
意志の強さでは解決できなかった
「明日こそはもう見ないようにしよう」
何度同じ決意をした事か、何度同じ誓いを立てたことか。
惨敗です。薄々気付いていましたが、私の意志は鉄ではありませんでした。そりゃそうですね、鉄の意志を持っていたら私はこんな文章を書いていません。そんな意志を持ち合わせていたら、今頃私はメディアに引っ張りだこの若き起業家として名を馳せていたでしょう。若き起業家は生まれるはずもなく、ここに存在するのはマシュマロの意志を持った大学院生です。
「もう見ない」という意志だけではまとめサイトに対抗できませんでした。何か別のアプローチが必要です。
私は次の作戦に出ます。「具体化」です。脳というものは念じるだけで願いを叶えてくれるほど優秀ではなく、やるべきことを具体的に設定しなければ、何をすればいいか認識してくれません。
ダイエットと同じですね。「痩せるぞ」と思うだけでは何をすればいいかわからず、いつまでたっても痩せることはできません。「摂取カロリーより消費カロリーを多くするために、1日1600kcalに抑えよう」とか「週3回は筋トレを行おう、月曜日は上半身、水曜日は下半身、金曜日は上半身」など、具体的に何をするか設定してやることで、脳はやるべきことを想像しやすくなり、動けるようになるというもんです。
ということで自分なりに色々と具体的なルールを設定して対策をとってみました。いきなり全部やめるか徐々にやめていくか悩みましたが、いきなり全部やめようとして前回失敗したので、今回は後者を選択しました。少しずつ減らしていこう作戦です。
① 1日1時間までにしよう。Appの使用時間制限機能を使ってSafariの閲覧時間を制限しよう。(Safariから検索してまとめサイトを見てました)
②1週間のうち金曜日だけ見ることにしよう。その日以外は絶対に見ないようにしよう。
2パターンのルールをつくり、自分に適している方を続けようとしました。これならできそうですね。
「ルールは破るためにある」。私のまとめサイトへの愛の前では、ルールなんてものは簡単に崩れ去っていきました。
1日1時間?
時間が来てロックがかかると私は即座に「終日許可」をタップします。
金曜日だけ見る?
そのままの流れで土日も見続け、流されるままに平日に突入します。
いくら辞めようと思っても、ルールを設定しても、スマホを手に取り「暇人速報」と検索してしまう。不定期に更新された記事を見ては乾いた笑みを浮かべ、「また意味のない時間を過ごしてしまった」と後悔し、自責の念に苛まされる。それでもまた同じ過ちを犯してしまう。
そう、私のまとめサイト閲覧行為は完全に依存症の域に達していました。
Q.依存症ってなに?
A.特定の何かに心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態になることです。
人が「依存」する対象は様々ですが、代表的なものに、アルコール・薬物・ギャンブル等があります。
このような特定の物質や行為・過程に対して、やめたくても、やめられないほどほどにできない状態をいわゆる依存症といいます。
厚生労働省 依存症についてもっと知りたい方へ
2020/9/9 参照
依存症に関する科学的な知識を学んだ
自分の意志や独自ルールでは解決できないと悟った私は、依存症についてしっかりと調べ始めます。
依存症については頭の良い学者さんがたくさん研究をしてくれています。図書館の本やネットのサイトでひたすら調べまくりました。
なぜ人は依存症になってしまうのか、そこには「ドーパミン」と「オペラント条件付け」、「部分強化」が関わっていることを知りました。
ドーパミン
神経伝達物質の一つで、快く感じる原因となる脳内報酬系の活性化において中心的な役割を果たしている。アルコールを飲むことによって快く感じるのは脳内の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するためと考えられますが、この報酬系ではドーパミンが中心的な役割を果たしています。アルコール・麻薬・覚せい剤などの依存を形成する薬物の多くはドーパミンを活発にする作用があり、そのために報酬系が活性化するので、これらの薬物を使用すると快感をもたらすと考えられます。
厚生労働省 e-ヘルスネット ドーパミン
2020/9/9 参照
ドーパミンは簡単に言うと「期待」のホルモンです。「やる気」のホルモンとも言われています。なにかいいことがありそうだぞ?と思うと脳内で出てくるホルモンです。
ドーパミンが放出される場面として身近で想像しやすいのは、
①お母さんが四角くて白い箱を買って帰ってきてくれると「何だろう?ケーキかな?シュークリームかな?」とわくわくする
②宝くじを買い、当選番号をネットで調べてる最中に「当たるかな?外れるかな?」とわくわくする
③スロットでリーチがかかった時「これは...くるか?」とわくわくする
などが挙げられます。
私の場合はまとめサイトで「何か自分の知らない知識は出てこないかな、面白いことはないかな」とわくわくしている間にドーパミンが放出されていました。
このドーパミンの特徴は、報酬を得られたときに放出されるのではなく、報酬が得られそうだと予想した時には出てきてしまうそうです。つまりワクワクしている瞬間には放出されてしまいます。
また、厄介なことにドーパミンに対しては耐性ができてしまうため、以前と同じドーパミンの量(正確に言うとドーパミンとドーパミン受容体の結合数らしいですが)では満足できなくなり、よりドーパミンを放出させる行動を繰り返させるようになってしまいます。
オペラント条件付け
報酬(喜)や嫌悪刺激(罰)を適応して、自発的な行動を学習させる条件のこと。行動主義心理学(科学的に行動を誘導できるという心理学のアプローチ)の理論のひとつでもある。
UX TIMES オペラント条件付け
2020/9/9 参照
オペラント条件付けの有名な実験としてスキナー箱があります。
①まず箱の中に絶食させておいたネズミを入れる。
②ブザーが鳴ったときレバーを押すとエサがもらえるようにしておく。
③すると、次第にネズミはブザーの音に反応してレバーを押すようになる。
④ブザーが鳴った直後にネズミがレバーを押す頻度が増加していく。
この実験の結果を要約すると、
「ある行動によって報酬がある時、その行動をより行おうとする」
という感じですね。
また、その行動の頻度がどのような時に変化するか確かめるために
①レバーを押すと必ずえさが出てくる条件(完全強化)で放置
②レバーを押すと時々エサが出てくる条件(部分強化)で放置
⇩
③レバーを押してもエサは出ない仕組みにして両方のネズミを放置
という条件実験をした際、②のネズミは①のネズミよりレバーを叩く時間が長かったという結果が出ています。これは、「今回は貰えなかったが、次こそは貰えるかもしれない」という期待からレバーを押し続けてしまうものです。
パチンコ・スロット系はまさにこの「オペラント条件付け」と「部分強化」をうまく利用して依存者を生んでいますよね。
他にも、ケーキ屋に行く→甘いケーキを食べて快楽を記憶→後日ケーキ屋の前を通り看板を見る→脳がケーキを食べたときの高揚感を思い出し、ケーキを食べたくなる衝動が発生→ケーキ屋に吸い込まれる などもこの例に近いのかもしれません。
ドーパミン・オペラント条件付け・部分強化、これらが組み合わさることで依存はより深刻になっていきます。終わりなき快楽探求行動はこういうプロセスを辿って形成されるんですね。
宮城県政だより2010年12月号
2020年9月9日 参照
(専門家の方から見たら微妙に違う箇所もあるかと思いますが、私が調べて学んだことをつらつらと書かさせて頂きました)
まとめサイトをやめられなかった理由
私がまとめサイト閲覧をやめられなかった理由がこれで少しわかりました。
まとめサイトの記事を読むことで、今まで知らなかった新しい知識を得たり、下らなく面白い応酬で笑ったり、きれいなお姉さんの画像に癒されます(ドーパミン発生)。まとめサイトを何回も繰り返し見てドーパミンが発生することで「まとめサイトにアクセスするといいことがある」と脳が学習します(オペラント条件付け)。そしてまとめサイトは不定期に記事を更新してくれます(部分強化)。更新された沢山の記事にはクリック欲を刺激してくるタイトルがつけられており、私は面白さを期待してその記事をクリックします(ドーパミン発生)。実際何個かに1個はとても面白い記事が存在します(部分強化)。
そりゃはまりますよ。こんなにも人間の脳を刺激する仕掛けが満載なんですもの。はまらない方がおかしいですよ。(自己正当化)
さて、皆さんやりましたね、敵の正体が割れました。でもここで満足してはいけません。なぜなら、まとめサイト閲覧をやめることが私のゴールなのですから。なにか新しい対策方法が必要です。それは意志や独自ルールではありません。何せ惨敗したので。
次回、まとめサイト依存症克服編後編